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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第4章:物語は主役も変える!?
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閑話:女将の算段

庶民の友人のユユ視点です。

結婚して海辺の町に越して来たのが4年前。

夫と共に開いた小さな宿屋兼食堂は最近やっと軌道に乗ってきたと思うわ。

子育ても重なって、ここ数年は時間が経つのがとても早いの。


この辺りは美しい海岸が広がり、夏は観光客で賑わうのよ。

冬は閑散期だけど、それでも宿屋にお客が無いと言う訳ではないのよ。

港街の宿屋に入りきれなかった商人や旅人が足を伸ばしてくれるから。

それでも、やっぱり冬は食堂がメインね。

夫の料理は割と評判が良くて、宿屋の収入が無くても何とかやっていけているくらい。

夫が料理を作って、私が給仕をする。

3歳になった頃から娘達も、ランチの時間は店に居て、お手伝いをしてくれるようになったの。

といっても、カトラリーを出したりする簡単なお手伝いだけどね。


小さな宿屋の小さな食堂だから、本来ならば人を雇う必要は無いわ。

でも、シンディーに頼まれたら、断れないじゃない?

しかも、お給料は必要ないからなんて言われたらね。

丁度、妊娠していることも有って、承諾の返事をしたのよ。

最初はどうなることかと思ったけれど、今ではそうしてよかったと思ってるわ。


彼女の事情はおおよそシンディーから聞いているわ。

なんでも貴族社会が陰湿すぎて気を病んじゃったんだってね。

今は彼女一人でこの南部に療養に来ているけど、だんな様もこちらに来る準備をしているみたい。

よくわかんないけど、彼女にはのんびりしてて気安い人付き合いが必要だってシンディーが言ってたわ。

うちの宿に貴族のお客さんなんか来ないけど、貴族相手の商人なんかは時々来るからリシャーナと言う名前は伏せてリナと呼ぶことにしているの。

リナは立ち姿が綺麗な、凛とした美人さんなのだけれど、びっくりするほどできないことが多かった。

シンディーも一応伯爵令嬢だったから、貴族のお嬢様といっても身の回りの世話くらい多少できるのだろうと思っていたのだけれども、生粋の令嬢というのを甘く見ていたとしか言いようが無いわ。

黙っていると冷たく見えるのも客商売としては問題よね。

最初のうちは、なにか怒っているのかしらとハラハラしたもの。

緊張していただけと、今ならわかるけれどね。


初日は食堂の給仕を手伝ってもらおうとして、「いらっしゃいませ」が言えなくて、途中で帰ってもらっちゃった。

可哀相だけど、客商売だから、その辺はシビアにしないといけないもの。

2日目はとりあえず、給仕の仕事はハードル高いと考えて、ベッドメイキングを教えてみたの。

1台終わるのに3時間かかったわ。

3日目はベッドメイキングはコツがいるから…と思って部屋の掃除をしてもらうことにして…。

床を掃いてテーブルや棚の上を布巾で拭いてもらう簡単な掃除よ。

でも、布巾の絞り方から教えなければいけなかったわ。

4日目はなんとか掃除を一人でできるようになったの。

だから水汲みもできるかな?と追加で頼んでみたのだけれど、一度に運べる量が少なすぎて文字通り日が暮れちゃった。

5日目は宿の受付をやってもらうことにしたの。

これは、ほかの事よりもうまくやっていたのだけれど、目を離した隙に、宿泊客に軽口を言われ、真剣に悩んでしまっていた。可哀相な事しちゃったわ。

申し訳なさそうに決めた時間にきちんとやってくるリナを見て私も主人も彼女に辞めてもらおうとは考えなかったわ。

何より彼女のがんばる姿に「もう来なくていい」とは言えなかったの。


根気良く初歩の初歩から教えていると、彼女は真面目だったし、教えたことはすぐに覚える頭のいい人だったから、しばらくするとなんとか仕事ができるようになってきた。

最近は宿屋の方は彼女に任せられるようになってきてるわ。

お客さんの相手はまだ苦手みたいだけれど、こればっかりは一つ一つ経験するしかないからね。


そういえば、子ども達は思いのほかリナに懐いていたわ。

今日は子ども達のリクエストもあって、リナに久しぶりにランチタイムの食堂に居てもらってるの。

「い、いらっしゃいませ。」

なんとか言える様になった出迎えの挨拶に、ヌヌとムムはふくれっつらをした。

「リナ、もっとおおきなこえよ!」

「それにえがおがなかったわ!」

「いらっしゃいませ。」

「いまのはいいわ!」

「うん、えがおもかわいい!」

「そうかしら?」

「うん、じゃあつぎは?」

「おしぼりね。」

「そうそう、これよ。」

「はい。」

3歳の子どもに生意気な口を利かれているのに、リナは真剣に受け答えしていて、入ってきた常連客も面食らってそのやり取りを見ている。

「ご注文はお決まりですか?」

「に、肉料理のランチ、ご飯大盛りで。」

「はい、承知いたしました。」

少し丁寧すぎるくらいだけど、彼女にしては上出来ね。

少し前は声を出すことすら戸惑って出来なかったのだから、大きな進歩と言っていいと思うの。

「彼女、新人?」

「そうなんです、ちょっと知り合いから頼まれて…。不慣れだけれどよろしくお願いしますねぇ。」

そういうと常連客はあぁと言って彼女の姿を目の端で追っている。

残念ながら、人妻よ?

面白そうだから言わないけど。

「お待たせいたしました。」

ほどなく、リナが料理を運んで来たわ。

最初は本当にティーカップ以上の重さのものを持ったこと無いのでは?と疑うくらいに力が無かったけれど、今は大盛りに料理が載ったトレイも危なげなく持ててるわ。

「どうぞ、ごゆっくりお召し上がりくださいませ。」

「ありがとう。」

何気なくお客さんが発したお礼に、リナは花がほころぶような笑顔で答えたの。

それを見たお客さんの顔がほんのり赤く染まっちゃって。

これは…使える。

そう思ってしまった商魂たくましい私を許してね。

でも、私は笑みがこぼれるのを抑えられない。

年上の彼女に可愛いなんていったら怒られるかしら?

でも、その可愛い笑顔でがんばってもらいたいわ。


うちもきっと、もっと繁盛しちゃうわね。


類は友を呼ぶというか…

ユユはのんびりしたしゃべり口なんですが、しっかりちゃっかりした女性です。

それにしても、小説内で妊娠ラッシュが起きている…。

めでたい。



いつの間にか、連載を始めて1ヶ月が経ちました。

おかげさまで、ジャンル別ランキングの月間恋愛部門で第3位になることができました。

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