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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第4章:物語は主役も変える!?
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41.お風呂とスープとアデル。

気が付くと王都の屋敷で寝かされていた。

雨戸の閉められた窓の隙間からは柔らかい光が漏れていてまだ日が出ているのが窺えた。


私は酷く喉が渇いていて、テーブルに置かれた水を飲もうとベッドから降りて、足に力が入らずへたりこんだ。

思わずしがみ付こうとした椅子がガタンと音を立てて倒れる。

するとすぐにドアが開き、侍女服姿のカナンが現れた。

「奥様!」

久しぶりに聞いた懐かしい声に笑顔を向けようと頭を上げて、クラクラと目が回ってしまった。

カナンはその小さな身体のどこにそんなパワーが有るのか分からないが、私を軽々抱えると、ベッドに戻してくれる。

背中に枕を当ててもらってじっと目眩をやりすごす。

「…ありがとう。」

目眩が直って、お礼を言うとコップが差し出された。

慌ててしまったのか一口目がうまく飲み込めなくてむせてしまう。

それでも体は水分を欲していて、時々つっかえながらも一気に煽った。

結局コップに2杯半飲んで、ようやく喉が潤って落ち着く。

コップを返しながら、もう一度お礼を言ってカナンを見る。

「ご気分はいかがですか?」

「お風呂に入りたいわ。」

身体は清めてもらったらしくベタベタしたりはしないが、温かい湯船の中でゆっくりと手足を伸ばしたかった。

しかし、そういう私をカナンは困った子どもを見るような目で見た。

「今日はなりません。」

「どうして。」

「山小屋で倒れられてから丸3日寝ておられたのですよ。」

カナンのセリフに目を剥いた。

「3日も?」

「はい。」

詳しい話を聞こうとしているところへ、バタバタとアデルが走り込んできた。

私は、彼がノックもしないでこの部屋を訪れるのは初めてだなぁと暢気な事を考える。

「ティア!」

「アデル。」

久しぶりに見た彼に思わず手を伸ばすと、それまでの勢いはどこへやら、彼は壊れ物でも扱うみたいにそっと抱きしめてくれる。

その柔らかい手つきにもどかしさを感じて、ギュウっと力を込めて抱きしめると、彼もそれに応えてくれた。

少しの息苦しさと、両手いっぱいの温かさに帰ってきたと改めて感じる。

アデルのぬくもりを堪能して腕を離すと、カナンはいつの間にか退室していた。

彼女がいつ居なくなったのかわからなくても気にしない。

彼女は規格外の侍女なのだから。

迎えに来てくれた彼女の姿を思い出して、もう知らないフリは必要ないのかと思った。

彼女が今も側に居てくれることにじわじわと喜びが湧き上がる。


私は頭の一部でそんなことを考えながらも、私の目は必死にアデルを見つめている。

女と言うやつはとても器用だ。

少し、やつれたように見える。

くたびれた様子の彼の眼にはいつもの輝きは無い。

それが痛ましくて、私は彼の頬を撫でた。

「だめじゃない。ちゃんと、休んでいるの?」

そう声をかけると、彼は一瞬きょとんとして、直ぐに困ったように笑った。

「本物のティアだ…。」

何かに感動したらしいアデルが、訳のわからない感嘆の声を出す。

「私以外にティアがいたの?」

そう尋ねると彼は微笑みながら、首を横に振るばかりだった。

「目覚めた時に、側に居たかったんだが、すまない。」

「いいの。そんな小さな事は。こうして帰ってこれたのだから。」

彼の自嘲気味な態度に、私はそう返した。

だから、私がガーデンパーティーで席を外す時に彼に声をかけそびれた事も、水に流してほしい。

そんな私の思惑には気づきもせず、彼は私の無事をただただ喜んでいてくれるようだ。

よかった。


「ありがとう。見つけてくれて。」

実際に見つけてくれたのはカナンだが、きっと彼が陣頭指揮をとってくれていたのだ。

正確な数は分からないが、かなりの数の人が動いてくれていたようだし。

お礼を言うと彼はまた自嘲気味に笑って、遅くなってすまないとつぶやいた。

彼のこんな元気のない様子は見るに堪えない。

きっと私を心配して、睡眠も食事もとっていないに違いない。

私が目覚めた時に、倒れていたらどうするつもりなのだろうか。


「アデル、お腹がすいたわ。貴方も、食べるでしょう?」

「え?あ、あぁ。」

彼は隣の部屋で待機していたカナンに声をかけ、食事の用意を頼んだ。

するとあっという間に食事が運ばれてくる。

頼む前から用意してくれていたのが分かる素早さだった。

ベッドで食べるように勧める2人を制して、私は寝室のテーブルに食事を並べてもらった。

きちんとテーブルで食事がしたかったのだ。

椅子の背もたれにクッションをあてがって、だらしなく凭れているけれども、テーブルについている事には間違いない。

食事は温かいポタージュスープで、たくさんの野菜が溶け込んでいるようだった。

屋敷の料理人がいつでも食べられるように煮込んでいてくれたに違いない。

優しく、深い味がした。

皿の半分程飲んでから少し休み、時間をかけて味わう。

残念ながら全部飲み干すことはできなかったけれど、体の中に熱が灯るのがわかった。

私の様子を窺いながらスープを飲むアデルだったが、彼の方はパンも一緒に食べることができている。

食事を終えて、少しまともになった彼の表情に満足する。


再びベッドに戻ると、少しの時間だったけれど体はとても疲れてしまった事が分かった。

それでも、満足感が体を軽くする。

休みなさいというアデルに少し話をしたいと甘えてみた。

彼は困った顔をして、それでも私の手を握り、手の甲をゆっくりと撫でてくれる。


「この事件はどう処理されるのかしら?」


アデルの体調の次に気になっていた事をズバリ聞く。

彼は小さなため息をつくと、あきらめた様に話し始めた。

感動の再開をしても、シンディーはシンディーでした。

反応薄いようですが、彼女も喜んではいるのです。

でも、余計な事ばっかり考えているので、アデルが可哀相に見えますね。

そしてやっぱりアデルは間が悪い…そんな設定無かったんですけどね。

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