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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第5章:物語はどこまで続く
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54.絶妙の塩加減。

窓の外で星が瞬き始めるころ、夕食だとカナンが呼びに来た。

この家の食堂は台所と食堂くっついているタイプで貴族の家には珍しい。

そして驚くべき事に、お義母様自ら台所に立って料理をしている。

モッズとお義母様が皿に料理を盛り付け、それをボレロが運んでいる。

ブルースは暖炉に向かってしゃがみ込んで、パンとソーセージを温めているようだ。

私は一瞬呆けた後に、ボレロの手伝いをする。

カナンは台所と食堂の間に有る、背の低い棚を空けるとグラスを出して飲み物を用意し始めた。

木で作られた大きなテーブルに同じ木で作られた椅子が6脚。

色とりどりのランチョマットがひかれた上に、料理と一組のカトラリーが並ぶ。

膝にかけるナプキンは用意されていない。

前菜、スープ、メインと分けて運ぶのではなく、すべての皿が一度にテーブルに並べられる。

今日は温野菜のサラダ、肉と豆と野菜のスープ、あぶったチーズパンとソーセージといったメニューだ。

品数はいつもの半分くらいだけれども、一つ一つの量が多く食べ応えがありそうだ。

思わず喉を鳴らす。

ハッと周りを伺い、誰も気づいてない様子に安心した。

すべての料理が並べられると、カナンが椅子を引いて座らせてくれる。

隣ではお義母様がブルースに同じようにされている。

私たちが座ると、ボレロがカナンの椅子を引いて座らせ、その後に男3人がそれぞれ自分で座った。

「びっくりしているかしら?家では食事は皆で一緒に頂く事にしているの。慣れてね。」

「はい、大丈夫です。」

実家でお姉様達に一緒にご飯を食べるのが嫌で、でも一人で食べるのも嫌で、結局キッチンでシェフたちと一緒に食べてもらった事を思い出す。

あの時も、料理を全部並べて皆で食べた。

「では、日々の恵みに感謝して。」

短いお祈りをしてから皆思い思いに食事を始めた。

私もスプーンを手に取ると、スープを口に運んだ。

「おいしい。」

思わず声が漏れてしまった。

一口飲んだだけで、体の中から温まってくるのが分かる。

具沢山のスープは野菜とお肉の出汁が良く出ていて、塩加減も絶妙だ。

なんだか泣きたくなるくらい優しい味をしている。

「スープはモッズが作ったのよ。たくさん召し上がれ。」

お義母様は私を嗜める事はせず、ふんわり微笑んでそう言った。

私はお義母様にうなずいて返してから、

「お料理が上手なのね。とてもおいしいわ!」

とモッズに向かって話しかけた。

モッズは少し驚いた顔をしてから、照れくさそうに顔を歪め、それでも口の中でありがとうございますと呟いた。

「本当に。塩加減が絶妙だわ。出汁も良く出てる。腕を上げたわね。」

カナンがそういうと、お義母様もボレロも大きくうなずいた。

それにモッズはぱっと一瞬うれしそうな顔をした後、それを引っ込めて普通だよなんて言っている。

彼は、もしかしたらとても素直な(・・・)素直じゃない人なのかもしれない。

「ねぇねぇ、お野菜は?僕が取ってきたんだよ。」

そう言い出したのはボレロだ。

カナンに向かって今にも飛びつきそうな勢いだ。

「そうなの。おいしいわよ。」

「とーってもおいしいわ。作っているの?」

「はい。ブルースが教えてくれます!」

カナンに続いて私が声をかけると、少し緊張した面持ちで敬語になった。

「敬語でなくていいわ。皆に話すように、私にも話して。」

「でも…。」

「ボレロ、お言葉に甘えたら?ただし、この家の中でだけよ。」

「はい!」

お義母様の取り成しでボレロは私にも遠慮なく話しかけてくれるようになった。

私とボレロのお喋りを皆が微笑みながら聞いている。


男性陣の食事は早い。

あっという間に食べ終わり、モッズとボレロはお替りをしていたが、それでも私より早く食べ終わっている。

私は食べきれないかもしれないと思っていた料理を完食した。

さすがに重くなったお腹をさすっていると、ブルースが食後のお茶を入れてくれた。

消化を助ける作用がある独特の風味のお茶で、鼻に抜ける香ばしい香りがパンパンのお腹を落ち着けてくれる。


後片付けを申し出ると、カナンとボレロが手伝ってくれて、3人で片づけを終えた。

ブルースやモッズは不安気にお義母様は面白そうにこちらをうかがっていたが、私の手つきを見てびっくりしたり残念そうにしたりしている。

「な~んだ。シンディーレイラは家事をした事があるのね。」

「貴族の夫人でそんな事するのは主様だけだと思っていました。」

「シンディー様、洗い物上手だね。僕、絶対お皿割ると思ってたよ。」

「ボレロ、それは失礼だ。」

「さ、皆さん邪魔です。片付けになりません。」

わらわらと手元を覗きにくる大人たちを嗜めて、カナンは肩をすくめてみせた。


後片付けが終わると、お風呂に入り、部屋に戻る。

暗がりの中でのんびりしていると、ドアがノックされた。

「はい。」

「カナンです。」

「どうぞ。」

カナンは厚手のガウンを持って入ってきた。

「少し早いですが、お休みになさいますか?」

「いえ、まだ眠くないわ。」

「であれば、主様がお話でもしませんかとおっしゃっておいでですが。」

「えぇ、ぜひ。」

私はカナンにガウンを着せてもらうと、居間へ移動した。


なんだか問題を後回しにしている感じがしますが…。

次こそは、語り始めます!

すみませんが、もう少々お待ち下さい。

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