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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第3章:物語は舞台を変える
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16.雨音響く、小屋の中で。

外は夜の帳が降りたのか、薄暗かった室内は本格的に真っ暗になった。

ただ、闇に慣れた目はお互いをぼんやりと映し出してくれる。

フルリと私の体が震えると、心配そうにアデルが覗き込んでくる。

笑顔を返して大丈夫だと伝えると膝と毛布を抱き込んだ。

夏なのだが、山で、夜で、その上雨で、なかなか体は暖まらない。

果物を摘まんだのも影響しているのかもしれない。

しばらくそうしていると、おもむろにアデルが立ち上がり、私の真横に座りなおした。

「アデル?」

「私も、寒くてね。」

そういうと、彼は毛布ごとすっぽりと私を抱き込んでしまった。

夫婦なので、問題はないのだが、私の心臓は張り裂けそうだ。

「少し、マシだと思わないか?」

「…えぇ、そうね。」

疑問形で尋ねながらも、彼の言葉からは否定を認めないという確固たる意志を感じた。

恥ずかしいし緊張するだけで、私にも否やは無い。

背中にじわじわと伝わってくる温かさを逃がすまいと体は勝手にすり寄っていく。


そうして、じんわりと体に熱が戻ってきた頃、アデルがポツリと口を開いた。

「君の髪は、闇の中でも明るいな。」

「何を唐突に?」

「君と初めて出会った時も、この髪に見惚れたんだ。」

「初めて?」

「そう。君はまだ15歳だった。」

アデルの言葉がうまく飲み込めない。

「15歳?」

「あぁ、君のはじめての夜会だと記憶している。」

やっと彼が言っている事が理解できて、私は思わずうなずいた。

「…やっぱり。」

「やっぱり?」

「あなた、レインフォード子爵ね。」

あの夜、彼と踊っていたら、何か運命は変わったのだろうか?

そんなことを考えたことも有る。

「気づいていたのか?」

「初めて屋敷であなたを見た時は分からなかった。でも、思い出したのよ。緑色の冷たく見える目をした男性だった。」

「ひどいな。」

「冷たく見えるのは知っているでしょう?」

「あぁ。」

アデルが目を細めて困ったように笑う。

「でも、本当は冷たい人ではないと、私は知ることができた。」

彼の頬をそっと撫でると緑色の瞳が小さく揺れた。

「ティア。」

「…続きを教えて。」

「続き?」

「髪に見惚れて声をかけたら15歳の女の子だったんでしょう?当時20歳を超えていたあなたが相手にするとは思えないけれど…まさか、そういう趣味が?」

「いい加減にしないと怒るよ?」

「…ごめんなさい。」

「そうだなぁ…


あの夜会で君の後ろ姿を見て、その髪の色が印象的だった。

オレンジがかった金髪が蜂蜜の様で美味しそうだと思った。

連れも居ないようだったから、声をかけようと顔をみたら、成人したばかりの少女だったことにびっくりした。

後ろ姿からは想像もしていなかったから。

今から思うと、何を基準にそう思ったのかわからないけれど、顔を見るまで、割と年の近い女性だと思い込んでいたんだ。

だから、声をかけるのをやめようと思ったんだけれど、なんだか様子がおかしいことに気付いた。

成人したばかりの女の子を家族が1人で夜会に寄越す訳がないとね。

特に、あの夜会はウィルフレッド様の誕生日を祝う会だったからね。


君も今は分かっているだろうが、陛下は昔から気が多いというか、その、惚れっぽい人だと有名だったからね。

彼に娘を差し出すつもりのない親達は、極力娘を前には出さないのが普通になっていた。

逆に、差し出すつもりの親達は、飾り立てた娘の側であれやこれやと世話を焼く。

だから、いかにも殿下の好みそうな、線の細い儚げな少女が一人でいるはずは無いんだよ。

それに、周りの目も気になった。

覚えているかい?

何人かの男どもが君を品定めするように見ていたのを。

だから、声をかけてみた。

君に手を出すつもりも、少女を誑かす趣味もなかったけれど、放っておいて何か有ったら寝覚めが悪いからね。

そして、君に声をかけると案の定、家族とはぐれたっていうじゃないか。

エスコートをして、家族を探すのを手伝うことにした。


本当なら、それだけで終わるはずだったんだ。

けれど、途中で私の悪友たちからの誘いをそつなくこなす様子や、堂々とした振る舞いを見て、なんだか興味をひかれてしまった。

だから…少女趣味ではないよ。

この子はどんな女性になるんだろうか?って思ってね。

儚げでおしとやかそうな外見と、君の言動とのギャップが気になってしまったんだ。

そして、両親の元に届けた後の様子も気になった。

なんだか、招かれざる客っていうのかな?

君の父上も継母(はは)上も君が夜会に来ていることを良く思ってないようだった。

君の父上に確認すると、連れてくるつもりは…つまりウィルフレッド様に見せるつもりは無かったと言われた。

なんとか殿下に目をつけられたくないという父上にお願いされて、恋人の振りをすることにした。

いくらウィルフレッド様でも夜会でべったり一緒にいるような恋人の仲を裂いたりはなさらないから。


でも、急に恋人同士の様な振りはできないだろうから、ダンスに誘おうとしたんだ。

でも、ダンスはできなかったね。

タイミングが悪かったのかな?

殿下のお越しがもう少し後の予定だったものだから、私たちはのんびりしすぎたんだ。

もう少し早く行動を起こしていればと悔やんだよ。


そして、あれよあれよと言う間に君は側室になってしまった。


そのうち、いつまでも君の事を気にしている自分に気が付いて…あれ?ティア?寝たの?」


疲れた体がほかほかと温かく、私はもう目を開けるのも、口を開くのも億劫で、アデルの胸に顔をうずめた。

とくんとくんと規則正しい心音がさらに睡魔を引き寄せる。


「仕方ないな…これからが良い所なのに。私が君を手に入れる為に何をしたか知りたくないの?」


知りたい。でも睡魔に勝てそうにないから、また今度。


「おやすみ」


額に唇が押し付けられる感触がする。

私は隠していた顔をあげる。

唇にしてほしいと思ったから。


一瞬の間の後、触れるだけのキスが落ちてきた。


そのまま私は夢に沈む。

やっとキスですね。

侯爵我慢強いですね。

偉いなぁ…若いのに…と思いながら書きました。(笑)


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