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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第5章:物語はどこまで続く
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62.雪は2人を遠ざける?

屋敷に戻るとニーナに泣かれた。

アグリやメイにも相当心配をかけてしまったし、屋敷の護衛や門番にも思った以上に迷惑をかけてしまっていた事を知る。

一番怒っていたのは、ダンテスだろうか?

顔に出したりはしないけれど、私が何も相談せずに家を出た事で、彼をひどく傷つけてしまったのが分かった。

使用人達に謝って回って、叱られたり、泣きつかれたり…でも皆無事を喜んでくれた。


腰を落ち着けて、ようやくアデルとゆっくり話し合おうとした時、アデルに急ぎの仕事が入った。

何でも、雪崩の影響で孤立してしまった町があるらしい。

そこへ救援物資を送ったり、雪崩のあった街道を整備したりするために、4、5日家を空けることになった。

何だか肩すかしをくらった気分だ。

アデルは「体に気をつけて過ごすんだよ。」と言い残した以外は、私に対して特に何かを禁止したりしなかった。

散歩も、読書も、望めば好きなだけさせてもらえる。

私は自由に過ごせて気が楽だけれども、私が自由であればあるだけアデルの心に負担がかかっているのではないかと思うと、なんとも言えない気持ちになる。

私は彼の事を思って、少し自重して日々を過ごす。

自己満足かもしれないけれど。

雪は全てを覆いつくそうと一時も休まずに降り続いている。


アデルが帰る予定の日になっても、帰って来なかった。

ダンテスに聞くと、連日続く大雪の所為で作業が難航しているらしいと言われた。

しかし、帰宅の予定がズレるのに、私宛に何の伝言も無いなんてアデルらしくない。

少しおかしいと思うが、何がおかしいのか具体的には分からない。

ぼんやりと日の暮れた窓の外を見ていると、窓越しにカナンの顔が見えた。

「アデル、大丈夫かしら?」

「大丈夫だろうとダンテスは言っておりますが…。」

カナンも私と同じように何か引っかかりを感じているようだ。

「ねぇ、カナン。ダンテスが何か隠してたりしないかしら?少し探れない?」

「…承知しました。」

身を翻して部屋を出て行くカナンの背中に無理しないでねと声をかける。

カナンと入れ違いで入ってきたニーナにお茶を入れてもらう。

「アデルは遅いわね。」

「左様にございますね。」

「何か聞いていない?」

「作業が遅れているようだと聞いておりますが。」

「そう、まだ帰れないのかしら。」

「きっとすぐにご帰宅なさいますよ。あまり思いつめられませんよう。」

「そうね。」

私はふうっとため息をついて気を静めると、温かいお茶を飲んだ。


ほどなくして、カナンは部屋に戻ってきたけれど、収穫は無いようだ。

「思いの他、ガードが固くて…申し訳ありません。」

「いいのよ。ばたばたしても仕方ないわ。とりあえず、1日待ちましょう。」

私は首をもたげる不安をどうにかして押さえつけた。


1日経っても、やはりアデルからの連絡は無い。

ダンテスに聞いても、昨日と同じ答えが返ってくるだけだ。

私は久しぶりにお気に入りの店のお菓子が食べたいとカナンに買い物に出てもらった。

カナンを待ちながらボーっと窓の外を見てすごす。

暖かい部屋の中では悲惨な想像はあまり長続きしない。

アデルに何かある訳ないのだ。

だって、私たちはまだキチンと仲直りしていない。


カナンが戻ってくると、私は少し早めのティータイムをすることにした。

アグリには図書室へ本を返しに行ってもらって、部屋には私とカナンだけだ。

彼女が静かにお茶を入れる様子を眺めながら、「それで?」と尋ねた。

カナンに、ただお菓子を買いに行かせたわけじゃない。

屋敷の中で情報収集が出来ないのなら、外でしてもらうまでだ。

カナンはティーカップを私の目の前に置くと、落ち着いてお聞き下さいと前置きした。

「私の集めた情報では、アデルバート様と救護隊は既に問題の町へ物資を届けておられ、街道の復旧作業も予定より遅れはしましたが、終られています。状況から既に岐路につかれていると考えるのが妥当かと思います。山越えをされた頃と先日の吹雪が重なりますので、もしかしたら雪で足止めされているのではないかと。ダンテスが隠すということは、屋敷でも現在連絡が取れない状況なのではないかと思われます。」

「…。」

私はカナンの話した内容に言葉を失ってしまった。

カナンの言う通り、山の中に雪で足止めされているのであれば、それはもう雪山で遭難しているということだ。

私は細く長く息を吐いて気持ちを落ち着けた。

ゆっくりと空気を吸い込むと、頭の回転が速くなったような気がする。

するべきことを確認してから、側に控えているカナンに目をやった。

「ダンテスを呼びなさい。」

思っていた以上に落ち着いた女の声がした。


呼ばれてやってきたダンテスはいつもの隙の無い態度で私の目の前に現れる。

しかし、瞳の奥にやや疲れと焦りを宿しているだろうか。

「アデルからの連絡は?」

「…ございません。」

「私に何か言うことがありませんか?」

私は無表情でダンテスを見つめた。

いつもと違う私の雰囲気に、彼が戸惑うのが分かる。

「アデルからの連絡は最後にいつ来たのです?」

私の問いかけに、一瞬ダンテスが目を逸らした。

「4日前に出された岐路に着いたという早馬が最後かしら。」

ダンテスの瞳が揺れる。

何と答えたらいいのか、彼が考えをまとめるのを、私は待たない。

「ダンテス。出掛けにアデルから何を命じられたかは知りませんが、今のあなたの行動は執事として正しいのですか?」

私の問いかけに、ダンテスは一瞬苦い顔をして、居住まいを正すと深々と頭を下げた。

「申し訳ございませんでした。仰る通りです。それ以降連絡がございません。」

「捜索隊は?」

「はい。私めが預かっております護衛隊を向かわせております。」

「隊からの連絡は?」

「岐路にあります西の山で吹雪に見舞われた様だと。」

「分かりました。明日まで待って何かしらの成果が無いようなら、人を増やして。あと、これからは逐一報告をお願いします。」

「承知いたしました。」

ダンテスはもう一度頭を下げて謝る。

「いいのよ。どうせアデルに私を不安にさせるなとでも言われているのでしょう。」

「……。」

「私はそんなに弱くないつもりなんだけれども…。」

そういって苦笑すると、目の前の執事はいつに無く途方にくれた顔をした。

「皆、奥様のことをまだ理解できていないのです。ダンテスも。アデルバート様も。」

助け舟を出したのはカナンだった。

私はそれに頷いた。

「私は無理できる体ではありません。ダンテス、負担をかけますが、お願いしますね。」

私の言葉に、折り目正しい完璧な礼が返ってきた。

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