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39:青白色の吉報

領地に帰って間もなくティアが体調を崩した。本人はそ知らぬふりをしてやり過ごしていたようだが、侍女達からティアの体調が思わしくないと報告があり発覚した。侍女たちが言うには、微熱があり、体がだるそうで疲れやすく、食欲もあまり無いような様子らしい。本人に尋ねると旅の疲れが少し出たみたいと言うので様子を見ることにする。だが、悪化もしなければ、良くもならない。1週間たっても食欲が戻らないようなので医者を呼んだ。私は王都の滞在が長引いたせいで冬支度に追われていて、診察に付き合う時間は取れなかった。


急いで仕事を終わらせて、いつもより早めに帰宅するとティアが迎えに出てくれた。体調を崩したらしいと報告があった時に、出迎えはしなくても良いと本人に直接言ったのだが、彼女は私の仕事はこれくらいしか無いのと笑って取り合わなかった。しかし、明かりが灯される前の薄暗い玄関でも彼女の顔色の悪さははっきりと分かる。定型の挨拶もそこそこ診断結果を尋ねるが彼女はふんわりと微笑んで

「後ほどゆっくりと…」

と片目をつぶった。その冗談めかした仕草が返って不安を煽る。何か大きな病と診断されたとして、ティアならば悲観的になっても仕方ないと何でもない事のように振る舞うのでは無いかと思う。彼女の感情を押さえた態度が私には努めて明るく振る舞おうとしている様に見え、早く話を聞かねばという気持ちと出来る事ならば聞きたくないという気持ちに挟まれて、そわそわと夕食の時間を待った。

部屋で着替えを済ませ、食堂に入るとほほ笑みを浮かべたティアが既に居た。食卓に座るとそっと手をとられて励ますように撫でられた。私は無意識にコクリと喉を鳴らすと、意を決して彼女の手を握り返す。

「どこか悪いのか?」

「いいえ。違うのよ。」

何と言おうか瞬巡する様子に私は悪い結果ばかりが頭に浮かぶ。とても情けない顔をしているに違いない。ティアは困った子どもを見るような顔で私を見ている。

「では、どうした?」

「あのね…子どもが出来たそうよ。」

ティアの言葉がうまく理解出来ない。

「こ…ども…?」

こどもとは、どんな病だったかと真剣に記憶を辿るが、私の知識にそんな名前の病は無い。

「えぇ、貴方の子がここに。」

そういってティアがお腹をさする仕草にようやく、子どもと言う言葉の意味を理解できた。玄関での表情も話を先延ばしにした理由もようやく全てが腑に落ちる。

「子どもができたのか!」

「そうよ。体調不良はつわりですって。」

私は立ち上がってティアをそっと抱きしめた。

「ありがとう。」

口を突いて出た言葉は、今はまだ的外れかもしれない。しかし、ティアが病気じゃなかった安堵も家族が増える喜びも一緒くたになって溢れてきて、私はそれしか言えなかった。

「まだまだ、これからよ?今3ヶ月ですって。予定は来春。」

腕のなかでティアは半分呆れたようにくすくす笑っている。私は取り乱した自分が急に恥ずかしくなって、体を離すと頭を掻いた。

「そうか、春か。体に気をつけないとな。」

「えぇ。」

微笑むティアの顔はやはりいつもより青白いが、喜びに輝いている。そこにいたずらが成功した子どものような満足感を漂わせていているが、あまりに嬉しい報告に、叱ることなど出来ない。席に戻るといつもは何とも思わない椅子の冷たさが妙に気になった。人肌ですぐに温まるが、女性には、特に妊婦には冷えは良くないと聞いたことがある。なのに女性の服は室内着でも布が薄い。

「ティア、寒くないかい?少し薄着なように思うが…」

「えぇ、大丈夫よ。」

「いや、風邪でもひいたらどうする?だれか、すぐにガウンを。あと、ひざ掛けも必要か。」

私の言葉にニーナがあわてて動き出す。この家で妊娠、出産など久々の事なので気を配るべき所を忘れているのかもしれない。あまり男が口出しするのはいけないのかもしれないが、皆が十分に勘を取り戻すまで、気になった事は言うべきだろう。どれだけ大事にしても、し過ぎる事は無い。

「大丈夫なのに…。」

あれこれと世話を焼かれ、苦笑しながらもティアはなされるがままに受け入れていた。彼女も出産に関してはあまり知らないのだろう。身近で見たのは弟が生まれた時くらいのものだろうから仕方ない。おてんばな彼女が無茶をしないように気をつけてあげないといけない。私はじわじわと湧き続ける喜びに浸りながら、そんな事を考えていた。

アデルサイドのお話しもついに最終章突入です。さくさくっと進めていきたいと考えてます。どうぞ、お付き合い下さい。

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