36.帰りましょう。
ふと気が付くと小鳥の鳴き声が聞こえ、小屋の中には柔らかい朝日が差し込んでいた。
遭難生活では日の出と共に行動を開始するのだが、久しぶりに寝坊したようだ。
ゆっくり眠ったおかげか、頭痛が少しおさまっている。
それだけで少し気分が軽くなった。
昨夜はなんだか悪い事ばかり考えてしまった。
疲れているとろくなことを考えない。
それでも、朝を迎えられたのだから前を向かなければいけない。
「今日も頑張ろう。」
そう言って立ち上がった時である。
にわかに小屋の外が騒がしい。
私は脱ぎかけた毛布を握りしめて身を縮こまらせた。
まさか、こんな朝早くに賊だろうか?
そういう輩には夜遅くまで酒でも飲んだりしてもらって、朝は動かないでいただきたい。
朝早くに元気な盗賊なんか見たくない。
どうか見つかりませんようにと祈るのに、馬の足音がこちらに近づいて来て、止まった。
泣き出しそうな気持ちを抑えて、ナイフを握る。
手入れもせずに連日使い続けてボロボロだ。
こんなもので何ができるというのだろう。
コンコン。
予想に反して穏やかなノックが聞こえた。
私は最良の想像が頭を駆け巡るのを必死で制した。
コンコンコン。
先程よりも性急な感じがするが、再度のノックに賊で無いと確信する。
ドンドンドンドン。
力強く叩かれたドアは次の瞬間、蹴破られた。
ドアを開けようかと様子を窺っていた私はもう一歩でドアに巻き込まれてしまいそうだった。
危なかった…。
私は板っぴらになった元ドアを見るのに必死で、光の中に立つ人物を見るのが遅れる。
もう限界が近かったのかもしれない。
連日よく眠れもせず、食べれもせず、歩き続けていたのだ。
思考も感覚も正常に機能していなかった。
「奥様!!」
聞きなれた声に顔を上げると、カナンがドアの前に立っていた。
いつもの侍女服では無く、烏色の体にぴったりと張り付くような服を着ている。
あぁ、助かった。
腰が抜ける私にカナンが近寄ってくる。
外で「見つかったぞ!」とか「奥様だ。」とかいう歓声があがっている。
はたと気が付いて慌ててカナンを制した。
「私、汚いから。」
一週間以上森を彷徨ったのだ。
自分ではわからないが、きっとすごい体臭を放っているに違いない。
そういう私を無視して、カナンは私を抱きしめてくれる。
「遅くなってしまって申し訳ありません。すぐに、帰れますよ。」
そのぬくもりに気を失った。
薄れゆく意識の中で、私を呼ぶ声をいくつも聞いた。
結局、見つけたのはカナンっていう(笑)
そうそうタイミング良くアデルが見つけられる訳無い…というよりカナンの勇姿を登場させたかったのです。
私の好みの問題でアデルの見せ場が減りました。




