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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第5章:物語はどこまで続く
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閑話:差し出された手のひら。

辺りを見回すと深い森の中で、私は一人だった。


必死に歩くのだけれども、なかなか前に進まない。


ただの雑草や小さな石に足をとられてしまうのだ。


人影を見つけた気がして走るが、見間違いなのか見失ってしまったのか。


短い息の音が耳元で煩い。


全身が心臓になったかのようにバクバクと揺れている。


それでも必死で走っていたけれど、木の根に躓いて転んでしまった。


起き上がって手についた土を払って驚いた。


子どもの手のように小さい。


ふと足を見てみても、子どもの短い足だった。


こんなのでは到底帰れない。


そう思うと、視界が滲んだ。


私は泣き喚く。


途端にいくつもの大人の手が私に向かって差し出された。


見知らぬ人が気づいてくれた。


けれど、小さい私はその手を取らない。


知らない大人が怖くて、更に泣いた。


声が枯れる。


それでも泣き続ける。


しばらくすると、ふと目の前が明るくなった。


「どうしたの?」と優しい声がする。


泥だらけの手のひらを見せると温かい手が泥を落としてくれる。


「あらら、ころんじゃったのね。」


そう言って笑われると、途端に涙が引っ込んだ。


目の前では太陽のような髪をした線の細い女が笑っている。


「おかあさま」


呼ぶとふんわりと頭を撫でられた。


周りに居たはずのたくさんの人はいつの間にか居なくなっていた。


母は頭を撫でながら「だめじゃない」と微笑んだ。


「一人で森の中に行ってはダメと言ったでしょう?」


母の言葉にシュンとして謝る。


「助けてくれる人達がいたでしょう?」


だって、知らない人だもの。


怖かったのだもの。


「本当に?怖い人達だったのかしら?」


母は私を抱き上げて、瞳を見つめて問いかけた。


分からない。


どんな人だったか、分からない。


「そうね。でも、なんでも一人では出来ないわ。」


確かに、一人で森は抜けられそうに無い。


「私は助けてあげられそうに無いわ。」


どうして?


「おかあさまが側に居てくれればいいのに!」


私は思わず叫んだけれど、母はふんわりと微笑むばかり。


「私が居なくてもあなたは独りになったりしてないわ。」


母の髪が途端にまばゆく光りだす。


私は目を開けていられなくなった。


母の姿が見れないのは不安だ。


私は必死で手を伸ばす。


「なんでも一人で出来てしまうことが、いい事だとは限らないのよ。」


けれど、声は聞こえても、母は手を握ってはくれない。


光がはじけて闇が訪れる。


目を開くと真っ暗な森の中に居た。


私が泣くとまた、いくつもの手が差し出される。


私はひとしきり泣いた後、もう母は現れないと納得して、差し出された手を見る。


一番近くにあった大きな手をつかむと母の手より暖かい。


私はぎゅっと握り締めて夜の森を歩き始めた。




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