63.2人のティア
お待たせしてすいません。
短いですが、アップします。
アデルの無事を信じる反面、頭の隅っこで色んな覚悟をして、最悪の結末に備えた。
屋敷にもいつになくピリピリとした緊張感が漂っている。
めぼしい成果が無く、捜索隊を増やそうかと話し合いを始めた頃、ようやくアデルからの連絡が届いた。
何でも西の山の入り口で立ち往生し、付近の村に引き返して吹雪をやり過ごしたのだが、雪の所為で連絡がなかな届かなかったそうだ。
今は遠回りして山を迂回しているらしい。
ようやくの明るい知らせにほっと胸を撫で下ろす。
目の下に大きな隈を作ったダンテスにも顔色が戻った。
捜索隊にも無事の知らせを送り、屋敷は平常を取り戻す。
私も2、3日緊張したのの反動かのんびりを通り越してぐったりと、しかし明るい気持ちでアデルを待った。
彼が屋敷に戻ったのは、知らせから3日後の夕暮れだった。
久しぶりに雪は降らず、茜色の空が雪に反射して、辺りを夕暮れに染め上げている。
私はその時ばかりは先触れの連絡に居ても立っても居られず、出迎えのために玄関にたった。
程なくして現れたアデルに満面の笑みを向ける。
急いで帰ってきてくれたのだろう、くたびれた様子はあるが、無事な姿に心がおどる。
「ティア!」
「おかえりなさいませ。アデルバー…。」
私の迎えの挨拶を最後まで言わせない勢いで、アデルは私を抱きすくめた。
たくさんの使用人の前だというのに落ち着きの無い振る舞いが彼らしくない。
旅の間に何かあったのだろうか?
「アデル?」
私が戸惑いの声を上げると彼は腕に更に力を込めて私を抱きしめた。
「心配をかけてすまない。」
「いいえ、大丈…」
「体は大丈夫かい?君の負担になってはいないかと気が気でなくて…。あぁ、こんな寒い所で出迎えさせてすまなかったね。さ、体に障るよ。部屋に戻ってゆっくり休みなさい。」
私を心配しながらも、アデルは話を聞きもしないで捲くし立てる。
途中で、いくら大丈夫と伝えたくても入る隙間がない。
私にも沢山伝えたいことがあるのだ。
労いの言葉も無事を喜ぶ言葉も何一つ伝えられずに胸に滞っていく。
ふと、アデルの瞳に映るのは私ではないのかなという考えが頭によぎる。
ここ数日忘れていた、もう一人のティアの存在を思い出したのだ。
同じ呼び名の初恋の女性はとても儚く弱弱しい女性だったらしい。
お義母様の話では、髪の色や体形なども似ているという事だった。
初めて出会った時、私の髪に後姿に、初恋を重ねて興味を持ったのだとしても不思議は無い。
私は身代わりなのだろうか?
だから、私は全く平気なのに、わかってくれないのだろうか?
彼の思い出にある女性はとても儚い人だったから。
私も弱々しい女に見えているのだろうか。
そう思うと、彼の言葉が素通りしていく。
「君は体を大事にしなくては。もう、何一つ心配することは…」
「いい加減にして頂戴。」
私の出した声は地を這うように響く。
アデルが心底不思議そうにこちらを見た。
それに更に腹が立つ。
「私はあなたの『ティア』には成れません。弱く儚い女をご所望なら、そういう女を囲いなさい!」
それだけ言って踵を返す。
アデルも使用人もポカンとしている。
なんとも間抜けな空気の中、カナンは一拍も遅れることなく私の後に従ってくれる。
私が怒ったのだとようやく気づいてアデルが何か言っているが無視して歩く。
そのまま、ふてくされて自室に篭った。




