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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第1章:物語ができるまで
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5.王子様との出会いの瞬間

会場に入るとあまりの広さと大きく煌びやかなシャンデリアと着飾る人々に圧倒される。緊張感が増すが、小さく深呼吸して辺りを見回し気が付いた。私を見て顔をしかめる人など1人もいない。偶然目があった初老の紳士がにっこり微笑んでくれたので、私も微笑みを返す。大丈夫。きちんと溶け込めている。


気を取り直して、継母をエスコートしているはずの父を探していると声をかけられた。

「お嬢さん、お1人ですか?」

20代中盤くらいの黒髪を後ろに撫で付けた緑色の瞳の美しい男性だった。柔らかく微笑んでいるのに、切れ長の目や細い顎がやや冷たい印象を醸し出す。突然の事に戸惑っていると男性が名を名乗る。レインフォード子爵というらしい。父のクランドール伯爵を探している事を伝えるとエスコートを申し出てくれる。悪い人ではなさそうだ。そう思って申し出を受けた。いくら完全武装ドレスアップしていても、娘一人でうろうろしていては悪目立ちする。


彼に連れられて広い会場をゆっくりと進む。途中声をかけてきた彼の友人らしき何人かと挨拶をしながら会話も楽しむ。

「やぁ、アデルバート。夜会では久しぶりだね。そちらの御嬢さんは?」

「クランドール伯爵令嬢だ。私も先程知り合ったばかりで。」

「はじめまして。」

「僕はルドルフだ。アデルなんかやめにして僕と踊らない?」

「ごめんなさい。父を探さなくてはいけないんですの。」

「そうか、ではまたの機会に。」

「では、失礼。」

まるでエチケットだと言わんばかりに、皆ダンスに誘ってくれる。始めはどぎまぎと断っていたのだが、2回3回と数をこなすごとに慣れた。残念そうに首をかしげると皆笑って許してくれるから、やっぱりこのやりとりは挨拶みたいな定型文なのだろう。

「夜会は何度目ですか?」

レインフォード子爵が歩きながら問いかけてくる。彼の声は落ち着いたテノールで耳に心地いい。

「初めてです。」

「そうですか、堂々とされているので、慣れていらっしゃるのかと思いました。」

そう言って微笑む彼を見上げると、肩越しに父を見つけた。その事を伝えると父の居る方へ向きを変えてくれる。近づくにつれて、父がこちらに気付き、目を見開くのが見えた。傍らには継母様と姉様達も居る。

「クロエッツァ…」

呆然と母の名を呟く父に小さく首を振って否定をする。

「お父様。」

にこやかに呼び掛けると継母様も姉様達もこちらを振り返った。

「体調は大丈夫なのかい?風邪を引いて来られないと聞いていたんだが。」

父の言葉に姉様達をちらりと見ると悔しさと焦りを隠せない様子だった。

「少し気分がすぐれなかっただけなのですが…お姉様達がすごく心配して下さったものだから…。ですが、せっかくの王子様のお誕生日ですから、私も参加したくなってしまって。いいでしょう?お父様、お義母様。」

甘えん坊のわがまま娘…というフリをしながら適当に話を合わせた。こんな所で本当の話をしたって、我が家の恥になるだけだ。仕方ないという風に父が肩をすくめるのを見計らって隣に居るレインフォード子爵を紹介する。

「お父様、レインフォード子爵です。入口で戸惑っていたらここまで連れてきてくださったの。」

父が慌ててレインフォード子爵に礼を言う。私の姿に驚いて、傍らの彼が目に入ってなかったようだ。

「こんばんは。クランドール伯爵。こんなに可愛らしいお嬢様を隠されていたとは知りませんでした。奥様も今夜はまた一段とお美しい。うらやましいかぎりです。」

子爵は父に笑いかけてから、気障っぽい言い回しで継母に話を振る。マゼンダはニッコリと妖艶な微笑みを浮かべた。

「まぁ、お上手ですこと。娘のエスコートありがとうございます。」

私を娘という彼女を初めて見た。ビックリするが、それが表に出ないように、微笑みを貼りつけてやりすごす。

「本当に親切にありがとうございました。」

名残惜しいが彼のそばを離れて父の脇へ移動する。それを名残惜しげに見てくれていたと思うのは、私の願望だろうか?子爵は父と何やら会話をした後、もう一度私の前に立った。

「こうしてお会いしたのも何かの縁、一曲お相手…」


レインフォード様がダンスへ誘って下さろうとしたその時、王太子殿下の入場が告げられた。



談笑していた人もダンスを踊っていた人も、皆殿下の登場を告げる侍従の声に動きを止めて頭を下げる。もちろん私も父も継母も姉達もレインフォード子爵も。頭を下げながら、この後もう一度誘われたら、初めてのダンスは父と踊りたいと言っても失礼では無いだろうかと考えていた。

そして、殿下の

「楽にしてくれ。」

という言葉に皆と同じように頭を上げ、


――おもわずみとれた――


殿下は金髪青目の立っているだけで気品が漂ってきそうな、所作の優雅な美青年だった。体格の割に小さな顔の中には形の良いパーツが黄金比で配置されている。それまでの思考を置き去りにして、夢中で彼の姿を目に写した。瞬きの度に顔にかかる濃い影、挨拶の為に開かれる唇、息を吸うたび揺れる髪、その全てを記憶に焼付けようと見つめる。会場に響く殿下の声は軽やかなテノールで耳に甘く心地いい。周りの人の呼吸音ですら邪魔だと感じる。あぁ、皆息をしないで。そう願った瞬間、挨拶中の殿下と目が合う。


あぁ、捕まってしまった。


いや、むしろ一目みたその時から捕まっていたのということに気が付いた。



私は殿下に恋をした。




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