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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第4章:物語は主役も変える!?
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31.お忘れ物にご注意を。

ガーデンバーティーはオズボーン公爵邸で毎年行われるらしい。

このパーティーが終わると、社交の季節も終わりを迎える。

エレノア、マーガレット、クリミナなどあまり社交界に重点を置いていない旦那様を持つ者はこのパーティーが済むと本邸に帰る。

私もこのパーティーが今季最後のお呼ばれだ。

王都の東にだだっ広い敷地を持つ公爵は国中ほとんどの貴族を招待する為、王城での夜会のようなにぎわいを見せる。


私はアデルと共にホストの公爵への挨拶を済ませると、庭に出て秋の花を楽しむ。

春の華やかさや夏の力強さは無いけれども、秋の庭も深い色合いと落ち着いた風情があり良い物だった。

最近流行し始めている落ち着いた色合いのドレスにも似ている。

紺や茜、山吹色と言ったドレスを纏う婦人達はさながら秋の花の妖精のようだった。

私は、今日は藍鼠と千歳緑の生地を重ねたボリュームのあるドレスを着ている。

首と耳には一昨日もらったガラスのアクセサリーをつけ、むき出しの肩を隠すのは墨色をした毛皮のケープだけだ。

「あら、カフスを付けてこなかったのね。」

花に手を伸ばすアデルの手首を見てふとつぶやく。

「あぁ、忘れてしまっていたな。」

そっけないボタンで留められたままの袖口に若干の寂しさが漂う。

私の装いと同じ色味のカフスを用意していたのだが仕方ない。

「ま、仕方ないわね。」

私は明るく言い、アデルもそうだねと気にするのをやめた。

アデルに引かれながら散歩をし、パーティーの中心になっている噴水の周りに戻ると、エレノアとリシャーナが白くて華奢なガーデンテーブルを囲んでお茶していた。

「行ってきていい?」

「あぁ、席を離れる時は必ず声をかけて。」

私はアデルに見送られ友人達の元へ向かう。

「ごきげんよう。」

「ごきげんよう。」

「シンディーも一緒にどう?」

近づくと席を勧めてくれる。

私が2人と同席したのを見届けると、アデルは少し離れたベンチでしゃべっている男性陣に合流した。

「貴方たちは、いつも仲がいいのね。」

おしゃべりしながらも時折アデルと目を合わせていると、呆れたようにリシャーナが言った。

「ごめんなさい。でも、今年は気を付けようって決めてるのよ。嫌な思いをさせられるのは一度で十分。」

私は肩をすくめてリシャーナに謝った。

「謝る事はないわよ。」

リシャーナの笑顔は秋の庭に似ていると思う。

どこが…というのは分からないけれど。


その内一人、また一人とやってきていつもの様に8人が揃った頃、裏庭の話になった。

話し始めたのはクリミナだ。

「皆、裏庭はもうご覧になったの?」

「裏庭?」

「私は行ってないわ。」

「私もよ。」

口々に否定の返事をする私達にクリミナはあきれ顔だ。

「あら、もったいないわね。」

「どういうこと?」

「公爵邸の裏庭はとても美しいと評判よね。」

クリミナに賛同したのはレイチェルだった。

「あら、知らなかったわ。」

「へぇ、何が咲いているのかしら。」

マリエッタやソフィアが興味深々と言った様子で尋ねる。

「今はダリアでしょうね。」

「ハギも有名だけれど、今はもう終わりかけの時期よね。」

「そんなに見ものなら見に行きましょうよ。」

「いいわねぇ。」

私達は一斉に立ち上がりかけてリシャーナに止められる。

「8人でぞろぞろ行きますの?」

「それも、そうね。」

「別れましょうか。」

そうして2組に別れる事にした。

先発はレイチェルを案内人にソフィア、マリエッタ、マーガレットだ。

私とリシャーナ、エレノア、クリミナは4人を見送る。


そうして4人を見送ると、急に静かになってしまった。

沈黙を破ったのはエレノアである。

「あの、話があるのだけれど。」

「どうしたの?改まって。」

「そういえば、今日はおとなしいわね。何かあったの?」

「実は…妊娠したの。」

一瞬、沈黙が訪れた。

のち、3人同時にエレノアに詰め寄る様にして歓声を上げた。

「すごいじゃない!」

「妊娠してどれくらいになりますの?」

「もうすぐ3カ月だって。」

「ということは来春には生まれるのね。」

「どうしてみんなの前で言わなかったのよ。」

「いや、恥ずかしくって。」

まだぺったんこのお腹をさすりながらエレノアは照れたように笑った。

「戻ってきたらちゃんと言いなさいな。」

「きっと皆喜ぶわ。」

「ありがとう。でね、裏庭はちょっと遠いから、みんなだけで言ってきて。実はつわりが少しあって…。」

眉をハの字にするエレノアを皆、慌てて気遣う。

今度は寒くないかとかカウチを持ってこさせようかとか言いながら詰め寄って、ちょっと怖いと窘められた。

「裏庭はきっと来年も見られるわ。」

「今は体を大切にしなきゃね。」

「えぇ、残念だけど。」

元来植物が好きなエレノアは残念を通り越して悔しそうだ。

「エレノアが一番にお母さんになるとはね。」

「わからないわよ。意外とマーガレット辺りも既に妊娠していたりして。」

「そうね、マーガレットなら気づいてないだけって可能性もあるわね。」

「わかるけど、そこまでいうのは可哀そうでなくて?」

その後はずっと妊娠についての知識交換をした。

私には披露できる知識はトーマスが産まれた時の物だけだけれども、クリミナが良く知っていた。

クリミナには弟や妹がたくさんいるらしい。

私たちはあまり実家の話をしないから知らなかった。

そうこうしている内に先発隊が帰ってきた。

皆一様に頬を上気させて庭の素晴らしさに興奮気味だったが、エレノアの報告を聞くとまた一段と顔を輝かせた。

意外と、一番感動していたのはマリエッタだった。

騒ぎがひと段落してから裏庭に向かう。


私は冷静なつもりだったけれども、やはり嬉しい知らせに舞い上がっていたのだろう。


アデルに声をかけそびれた。





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