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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第2章:物語が終わったら
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8.御方様のお褥(しとね)すべり。

おかしいと気付いたのは結婚からだいたい半年後だった。公務を理由に殿下のお渡りが無い日が続く。毎晩のように一緒に過ごしていたのが、3日に1度になり、1週間に1度になり、気付いた時には1ヶ月以上お渡りが無かった。最初こそ、隣国との情勢が危ういとか、書類仕事が貯まってしまってとかいう殿下の言い訳を真に受けていたが、ふと気付いてしまった。彼が嘘をついている事と、もう既に嘘をつくことさえ面倒になっている事に。その時、私にかかっていた魔法は解けた。どうせなら、絵本と同じように、舞踏会で解けてしまえばよかったのに。

冷静になって周りを見渡してみれば、そこは後宮で、私は側室で、「殿下の妻」が両手では足りないくらい居た。「御方様」という呼び名も側室の呼び方なのだと知った。それを知らずに日々を過ごせるほど、私は人と関わらずに居たらしい。カナンに尋ねた時の彼女の驚き様は下手な芝居の様に大げさだった。

後宮には5つの宮がある。月長宮、紅玉宮、蒼玉宮、翠玉宮、黄玉宮。月長宮は正妃に与えられる宮で、殿下の居室もこの宮にある。王族のみの住居で後宮の中心に位置する。その他の4つの宮の第1室(一番大きな部屋)に住まう側室を「御方様」と呼ぶらしい。4つの宮にはそれぞれ10室程度の部屋があるが、その部屋には厳密なランク分けがあり、「御方様」はそのトップということらしい。私は「蒼方様あおのかたさま」と呼ばれる立場だった。自分の事なのだが、全く知らずにいた。御方様は寵姫の証でも有るのだが、同じ立場の存在が4人も居るならば私にとっては価値が無い。


殿下が「愛している」と呟く相手は私だけでは無かったのだ。


しかも、私と結婚して3ヶ月ほどで、正妃を迎えていたこともわかった。なるほど、あのころからめっきりお渡りが少なくなったはずである。なぜそんな事に気付かなかったのか、色んな原因は有るし、言い訳はしたいけれど、恋は盲目……とだけ言っておく。きっと、殿下の甘い声をただ音楽のように聞いていただけで、彼の言葉を何一つ理解できていなかったのだろう。ヒントはそこかしこに散らばっていたのに。

殿下との恋が冷めてしまっても、私は側妃だしここは後宮だし出ることは叶わない。私は殿下の心変わりを嘆き、悲しみに暮れて、失意の中で儚く散って…はしまわなかった。殿下の心変わりに気付いて、私も殿下への恋慕が無くなったのだから。私を好きだと言ってくれる彼が好きだった。特別扱いしてくれない男など対象外もいいところだ。追い縋ったり、悲しんだり、他の女に嫉妬したり、そんなことはしなかった。するだけ無駄である。心変わりした人間が元恋人にどれだけ無関心になれるかは、自分が証明していた。まぁ、多少ショックは受けたが、それだけだ。他の人が居るか居ないかという差はあるが、心変わりしたのは私も一緒だった。お互い様と言うやつだ。

殿下への恋慕を失ってからは、褥を共にするのが嫌で体調不良を理由に2度程断った。それでも尚、義理がたいのか申し訳なく思っているのか、彼は部屋を訪れようとする。仕方ないので、ちょっとヒステリックぎみに追いすがってみたら、その後はお渡りが無くなった。カナンと私の作戦勝ちだ。

「逃げられると追いたくなる。でも、追われると逃げたくなる。男性とはそういうものです。」

たいして年齢差は無いはずなのに、無表情にそう言い放った彼女は私よりも遥かに大人に見えた。


結婚してから1年も経たないうちに私は部屋を移った。「御方様」ではなくなったのだ。正直ほっとした。寵妃というレッテルなんて面倒事しか生まない。

たくさんいた私付きの侍女も部屋を変わる時に別の方付きに移った。仕方ないことだ。殿下の寵愛が有るところが一番忙しいのだから。その中で唯一私付きを辞めないでいてくれたのがカナンだ。私の側にいる侍女は彼女1人だ。他のご令嬢なら実家から侍女を連れて来るのかも知れないが、私は余り人に囲まれるのが好きではないし、カナン1人で事足りるのでわざわざ増やす必要もない。

1人なっても、彼女の口癖は変わらない。何でも彼女任せでは大変かと思ってつい自分で何かをすると、

「お嬢様、ご命令下さい。」

彼女がそう困った顔で言うから、私は彼女に甘えてしまう。

部屋が変わって廊下を歩けば他の側室と会う環境になった。殿下のお渡りが無くなり取り乱した女性がごまんといた。1か月程で飽きるなら側室になどしなければいいのでは……と思うが王室というのはそうはいかないらしかった。部屋を変わってから嫌がらせが頻発する。


まぁ、これも一時のことだろう。人の気持ちというのは移ろい易いものだから。

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