遠い日の過去
白い、白い、部屋。
―――――――周囲がすべて白だ。
静かな、静かな部屋。
――――――――無音、静寂。
独り、独りの部屋。
――――――――俺、独りだけ。
――――――――違う。そうじゃ、ない。ここはそんなところじゃ、ない。
…………ああ、また始まろうとしているのか、“アレ”が。
夢が。悲しい夢が。昔の夢が。別離の夢が。桐島喜助―――――原初の夢が。
――――――――――、ん。
少年の声。
――――――――――、ーん。
悲しんでいる声。
――――――――――、えーん。
泣いている、声。
少年が嘆いている。悲しんでいる。泣いている。
みっともないくらいに鼻水が垂れている。
それしか知らないように涙を流している。
なんで、なんで。どうして、どうして。ねえ、どうして――――うごいてくれないの。
はやく、うごいてよ。はやく、はやく。うごいてくれないとおこるよ。うごいてくれないと、あそべないよ。うごいてくれないと、うごいてくれないと――――ぼくもう、わらえ、ない、よ。
少年は泣いているのだ。大好きな人が、大切な人が、唯一無二の“母さん”が、もう、動いてくれないから。
少年は知らなかった。人が死ぬものだということが。日常は突如壊れ始めるものだということが。大好きな日々は…………いつまでも続かないということが。
少年は理解したくなかった。そんなこと、そんな悲しいこと、そんな、そんな、哀しい……こと。
少年は泣く。泣いて、泣いて、泣き続ける。
暗雲がはれることは無い。雨は降り続ける。慟哭は終わらない。
それが少年の心。それが少年の世界。それが少年の…………
――――――夢が終わる。救いも無く終わる。悲しみの中に終わる。
――――――えーん、えーん、えーん――――――




