エピローグ
春という季節が私は一番好きだったりする。
幸せという言葉が一番似合うと思うから。
東屋で微睡みながら、庭を見つめて微笑んだ。
セシルが産まれた時に植えた記念樹が、花吹雪を降らせている。
アデルバートを看取ってからもう何年経ったのだろう。
彼を喪ってすぐの頃は、共に過ごした日々を思い出すのが辛くて、庭にも出ずに過ごしたりしたけれど、今ではこうして楽しむ事ができるようになった。
カナンはずっと側仕えをしてくれていたが、つい最近暇を願い、屋敷を去った。
陰者の里で余生を送ると言っていたから、もうこの世では会えないだろう。
友人達も何人かは永眠してしまった。
残った者同士で手紙のやり取りはするけれど、なかなか会ったりは出来ない。
私の手もシワシワになるはずだ。
「お曾祖母様」
エルバートの舌ったらずな呼び掛けに顔をあげると、小さな手が花を一輪差し出した。
お礼を言って受け取ると満足そうな笑顔を浮かべる。
大きなお腹のリリアが彼の後を追ってゆっくりこちらに歩いてくる。
「こちらにいらっしゃったんですか。」
銅色のふんわりとウェーブした髪を風に揺らしながら微笑む。
彼女はいつでも少女みたいに可愛らしい。
「えぇ。今日は気分が良くて。」
「アルバートが探してましたよ?またお医者様とのお約束をすっぽかしてしまわれたと。」
「アルバートは大げさに騒ぎすぎなのよ。すぐに病人扱いするのだから。」
「お義祖母様を心配してるのですよ。」
「そんなとこまでアデルに似なくて良いのに。」
「まぁ。」
リリアは私のおどけた仕草に笑みを深めた。
大人しくしていたエルバートだったが、私たちの話に飽きたのか東屋を飛び出して花壇へ走っていく。
きっと蝶々でも見つけたのだろう。
リリアもエルバートを追って行った。
私は手のなかの花をやんわり撫でる。
ふと気付くとアデルが隣に座っていた。
とても久しぶりの彼の温もりに全身の力が抜けていく。
「もう、遅かったのね。」
私が拗ねた様につぶやくと彼は穏やかな声ですまないと言って笑う。
私もつられて笑った。
促されて手を出すと、いつか無くしたガラス靴をかたどったイヤリングが手のひらに転がった。
「あら、懐かしいわね。」
あちらでは皆が待ってるよとアデルが微笑みを深めて教えてくれる。
お母様もお父様もリタもサーラもエレノアもリシャーナもお義母様も叔母様もデロリスもカシューもセシルが飼っていた小鳥も枯れてしまったお花も食器も羽ペンも靴もハンカチも…この世で喪ったものがみんな待ってるよと。
それはとても魅力的なお誘いだった。
私はエルバートにもらった花を右手に、アデルバートの腕を左手に抱いて瞳を閉じた。
あぁ、ようやく終わりを迎えられる。
それとも、これはまた始まりなのだろうか。
いずれにせよ…と私は思う。
いずれにせよ最後の言葉はずっと前から決まっているのだ。
――めでたし、めでたし。――
明るい太陽の様な花が一輪、やわらかな風に揺れた。
おしまい。
これにて本編終了です。
今後、アデルサイドのお話しや番外編など投稿しようと考えていますが、一旦完結とさせていただきます。
正直、書き始めた小説が完結したのは初めてで、達成感に浸っていますwww
お気に入り登録、評価、感想等皆様の応援を頂いて、書き上げる事ができました。
ありがとうございました。
誤字脱字や表現がおかしな所、読みにくい文章もあったと思いますが最後までお付き合い頂けて、とても幸せです。
完結にはいたしますが、これからも表現や構成を少し修正していくと思います。
何かお気づきの点がございましたら、ご指摘いただければ幸いです。
また、番外編リクエスト(応えられるかわからないですが)、レビューや感想等、お待ちしておりますので、よろしくお願い致します。
本当にたくさんの方に読んでいただけて幸せいっぱいです。
書き続けて行きたいとおもいますので、これからも律子の作品をよろしくお願い致します。




