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「めでたし、めでたし。」じゃ終れないっ!  作者: 律子
第3章:物語は舞台を変える
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11.初めての夜は月が見守る。

ちょっと無理やりっぽい描写が有ります。

少しでもそういうの嫌な方はバックお願いします。

部屋に戻り、ドレスを脱いで夜着を着ると、ガウンを羽織ってお茶を飲むことにした。疲れて眠いという思いとは裏腹に、初めてたくさんの人に出会った興奮からか、なかなか眠気はやってこない。寝室にカウチを運び込んでもらい、そこに体を預ける。

「カナンも疲れたでしょう。もういいわよ。」

「控室におりますので、何かございましたらお声掛けください。」

「あなたもお部屋をいただいているのでしょう?そちらで休んだら?」

「いえ、今日は私が控えさせていただきます。明日からは交代になるようですので。」

「そう?では、お休みなさい。ありがとう。」

「お休みなさいませ。良い夢を。」

そういうと、彼女は明かりを落として寝室をあとにする。


月明かりの下でゆっくりとお茶を飲む。窓の外は闇に染まっていた。昼間のまばゆい緑も、月明かりの柔らかい光の中では影を濃くするばかりだ。しばらくそうしていると、小さなノックが響いた。返事をすると、カナンの出て行ったのとは逆のドアから、光の筋が差し込む。


「起きていたのですか。」

侯爵が控えめな声でささやいた。

「侯爵様…えぇ、少し月を見ていました。」

そう返事をすると、彼は私の座るカウチの足元に腰をおろした。

「アデルバートですよ。」

「え?」

ただでさえ暗い部屋の中で、月明かりが逆光になって、彼の顔は見えない。

「あなたは私の妻になったのです。アデルバートと呼んでください。」

「アデルバート様…。」

「そう。私もセレスティアと呼んでも?」

「えぇ、もちろんです。……もし、呼びにくいようでしたら『ティア』と。」

「ティア?」

「はい。小さい頃、母がそう呼んでいたのです。」

そうですか、とうなずいた侯爵様が小さく笑った気がした。その時にふと、後回しにしていたことを思い出した。こういうことは最初にはっきりさせなければならない。

「侯爵さ…いえ、アデルバート様。お話があるのですが。」

「どうぞ。」

聞いてくれるらしい彼に、居住まいを正して語りかける。

「こんな厄介者には勿体ないお気遣いありがとうございます。私に何ができるか不安ですが、侯爵夫人としてのお勤めは精一杯させて頂きますので、不備が有りましたらご指導お願い致します。差し出がましいようですが、私侯爵様が愛人を囲われても気にしませんので、どうぞご遠慮なく。ご自由になさって下さい。もし、愛人を屋敷に住まわされる場合は顔を合わすのはいささか荷が重いので別邸に住まわせて頂けると有り難いです。一人で住まうのですから、小さな小屋で十分ですから。」

思い付くかぎりを話してから侯爵様を見ると返事がない。

何か怒らせるような話をしただろうか?


もう一度、口を開きかけた瞬間、グッと手を取られて引き寄せられた。

「……お情けは必要ありませんよ。」

冷静に対応したつもりだけれども、声が少し震えている。しっかりしろ、と内心で自分を鼓舞する。こういう時の怯えや戸惑いが男性を煽ることがあるというのは知っている。

「跡取りを産むことが侯爵夫人としての一番の仕事だと思いませんか。」

冷ややかな彼の言葉にピクリと身が震えた。

「アデルバート様はそれを望まれているのですか?」

「侯爵家の跡取りを残さないという選択肢は無い。」

それもそうかと思い体の力を抜いた。手を引かれるままに彼の胸に体を預け、彼の好きにさせることにした。あごを指先で持ち上げられ、上を向くと彼の目が見えた。外の木々と同じく、月影の中で黒く見える本当は緑色の瞳。黒目黒髪というのもキレイだな…と場違いな事を考えていると唇を奪われた。丹念な口付けは驚く程熱い。熱心な唇と舌に吐息まで奪われていると不意に体が浮いた。口付たまま、彼が私を運んだ先はベッドで、やや乱暴に降ろされる。ふかふかとした感触に目を開けると、目じりに涙が滲んでいた。


あぁ、嫌だ。これでは生娘のようではないか。


冷たくみえるはずの彼の瞳に浮かされたような熱が灯っている。乱暴に押し倒されたかと思えば、触れる唇も指先も柔らかく優しい。久しぶりの感触に吐息混じりに拒否の言葉を発した。

すると侯爵はピタリと手を止める。

「アデルバート様?」

「すいません。少し、頭を冷やします。」

「え?あ、あの?」

「あなたは私の妻です。私には愛人も居ないし、浮気の予定も特にない。」

「あ、はい。」

「でも、嫌がる女性に無理強いする趣味も無いつもりです。私は隣の寝室で休みますから、安心しなさい。」

そういう侯爵の顔はどこまでも無表情だったけれど、部屋を後にする彼の後ろ姿が寂しげで私は少しも返事が出来なかった。自分で夜着を整えて、冷めた紅茶を一口のんでから、彼にお茶の一つも勧めなかったことを思い出して、私はなぜかそれをひどく悔いた。

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