58.騙されていた、のか…?
またもや短いですがアップします。
結局、眠れずに朝を迎えた。
お腹に向かってごめんねと謝る。
窓を開けると、木の葉を突き抜けて雪に跳ねる朝日を胸いっぱいに吸い込む。
答えが出なくても、朝は来る。
その事に少し焦りを感じる。
朝食に呼ばれて食堂に入った私を見て、皆があわてている。
そんなに、ひどい顔をしているだろうか?
「あなた寝なかったのね!」
お義母様は労わりと非難を滲ませて私の髪を撫でた。
「朝ごはんを食べたらベッドに入りなさい。」
そう言われて頷く。
一晩中物思いにふけっていたせいか、ひどくお腹が減っていた。
ジャガイモのポタージュスープと、ベーコンと青菜の炒め物とパンを皆と一緒に食べる。
アデルはきちんと食べているだろうか?
「お義母様。」
「なぁに?」
「私、帰った方がいいですよね…?」
私の自信なさげな問いかけに、お義母様は困ったような表情を浮かべた。
「私は…そうは思わないわ。」
「アデルが心配していると思うんです。」
「えぇ。」
「彼は、自分のことを後回しにしがちで…きっと食事もとらずにいると思うんです。」
「大丈夫よ。」
お義母様はふんわりと微笑む。
それがアデルの笑い方にそっくりで、私は思わず見入ってしまう。
「今日、モッズが屋敷に知らせを送ります。お昼までにはアデルの耳に入るでしょう。だから、心配無いわ。」
「でも…。」
「大丈夫よ。むしろそんな顔で帰ったら出産が終わるまで2度と部屋から出してもらえないわよ?とりあえずゆっくり眠りなさい。いいわね?あなた一人の体ではないのだから。」
「…はい。」
私がしぶしぶ頷くと、お義母様は苦笑して食事を再開する。
私も、スープを口に運ぶ。
私一人の体じゃない…その言葉が胸に刺さる。
食事を終えて部屋に戻ると、程なくしてカナンが部屋にやってきた。
カナンは足湯を用意してくれていた。
申し訳なくなりながらも、湯の中で足をマッサージしてもらっていると、カナンがふとこちらを見た。
「どうしたの?」
そう聞くとハッとして、なんでもありませんと目をそらす。
それでもじっと眺めているとカナンは一つ小さなため息をついてから話しだした。
「いえ…その…どうして身を任せてくださるのかな…と。」
「どうしてって…?」
「今まで、私は奥様を騙していました。」
カナンは手を止めずに、私の足を見つめながらそう言う。
その言葉の苦々しい響きに私はつい、笑ってしまいそうでほほを引き締めた。
微かな水の揺れる音が妙に耳に響く。
「お義母様の従者だったって事?」
「はい。」
「そうねぇ。ショックが無かったと言えば嘘になるけれど…結局誰を主としていようが、私に尽くしてくれた事に変わりは無いじゃない?主で無いからといってカナンは一度も私を軽んじたりしなかったわ…それがあなたの陰者としての仕事だったとしても。だからよ。」
カナンはそうですかと言って一度口をつぐんだ。
馴染み深い沈黙が漂う。
私はカナンと作る沈黙をいつも通り心地いいものと思う。
足をマッサージし終えて、お湯から上げて丁寧に拭くとほんわりと温かく成ったのを感じる。
「ありがとう。」
「いいえ。何かご入用のものはございますか?」
「そうね…眠るまで側に居てくれないかしら?」
私の要望にカナンは眉を下げて微笑んだ。
カナンに椅子を持ってきて座るように指示すると、私もベッドの中にもぐりこんで体勢を整えた。
「寝物語に、あなたの話を聞かせて頂戴。」
「承知致しました。」
カナンは椅子に浅く腰をかけると手を口の前にもってきて、少し考えてから話し出した。




