56.昔話を続けましょう。
妊娠・出産に関してデリケートな問題を扱っています。
ご注意をお願いします。
2人が出会ったのはセシルバートが8歳、ティファニーが3歳の頃ね。
ティファニーは南部の伯爵家の娘でね、夏になると必ず家族で避暑にやってきていた。
少し茶色がかった金髪の、線の細い華奢な子で、少し引っ込み思案なところがあったけれど、セシルとはすぐに仲良くなったわ。
親が言うのもなんだけれど、セシルは穏やかな気質の優しい子だったから、誰とでもすぐ仲良くなれたのよ。
5つ違いのティファニーをセシルは妹のように可愛がっていたわ。
きっと、異性として意識し始めたのはティファニーが先でしょうね。
年も近い、家格も同じ、家族ぐるみで仲がいいとなっては、意識しない方が難しいかしらね。
ティファニーのお父様はラファエル領は遠すぎると渋っていたけれど、それも小さい頃の話。
セシルバートが成人する頃には、両家の両親がティファニーの恋を応援していたわ。
かわいらしい好意を向けてくれるティファニーに最初は戸惑っていたセシルだけれども、彼女が成人する頃には、彼も彼女以外の女性は考えられなくなっていた。
ティファニーの成人を待って婚約して、彼女が18歳になる頃に式を挙げたの。
初々しい2人の姿に、皆祝福を送ったのものよ。
結婚してすぐの頃は、2人は王都の屋敷で生活していた。
セシルは王城で文官をしていたし、もし戦争になればラファエル領は危険だからね。
若い二人をそんな土地に住まわせたく無かった。
せめて、家督を譲るまでは、2人で新婚生活を楽しんで欲しかったのよ。
仲の良い2人だったけど、なかなか子どもには恵まれなかった。
その分…というわけではないけれど、ティファニーはアデルバートを可愛がってくれていたわ。
離れて暮らしているとは言っても、夏は領地に避暑にくるし、秋は社交の為に私達が王都に行くのだから、1年の半分は共に暮らしているようなものだったしね。
アデルバートはお兄ちゃん子だったし、小さい頃から遊んでくれていたティファニーも大好きだったのよ。
ティファニーは少し病弱な所が有って儚げで、けれど優しくて可愛くて…子供心に守ってあげたいなんて思ってたんじゃないかしら。
2人が婚約する時なんか、まだ10歳なのに悔しそうな顔してね。
僕がティアと結婚したかった…って。
あ、アデルはねティファニーの事をティアと呼んでいたのよ。
小さい頃、ファと発音できなくてね。
大きくなってもそのまんまで。
僕だけがティアって呼ぶんだなんてませたこと言ってたこともあったわね。
それでも、結婚式の時にはアデルバートも嬉しそうだったけどね。
25歳になってセシルが家督を継いで、2人で領地に住まうようになって、それでも子どもは出来なかった。
子どもなんて授かり物だから…と皆でティファニーを励ましたり慰めたりしたけれど、彼女はとても気にしていたわ。
子どもを授かるのに良いと言われることは何でもやっていたし、子宝祈願なんかもあちこち行っていたみたい。
そうこうしている内に、ジェラルドが亡くなってしまって。
セシルの仕事は大変だし、私はこの家にこもるしで、子作りどころでなかったでしょうね。
迷惑かけているのは分かっていたけれど、私はどうしてもここを離れられなかったのよ。
だからティファニーはよくここを訪ねてくれたわ。
それから数年経って私がジェラルドのことを思い出しても泣かなくなる頃、養子を貰おうかと言う話が出たけど、その時は適当な子がなかなか見つからなくてそのうち有耶無耶になってしまった。
まだティファニーも20代だったから、急ぐ事は無いと言う話しになってね。
そしてティファニーが30歳を越えた頃、いよいよ養子を本格的に考えはじめた時、彼女が妊娠している事が分かった。
皆、それはもう喜んでね。
セシルバートなんてまだ何の膨らみも無いお腹に耳を当てたりしていたわ。
私もそれを機に少しずつ屋敷に顔を出したりしてね。
孫が生まれたらきっと屋敷に入り浸っちゃいそうと言った時、皆で一緒に住むのが一番ですなんてティファニーが言ってくれて嬉しかったわ。
ジェラルドが亡くなった後でもちゃんと笑えるのだと教えてもらったの。
家族も使用人達も、皆、ティファニーとお腹の子を大事に思っていたし、2人のおかげで幸せだった。
運命というのは残酷でね。
そんな幸せの真っ只中に居る時、突然セシルバートが死んでしまった。
雪が降る前にと鉱山の視察に行って、運悪く落石に巻き込まれてしまったのよ。
その情報が屋敷に届いた時、ティファニーのお腹はすでにはちきれんばかりに大きくなっていた。
順調だと言われていたし、その時までは元気だったはずなの。
でも、セシルバードの訃報を聞いた途端、彼女は倒れてしまってね。
皆必死で看病したのだけれども、赤ちゃんはだめになってしまった。
そして、死産の時に血を流しすぎたせいで彼女も衰弱がひどくて、その冬にひいた風邪をこじらせてね。春を迎えずに亡くなってしまった。
家族を一度に3人も亡くして、私は泣き喚く事しかできなかったわ。
すでに自分で身を立てていたアデルバートが戻ってきてラファエル家を継いで、一通り状況が落ち着くと私はまたこの家にこもったわ。
アデルバートは私に何も言わなかった。
家を継いだばかりで忙しかったんでしょうね。
時々様子を見に来るだけで、好きにさせてくれた。
でも、私はその事を少し後悔しているのよ。
彼も、父を亡くしてすぐ、兄と甥と、義姉を一度に亡くしてきっと辛かったでしょうに。
そんなアデルに全て任せて逃げてしまったのだから。
あなたが妊娠して、きっとアデルは喜びと同じくらい恐怖も感じているのでしょうね。
あなたとティファニーが重なってしまうではないかしら。
どんなに大切にしていても「絶対」大丈夫という事は無いと身にしみているのでしょうね。
お蔭様で、総合評価8000pt超えました。
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