再開
コンコンとドアをノックする音が聞こえる。
「…ふぅ。一体これで何人目だ?…どう」
ぞ、という前に扉の方が勢い良く開いた。
「虎くん!?」
その時、僕の目の前に飛び込んできた姿はとても懐かしいと同時に、僕の頭を混乱させた
「あれ?遥…のお子さん?すごく遥に似てるね。」
「いや、遥本人だよ!虎くん…意識戻ったんだね…ほんとに良かった…良かったよぉ。」
そう言うと遥はその場にへたりこんでしまった。いや、いやいやいや?ちょっと待ってくれ。ここは10年後の世界であって、つまり皆眠っていた僕とは違って歳をとってて、さっき見舞いに来た親もシワが大変な事になってたし、高校の友達には子供ができてる奴もいた。
「えーっと…お前、遥なのか?」
「そうだって言ってるじゃん!もしかして虎くん、遥の顔忘れちゃったの?」
「いや、もちろん覚えてるけどさ。一つおかしなことがあって。」
「何がおかしいの?」
「なんでお前は歳とってないんだ?」
「うん?そりゃ遥もコールドスリープで眠ってたからだけど。」
いやいや、そりゃじゃないでしょ。自分の状況だって大してわかってないのに、そんな当然みたいに言われても。
「ていうことはお前も10年前の事故でここに運ばれたのか?」
「うん。らしいよ。」
らしい、ということは遥もその時の記憶がないようだ。
遥は僕が小学生の時からの付き合いだ。遥の父親は、国内では知らぬ者はいない時雨グループの社長で、遥はいわゆる御令嬢というやつだ。なんでそんなに凄い人と知り合いなのかと言えば、僕の親父が遥の母親の担当医だったせいだ。遥の母親は身体が弱くて、よく病院に通っていたのだけれど、親父が担当医になってからは体調が落ち着いたのだ。家も近かったこともあって、それからは家族ぐるみで付き合いがあり、その中でも遥と僕は彼氏彼女の関係になるほどに仲は良い。…なんか言ってて恥ずかしくなったからもう説明するのはやめた。
「10年ぶりだな、遥。元気にしてたか?」
「最近までずっと眠ってたけどね。今は元気!」
「俺よりも早く意識が戻ったんだな。」
「うん!1ヶ月前くらいかな?虎くん、今のこと全然分からないでしょ?人生の先輩であるこの遥が、教えてあげるよ!」
「いや、たった1ヶ月早く起きたからといってお前だって僕と大して変わらないだろ?」
「そ、そんなことないもん!例えばそこにある腕時計、ただの腕時計じゃないんだよー?」
そういえばベットの脇にあるこの腕時計は僕のものじゃない。誰のだ?
「それをつけてみなよ!」
「…つけたら最後、二度と外せないとかないだろうな?」
「ないよ!遥もつけてるし、とにかくつけてみなって。」
言われるがままに腕時計をつけると、頭に直接声が聞こえてきた。
(照合開始、寺崎景虎さん、こんにちは。体温、血圧、脈拍、いずれも正常値です。今日の天気は晴れ、最高気温は25度です。)
「…ほえー」
「ほえーって虎くん、おじいちゃんじゃないんだから」
どうも、登録してある人が装着すると、機械が認識してその人の周りの事を教えてくれるらしい。流石は未来。感動してしまった。
「なぁ、これってどんなことができるんだ?」
「ん?えーっとね、例えばこれは病院が貸出してるものだから、病院内の施設への案内をしてくれたり、点滴の時間とか食事の時間とか…とかとか!教えてくれるよ、うん!」
…こいつ、よく知らないな。まぁそのうち看護師さんが来て教えてくれるだろう。
「わかった。後はこれから来るであろう可愛い看護師さんに聞くからもういいぞ。」
「あ、今使えない奴だって思ったでしょ?ひどいなー虎くんは。」
「僕はさっきからいろんな人の相手して疲れちゃったの。」
「そうですかー、彼女に対してその態度ですか。いいですよー、もう点滴の時間らしいし。じゃあねー!」
どうやら退散するらしい。やっと一人になれるなと思ったけれど、一応お礼の一言も言わないとな…
「なぁ、遥。」
「ん?」
「ありがとな。」
しばらくの沈黙の後、遥はついに返事をした
「ねぇ、虎くん…おかえり。」
返事を待たないで遥は出ていってしまった。でも仮に遥が返事を待っていたとしても、僕にはただいまと言える自信はなかった。だってここは、僕の知らない世界なのだから…
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