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鬼殺鬼②

「――――――――はい、そうです」


「――――――ぁ」

…………信じられない。いや、信じたくないの、か。俺の前にいるのは俺の知り合いだってことを。

 たとえ、それが……少ししか話したことが無かった中津文だったとしても。

「……どうしました、先輩。攻撃を仕掛けたのが私だと知って衝撃でも受けているんですか?」

 淡々とした口調。

「――――――――」

「…………無視されるのは腹が立ちますが、まあ、構いませんか。単刀直入に言います。その方をこちらに渡してもらえないでしょうか?」

「…………どうして?」

「その方を処分するためです」

「処分だ、と…………!?」

「ええ、その方は危険です。破壊衝動のままに動いていると聞きました」

「聞いた…………?」

「はい、ある方に。……まあ、その話はどうでもいいでしょう。それよりも、その人についてです。今はまだ、人間に被害は出ていません。しかし、放っておけばいずれ、人間にも被害が出るでしょう。彼女を処分するのはそういう理由です。ご理解、いただけたでしょうか?」

 なんでもない、と事務的な口調で話す中津。

「そんなこと………………」

 納得するわけには…………

「あなたも聞いていたでしょう……彼女の願いを」

 人間を殺すのは罪だ、と。

 故に、生きていてはならぬ、と。

「…………ああ、そうだな」

「だったら……」

「でも――――」


――――――――それでも。


「それでも、おまえにこいつは殺させない………………!!」

ああ、確かにこいつは死ぬ気でいたんだろう。殺すということは罪、それを犯した自分は死ぬべきだと。

――――――――だけど。

 いや、だからこそ、こいつには死んで欲しくないんだ。死んでしまうことは逃げだ。死んでしまうことは終わりだ。

 死んだら楽になる――――確かにそうかもしれない。

 免罪符に手を伸ばせば、それで終われるかもしれない。

 でも、だ。

 あいつは自分を罪人だと思っている。巻き込まれたのに、な。

 だったら、あいつは生きて罪を背負うべきなんじゃないか。死を欲しても猶、生きなければいけないんじゃないか。

 そして…………ああ、いや、こっちがおそらく本音なんだろうけど。

――――――――――俺はあいつに死んでほしくないんだ。

 あいつに死んでほしくない。あいつに消えてほしくない。あいつと――――――――――――一緒に居たいんだ。

 いつもみたいに、他愛の無い話がしたい。

 いつもみたいに、一緒に飯を食いたい。

 いつもみたいに、いつもみたいに、いつもみたいに――――――――――

…………ただ、いつも通りの生活に戻りたいだけなんだ。勝手だけど俺は、雪村が罪を背負っても、一緒に居続けたいだけなんだ。

 

――――――――――――死は悲しい。


 そんなこと、俺はもう痛いぐらいに何度も思い知らされてるんだ――――――“あの時から” 

 だから、だから。

「こいつは友達だ。死なせない………………!」

「…………そう、ですか。なら…………あなたも殺すまでです――――――――――!」


――――――――轟、と風切り音と共に間合

いを詰め、再び刺突が繰り出される!!

「――――――――――――!」

 石火の刺突を捨て身の突進で避けると同時に、中津へ拳を奔らせる。

 憔悴しきった頭で考えたところ――――――――

「本当に…………まだ……戦る気なんですね………………!!」

――――――攻め続ける、それ以外に勝機は生み出せない。

 疲労に苛まれる俺の躯では、防戦は無意味だ。攻める、攻める、攻め続けるしかない。

「こ、のやろ――――――!」

 なのに奔らせた拳の悉くは防がれる。くそ、当たらない、命中しない、届かない。

 くそ、くそ、このままじゃ、このままじゃ――――――――――――!

 

「――――――――早く、斃れてください!」

――――――――――――や、ばい。

「ぁっっ――――――!」

 奔らせた拳の弾道が遥か上に打ち上げられる――――そして胴へ刀が奔る。

「づっっ――――――」

 次いで逆袈裟懸けに刀が奔る。

「こん、の――――!!」

 反撃に頭部へ拳を奔ら――っていな――――――


「遅いです――――――――――――」


「がッッ――――――――――」

 斬られた――――突如現れたその感覚。浅く、腹部から頭部――――臍から人中線を通り、顎、唇、人中穴、そして最後に鼻骨をかすり、終了する。

 こ、いつ、俺が拳を奔らせる前に体を沈めていたっていうのか――――――――!?

「ぁがッッ――――――――――!」

 貫かれた――――――否、蹴り飛ばされたのか。鳩尾に奔る交感神経の悉くが圧壊されたと錯覚してしまうほどの鋭い痛み。

 でも――――――――

「っ……は、はあ、はあ、あ…………」

 痛みに屈するわけにはいかない。立て。立つんだ。立って戦うんだ。雪村を助けるんだ。諦めるな。

「…………逃げてもいいんじゃないですか――――――――――――?」

 放たれる中津の言葉。

「あなたじゃ、勝てません。そんなこと、わかっているのでしょう…………?」

 諦めろ、という言葉。

…………諦めろ、か。それは、それは……

「それはこっち、の台詞、だ…………!!」

 おまえこそもう、諦めてく、れ。俺はこんなにも頑張っているのに、こんなにもあいつを護ろうとしているのに、なんで、なんで、だ。どうして諦めてくれないん、だ。どうして理解してくれないん、だ。どうして、邪魔をする、ん、だ。


――――――――くそ、腹が立ツ。


 癇に障ル。癪に障ル。イライラすル。ナゼ、判ってくれナイ。

俺ハ頑張ってるンだゾ。頑張ってるノニ、頑張ッテルノニ。こんなニモ、コンナにモ――――――――!!!

 くそくそくそくそくソクソクそくソくそくそくクソクソクソクソクソソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソくソクそクソクソクソクソソクそくソクそくソくそくくくくくくくくくソソソソソそソソソソソクソクソクそそそそそそくくくくくくくくくくくくくくククククククククkkkkクソクソクソクソクソクソkkkkkそそそそssssssssくくくkkkssssssクソクソクウソソソくそくソクソクソクソクソクソクソ糞糞糞糞糞糞――――――――――――!!!


 斃す? ――――否。否否否――――――! 殺ス殺ス殺ス――――――!!!


 ナラバ、畏レも、疲労モ、諦観モ、スベテスベテスベテ――――――――この憤怒で殺し尽クセ!!

 ああ、俺は怒ってイルンダ。なんで、こいつが死ななきゃイケナイ。コイツは、“咒鬼”とかいう存在になっちまったんダロウさ。 デモ、心は人間のそれじゃナイカ。巻き込まれて、殺シテシマッテモ、それは自分の罪だって懺悔シテタジャナイカ。

 それを、そんな人間の心を持った奴を、ソレデモ殺ソウトスルナンテ――――――

 ああ、ソウだ。俺は怒ッテイルンダ。こいつの体で殺戮を愉しむバイラヴァという存在に。こいつを殺そうとする中津文という存在に。そして何よりも――――――コイツヲ“咒鬼”トカイウモノニシタ元凶ニ。

 元凶――――――――縊り殺してやる。心臓を穿ち、殺してやる。脳髄を引きずり出し、コロシテヤル。四肢を?ぎとり、それでも猶、生を求め、這い蹲り、逃げる様を嗤いながら、コロシテヤル。


 殺シテヤル、殺シテヤル――――殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス。


 ア、アア――――――!


殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――――――!!


 今は未だ見ヌ相手に、狂気の如キ憤怒を抱く。

 マッテイロ……元凶……!! こいつを殺した後はヲマエだ……………………!!

「――――――――!」

 空を切った拳が切り落トサレル――――が、今度はその刀へ拳を奔ラセ、刀を砕く。

 次いで、再生された拳を頭部へ奔らせる――――が、衝突、刀によって防がれる。

 防ガレタ――――カ。ならば、更なる拳を以て破壊スルマデダ………………!!

 我放散撃――頭部、顔部、胸部、腹部、腕部、脚部ヘト拳、肘、貫手、腕を奔ラセ続ケル――――――ガ。


――――――――ナ、ニ。

 

 ソノ悉クガ奴ノ刀ニヨッテ防ガレル。 

 瀑布――――攻撃に次ぐ攻撃。連撃、連撃、連撃、殺ル気デ放ッタ戟ヲ防イダ、ダト。

 成ル程――――――存外ニシブトイ。

「――――――――――――!」

 中津がナニカ構えのようナモノヲ執ってイル。八の字……? 刀術か何カカ?

 マア良イ――――――死ネ。

 後方跳躍――――次イデ疾走。

自身を豪風ト化シ、刹那ノ一撃ヲ放ツ――――――――――ガ。

 斬撃一閃――――コノ迅サにツイテコレルだと――――!?

 無理矢理躯ヲ停止サセルト同時ニ咄嗟ニ右腕デ迫リ来ル刃ヲ防グ。

 次いで胴薙ぎ、縦薙ぎ、間髪無く繰り出される頭部への斬撃を防グ。

「――――――」

 不可也――――――動体視力ノ強化デ付イテ来テイルダケ――――威力ハ微々タルモノ。

 転じて放たレル心臓への刺突ヲ刀身ノ部分デ掴むと同時ニ折砕スル。

――――――――コチラノ番ダ。

 守カラ攻へ。頭部へ拳を奔ラセルと同時ニ折砕シタ刃ヲ密カニ奔ラセル――――策成――――ソレハ見事ニ功を奏シタ。

 次イデ、貌ニ疵を負イ、怯ムソノ刹那ニ右膝ヲ叩キ込ム――――――ガ、十字デ受ケラレ、頭部カラ股部ヘト奔ラセタ手刀モ虚しく空ヲ切ル結果ニ。

――――――シブトイ。

 カワシタ中津ヘ目ヲ奔ラせルト――――ソコニハ、再ビ刀ヲ構エテイル中津ノ姿ガ。

 マタ八の字カ――――無駄な足掻キヲ――――!

 疾駆――――拳ヲ奔らセル!!

「壊シタ――――」

――――イヤ否、ソレハ錯覚ダッタ。軋轢シタ中津ノ刀刃ハ生キテイルノダ。

――――――テゴワイ。

 コノ均衡、中々ニ破レル気配ハ無イ。ソシテ千日手等ヲレノ望ムトコロデハナイ。


――――――ナラバ。


 後方ニ下ガリ、全身ノ咒力ヲ右拳ニ奔ラせル。


――――――――殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺――――――!!!


 剛ク、毅ク、武ク、赳ク、猛ク、烈ク、虎ク、雄ク、壮ク――――ソシテ何ヨリモ、強ク――――――――――――!!!

 壊滅、潰滅、撃滅、討滅、亡滅、絶滅――――――壊セ、毀セ、亡セ、殲セ、戮セ、殺セ――――――――――!!!


今コソココニ必殺ノ一撃ヲ――――――――――!!!


       ******


――――――あの人、強い。

 戦闘直前はあんなにも疲弊してたのに。満身創痍ですぐ斃せると思ってたのに。

 なのに――――――――怖い。何、あの人の力…………

 本来湧き出るはずのない力…………そう感じてしまうほどに凶々しい。

 そして、ただ………………怒りで塗り固められたように見えるどす黒く、紅い暴力。

 私に………………怒りを抱いているのだろう、あの人は。

………………当然よね。私はあの人の友達を殺そうとしているのだから。

………………そう、当然のこと。友達は大切な存在。一緒に居てくれて、笑ってくれて、泣いてくれて、喜んでくれる…………そんな大切な存在…………

 そんなこと、私は知っている。毎日感じている。本当に大切なんだって…………

 あの人を殺したら、未央、悲しむんだろうな…………

――――――――――――でも、構わない。   

 あの人を殺さずに殺戮鬼だけを殺すなんてのは不可能。そして、殺戮鬼を斃さなければ、被害が人間に及ぶ。

――――――――――――それだけは駄目。

 させない。それだけはさせない。未央の住む町だけには手を出させない。未央には――――――手を出させない。

 白瀬未央――――――未央は友達。私の友達。大切な友達。掛け替えの無い、友達。

 彼女に危害を加える可能性のある鬼を生かしておくわけにはいかないんだ。殺戮を愉しむ悪鬼は殺さなくちゃいけないんだ。

 だから、あの人にとって私は悪そのものなんだろう。奪うだけの奸邪。

――――――それでも、構わない。

 殺戮鬼なんて存在、こっちの世界には不要なんだ。 

――――――だから。

 怖くても、恐ろしくても、私はあの人を殺す。

 斃す、では駄目だ。殺さない限り、あの人は戦う。戦い続ける。容赦なく殺しの劍を下さなければ殺されるのはこっちだ。


――――――故に。


「天に悪しき神あり――――――――――」

 これは理。

「名を天津(あまつ)(みか)(ぼし)またの名を(あまの)()()背男(せお)と曰う――――――――――――」

 力を求める理。

「請う、先ず此の神を誅し、然る後に下りて葦原中國をはらわん――――――――――」

 相手を討ち滅ぼすほどの力を求める理。

「是の時に()(わい)の神を()(わい)大人(のうし)ともうす――――――――――――!」


――――――我斬滅総生命。


(しず)()(かみ)――――武刃槌命之劍(たけはづちみことのつるぎ)――――!」   

 私の中の戟化超越――――――――斬滅の理が顕現した。


     ******


 感情ノ昂ブリト同時ニニフト思イ出ス――――ヲレノ日々ヲ。

 アノ日常ハ――――――最高ダッタ。全テガ輝イテイタ。何モカモガ大切ダッタ。ヲレノ全テダッタ。

 ソウ、ヲレノ全テダッタンダ。

 崩レタ。

――――許セナイ。

 壊レタ。

――――許セナイ。

 失ワレタ。

――――許セナイ……!

 ヲマエタチヲ許シハシナイ――――!

 楽ニハ殺サン。マズハ、胸ヲ穿チ、孔ノ開イタ部分カラ、臓器ヲ一ツズツ引キ出シテヤル。肝臓ヲヲマエノ口内ニ無理ヤリブチ込ンデヤル。眼球ヲ抉リ出シ、耳ノ中ニブチ込ンデヤル。脊髄ヲヲマエノ陰核ニブチ込ンデヤル。ソレカラソレカラソレカラ――――

 ヤリタイコトハ数多ニアルノダガ、最後ハヤッパリ――――脳髄ヲ引キズリ出シ、ソノ顔ニ脳漿ヲブチマケテヤル。

 後ハユックリトソノ命ヲ削リ、喰ライ、犯シテヤル。

 コノ程度ノコトハ当然ダ。アイツハ雪村ヲ殺スト言ッタ。許セルワケガナイ。ソンナコトハ許容デキルワケガナイ…………!

「死、ネ――――――――――――!」

 大地ヲ強ク踏ミシメ、翔ブヨウニ疾リ、腕ヲ縮メ――――伸バス――――!

 狙ウハ迫リ来ル刃、破スルハ彼ノ命。

 殺セ、戮セ、亡セ、殲セ――――ソノ一撃ヲ以ッテ、命ノ悉ク、喰殺シロ――――――!!

 今、刃ト交錯スル――――――

「ハッッッッ――――!!!」

 成成成――――()ッタ――――――――――――!!


「いいえ、あなたが殺られたんです――」


「ズ――――アアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!?」

 放ッタ一撃ハ剽悍無比ニシテ石火無比ノ一撃ダッタハズダ。空を絶し、風を坐す殲戮の一撃ダッタハズダ。


――――ナノニ、腕ヲ見ルト腹立タシイホドニ風光明媚ナ切断面ガソコニ。


 腕ガ斬リ落トサレタダ、ト――――――!?

 クソ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ痛イ――――――――!

「――――――武刃槌命之劍は戟化の限界を無くすというものです。つまり、有する咒力の限り、戟化を行使できるということです」

 それの究極を斬滅、と。

 ウズクマルヲレニ、淡々トシタ口調デ話シカケル。

「あなたじゃ、勝てません…………」

 冷静ナ口調。

「そこで、倒れていてください」

 背ヲ向ケ雪村ヘト近ヅイテイク中津。

――――――殺サレル。

 雪村ガ殺サレル。

――――――駄目ダ。

 ダメダダメダダメダ。

 ソレダケハソレダケハソレダケハソレダケハソレダケハソレダケハ――――――――――――――――――――――――!!

「サセ――――――――――――ル、カッッッッッ!!」

 殺ラセン殺ラセン殺ラセルモノカッッッッ――――――――――!!

 跳躍シ、再生シタ腕ヲ力ノ限リ奔ラセ―――――――――ッテ、ア、レ。

 鋭イ痛ミト、浮遊ノ感覚――――――?

 頭ト躯ノ離レルヨウナカンカ、ク――――――――? 


     ******


 宙を舞った頭を一閃で斬り裂く。

 脳を壊した。

 これで、再生の余地はない。これで終鴛。これで…………死。

「殺し――――――――――――ちゃった」

 殺してしまった。私が、この人を。

――――――――否。

 しまったなどと吐いてはならない。私は殺す気でこの人を殺したのだ。

 ならば、殺してしまったなどと、我は悪くないと断ずるは卑怯者の所業。

「……あとは殺戮鬼を殺すだけ…………」

 この闇を背負おう。そうすれば、人殺しにはなるけど、卑怯者にはならない。

…………いや、卑怯者か。結局、私は殺しという楽な道に屈してしまったんだから。 

「ごめん――――――――――――未央」

 決して届かない懺悔を呟く。

――――――――え? 

 刹那一念、ナニカに押し倒され――――――――!?


     ******


 何ガ起コッタノカワカラナイ。頭ガ飛バサレタ。ソシテ、意識ヲ失ッタ。ヲソラクハ脳ヲ殺サレタノダロウ。

…………ナラヲレハ生キテイナイハズダ。シカシ今、ヲレハ確カニ生キテイル。

…………ワカラナイ、ワカラナイ――――ガ、ソレデモ良イカ。

 何故ナラ今、ヲレハコイツニ馬乗リニナッテイルカラダ。

 ソノ首ニ手ヲ伸バシ、喉頭隆起にグット力ヲ入レル。

「ぐっ――――――――――――」

 苦悶ノ声ヲ漏ラス中津。

 ソウラ、苦シメ――――――――――

 更ニ力ヲ込メル。

「ぐっ、あっ――――――――――――」

 苦シメ苦シメ苦シメ。

「ぐっ、ぁ、はっ、あっ、っっ、っっ、ぁ、はっ……………………………!!!」

 ヲット、コノママデハ殺シテシマウ。少シ力ヲ弱メルカ。

「ぁ、っ、はあ、はあ、は――――――」

 九死ニ一生ヲ得タナ、中津。

 ダガ、次ハ確実ニ殺シテヤル。コノ拳デヲマエノ脳ヲ破壊シテヤル。

 イヤ、ソノ前ニ臓器イジリダ。ヤロウ、ヤロウ、今スグヤロウ。

 ヨシ、マズハ胸ヲ穿ツ――――――ッテア、レ。

 上手ク拳ニ力ガ入ラナイ? ヨシ、モウ一度、ダ。


――――――――――め、ろ。

 コレハ、コ、エ……? 

――――――――――や、めろ。

 脳髄カラ響イテクル……?

――――――――――や、めろ…………!!

…………黙レ。黙レ黙レ黙レ黙レ。ヲマエ等必要ナイ。ヲマエ等死ンデイロ。ヲマエナドヲマエナドヲマエナド――――――――!!

 

 ゴンゴンゴン、ト何度モ頭ヲ殴リツケル。出血等気ニセズニ何度モ何度モ何度モ。

 コノ耳障リナ声ヲ殺スタメニ。ヲレ以外ノ俺ヲ殺スタメニ。

 声ハ次第ニ聞コエナクナッタ。


 ソウ、黙ッッテイロヲマエハ―――――

……シカシ、頭ヲ殴リツケタセイカ、ヒドク気分ガ悪イ。

――――――――コノ、ポンコツガ。

 多少、脳ガ揺サブラレタダケデ呻キヲ上ゲヤガッテ。コノ出来損ナイガ。コノ畸形ガ。コノ欠陥品ガ。コノコノコノ――――――

…………アア、クソ。イライラスル。 早ク、早ク、コイツヲ殺シタイ。

 頭ヲ撃チ貫カンホドノ強大ナ咒力ヲ拳ニ奔ラセル。

 後ハコイツヲ頭部ヘ落トセバ、中津ハ死ヌ。

 

――――――――――死ヌ。

 コイツヲ落トセバ、死ヌ。ソレデ良イ。


――――――――――――ソウ、死ヌンダ。

 ヲレハ中津ヲ殺スンダ。ナラ、早ク落トスンダ。 


――――――――――アレ。

 ナンデ、拳ガ逆ラウンダ。ナンデ、落トセナインダ。ヲレハ中津ヲ殺サナキャ。


――――――――――ア、レ。

 ドウシテ殺サナキャ、イケナカッタッケ。


――――――――――ソウダ。

 コイツラハ、俺ノ日常ヲ壊シタ。ダカラ、殺ス。


――――――――――ち、がう。

 俺、の目的、はあの日常にかえ、ること………………


――――――――――ダマ、レ。

 コイツヲ殺ス。元凶モ殺ス。殺シ尽クシテヤル。


――――――――――だ、めだ。

 人を殺すのは罪だって雪村は言ってたじゃないか…………!! 


――――――――――ダマレ!!

 今更、ソノヨウナ言葉ニ惑ワサレルナ!!! 

 コイツラハ殺サナケレバナランノダ!!!


――――――――――おまえこそ黙、れ。

 俺の目、的は、日常への帰、還。人間を殺すことじゃ、な、い。


――――――――――黙レ黙レ!!

 成スベキコトハ非日常ノ殲滅だ!! 邪魔、ヲスルナ!!!


――――――――――黙れ……!!

 人を殺すということはそいつを死に至らせるということ。それは駄目だ…………!!


――――――――――煩イ……!!

 早クコイツヲ殺サセロ……!!


――――――――――そんなこと、さ、せるか、よ…………!!


 咒力の篭った拳を顎に奔らせる――――――――――――!!

「がっ――――――っっっ!!」

 い、たい――――! 下顎顎の骨を砕き、歯茎にまで届いたのか、口内が血塗れだ。口外にも迸り、地面を紅く汚す。

 その上、歯が口内に何本か刺さっているのか、口が破裂しそうなぐらいに痛い。

――――――で、も。

 痛みが意識を戻してくれ、た。それと同時に疲れも。

…………大丈夫だ。もう、怒りには敗けない。敗けるものか…………!!

 この痛みで自身の罪を再確認させる。今の俺にはこんなことしか出来ないから。

 意識が固定されていくと同時に、口部も修復されていく。

――――でも、どうして俺はあんなことを…………

 疲れと痛みと怒りが俺をヲレにしたのか。   

 でも、でも……あんなことをしてしまうなんて。


――――――――――――死は悲しい。


 痛いぐらいに知ってるじゃないか、俺は。

 それなのに、それなのに、俺は、俺は………………!!

 いや、それよりもまず―――――――― 

「――――――ごめん………………中津」

 謝らなければ、いけない。

「え…………?」

「俺、おまえを…………もうすこしで殺しちまうところだった……」

雪村を排除するからって、おまえを殺して良いわけが無いんだ。

 殺して良いわけがない――――人間を。

「だから…………ごめん……」

「………………謝らないでください。私はあなたを殺すつもりでした。…………実際に殺しました」

――――――おまえがそのつもりだったとしても。

「それでも、だ……」

 これは俺にとっての禁忌だから。疑うことすら許されない、俺の戒律だから。

「…………私はまた、殺戮鬼を狙いますよ」

「……だったらまた、戦うだけだ」

「…………ふぅ、本当に、友達思いなんですね…………先輩は」

……………………笑った? 

「そうか……?」

 友達のためになら体を張るのは当然だ。そんなこと当たり前だ。

「くっ――――――」

 ああ、くそ。疲れた。本当に疲れた。でも、気を抜くな。まだ終わってない。

「すみませんでした、桐島先輩。私はもう、貴方方を狙いません――――――」

――――――え?

「…………どうしてだ?」

「……今の自分がどうしようもなく恥ずかしい、そう、思っただけです」

 貴方のような人を殺すのなんて、と。

「そして……どんなことをしても償えませんが、何か私にさせてください……お願いします…………」

…………急にそんなこと言われてもなあ。

 なにかあった、け。してほしいこと、してほしいこと。

 あ、そうだ。

「おまえ、今度のフェスに来い」

「フェ、フェス?」

「ああ、フェスティバルだ。俺ん家でやるんだよ、雪村のバースデイフェスティバルを、な」

 倒れている雪村を指差しながら言う。

「いつ、ですか……?」

「週末」

「週末…………。それまでに殺戮鬼を治す見当がついているんですか……?」

「……ついてない。ついてないけど、なんとかする」

 治してやりたい。友達だから。大切だから。

「なら、私に……手伝わせてください」

――――――――え?

「手伝ってくれるのか?」

「はい。できることなら何でもする、と言いましたから」

…………ありがたい。

「さんきゅ――――――って、あ、れ」

 ふらつく躯。

「今日はもう、休んだほうが良いですね」

「いや――――――一日でも早く治してやらねえ、と」

「ふらつきながら言わないでください。また明日話し合いましょう」

「そんな悠長、な――――――――――」

 またふらつく。

「ほら、今日はもう休みましょう……?」

「…………ああ、わかった。……悪い」

「それじゃあ、家に帰――――――」

――――るか、と言おうとして雪村がいる場所へ目を奔らせると。

「雪村がいない――――――!?」

 いない、いない!?  なんでだ!? さっきまでそこに!!

「先輩、危ない――――――!!」

 どん、と突き飛ばされる。

「いったい、なに――――」

――――をと言った瞬間、俺の立っていた場所に氷杭が刺さっていた。

 な、なんで――――!?

「先輩、あそこ――――――!!」

 中津が指差す方向へ目を向けると。


「いい夜だな――――――――――――桐島喜助、中津文」

 黒髪黒瞳の魔がそこに在った。

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