44.お茶会をしましょう。
「これで…良かったの?」
リシャーナを見送って一番に声を出したのは意外にもマーガレットだった。
何も知らない彼女達をかなり置き去りにして話を進めてしまったから、きっと皆、状況に付いてくるだけでやっとだろうと思っていたのに。
彼女は時々私をびっくりさせる。
「そうね。私は最良の終末だと思っているのだけど。」
そう言って皆を見回す。
「ラファエル侯爵もこれでよろしいのですか?ウィンズレッド侯爵家は連帯責任で降格されてもおかしく無いのですよ?」
リード子爵がアデルに目を向ける。
アデルは肩で大きく息を吐くと、仕方ないんですと苦笑いを返す。
「侯爵夫人の名裁きですな。」
ターナー男爵が大きな声で笑って、皆つられて笑いだす。
「皆、勝手ばっかり言うけれど、この事は内密にお願いします。城には犯人不明で届けを出すし、真実は皆の胸の中に。」
「かなり、知っている人の多い秘密ね。」
「良いのよ。どうせどうやったって真実よりも噂のほうがドラマチックなんだから」
レイチェルの少し皮肉の込められた言葉に、私は笑って答えた。
その後、私達はお茶会を再開した。
男性達はサロンの隣にある遊戯室でダーツを楽しんでいる。
意外にホワイトリー伯爵が上手な様だ。
入れ直した温かいお茶をゆっくりと楽しむ。
嵐はようやく去ったのだ。
そう思うと肩の力がふと抜けてしまう。
いつもなら、やんわりとたしなめてくれるリシャーナは居ないから、私はだらしない姿勢のままだ。
「シンディー。」
見かねてソフィアがたしなめてくれるが、優し過ぎて直す気になれない。
「リシャーナが居ないと、とたんに悪い子ね。」
エレノアが朗らかな声で言うと、次の瞬間、気まずい空気が流れる。
「あ〜ダメダメ。」
私は思わず姿勢を正して皆に向き直った。
「私は、とりあえず3年、彼女とは交流を持たないけど、皆は良いんだからね。それに、リシャーナの事や事件の事を禁句にする必要は無いわ。場所を選ぶ必要はあるだろうけど、私が居るからって遠慮しないで。」
私は力強く言い切った。
「事件について思い出して怖くならない?」
「大丈夫よ。」
「リシャーナの話してムカついたりしない?」
「平気。望む通りの罰を与えたのだもの」
「手紙とか、やり取りしていいの?」
「私の許しなんか必要ないわ。逆にお願いしたいくらい。時々彼女の様子をおしえてくれる?」
「あなたがそういうなら…。」
「…私は無理よ。」
クリミナが硬い声を出した。
「そうね。もちろん。」
私は努めて軽くそれを肯定する。
無理をして交流する必要も、無理をして絶交する必要もないのだ。
それぞれが、それぞれの立場と気持ちで動けばいい。
考え方が違ってもそれが認め合えるから友人なのだ。
夫婦ではそうはいかない時もある。
私の様子をどう受け取ったのか、クリミナは深いため息をついてから苦笑した。
「3年後、皆でお茶会ができるといいわね。」
「そのころには、みんな子どもがいるかしら?」
「きっと、落ち着いてお茶なんか飲めやしないわね。」
「あら、乳母に預ければいいのでなくて?」
「でも、子ども達同士遊ばせてあげたいわ。」
「そうねぇ。」
「男の子か女の子かどちらがほしい?」
「うちは女の子ね。」
「うちは跡取り産まなきゃ。」
「そういえば、出産は領地でするの?」
「えぇ、そのほうが落ち着いてできると思って。」
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きっと、3年なんてすぐに経つ。
これにて誘拐事件解決です。
お付き合いありがとうございます。
当初は、このまま終わる予定だったのですが、
書きたいことが出てきちゃったので、もう少しお付き合い頂ければと思います。
おかげさまで総合評価7000pt超えました。
今後ともよろしくお願いいたします




