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31.秋色の宴

警戒を強めた私をあざ笑うかのように、社交の季節は穏やかに過ぎていった。ダンテスにマクレーンの周辺について調査をしてもらったが、特に怪しい人物との接触は無かった。マクレーンには父にも息子にも人脈といえるようなものがほとんど無かった。いくつかの有力貴族家とのつながりが有るには有るが、どうも相手にされていない節がある。何かの陰謀があるとして、それにマクレーンを使うとも思えなかった。

どれだけ調べても想像を巡らせても、マクレーンがティアを狙った理由がはっきりしない。たまたま一人で居たから…という可能性もあるが、そうではない可能性も捨てきれない。誰かが目的を持ってティアを標的にしたのなら、きっとまた何か仕掛けてくるに違いない。

まず、ティアを害する事でラファエル家を貶めようとしたという可能性がある。一部の名門貴族家からは「成り上がり侯爵」と疎まれているらしい。ティアに何かあれば、下賜姫を蔑ろにしたとして責任を問われる事もあるかもしれない。少なくとも妻一人守れないラファエルに、国境を守らせていいのかという世論を高めることはできるだろう。私とティアを仲たがいさせたい人物が居る…という可能性もある。ティアを我が物にと願う男は捜せばいくらでも沸いてきそうだ。他にも、ティアを害することで私にダメージを与えようという輩がいる可能性もある。家を継ぐ前も、今も、私は商売に手を出している。無茶な経営はしていないつもりだが、利益が出ている以上誰かに妬まれたり逆恨みされたりする可能性は無くはない。現に、ラファエル領のガラス製品が王都で認められ始めて、他の工芸品や王都のガラス工房の売り上げが多少減っているという噂もある。その他、ティア自身に恨みがある人物が居る可能性も無い事も無い。しかし、実家でひっそりと暮らし、ある日突然王子に召し上げられでその後は後宮でのんびりと暮らし、また突然下賜されてこの社交界までラファエル領でゆったり暮らしていたティアにどんな恨みが生まれるのか想像出来ない。結局考えても考えてもこれだという結論は見出せない。

結論が出ないということは、ティアを狙った敵の輪郭さえつかみきれないという事だ。陰達からのめぼしい情報も無く、マクレーンの息子がただただ大ばか者だったという信じがたい結論が、私の心の中には根付き始めていた。といっても、特にティアの警護を緩めたりはしない。使用人を連れて行ける会場には必ずカナンを連れて行ったし、連れて行けない場合にも誰かしらを潜り込ませたりしていた。


緊張を強いられた社交界の後半戦もなんとか乗り切り、毎年最後のイベントとしている、オズボーン公爵邸でのガーデンパーティーの日がやってきた。これが終われば領地に帰れる。つまり、ティアを危険から遠ざけられる。今年は早々に領地に帰って、ゆっくりと休みたい。そのためにも、今日を何事も無く乗り切ろう…私はそんな気分だった。

秋の花が植えられたオズボーン公爵邸の庭は美しくも侘しい風情だった。春や夏のような派手さの無い花達はそれでも互いの美しさを引き立てあうように配置され、見事な景色が出来ていた。それにあわせるかのようにご婦人方のドレスも落ち着いた色合いのものが多い。ティアも藍鼠と千歳緑の生地を重ねた落ち着いた色合いのドレスに墨色のケープを纏い、昨日私が贈ったイヤリングをつけている。ハイヒールを模したモチーフのイヤリングを贈った時の彼女の驚いた顔は見ものだった。絵本『灰かぶり姫』を彼女が作らせたと知っている事を告げると、彼女は恥ずかしそうに頬を掻いた。

「あれこそが、私の物語だと思っていたのだけど、それも違ったのかも。」

「うん?どういう意味だ?」

「『王子様と結婚して、幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。』では終わらなかったわ…。」

「なるほどね。」

ひとしきり絵本について話をしてから、私はいつかの夜会で義姉に会ったことを切り出した。絵本について知っていると告げる事は、彼女の継母や義姉達との関係についてもある程度理解していると示す事だ。私の話を聞くティアの瞳は納得したように凪いだままだ。私が急に絵本の事を持ち出した理由に合点がいったのだろう。こういう時の彼女のしなやかさを私は眩しく思う。

「君の気持ちに従えばいいけれど、お父上は待っていらっしゃるようだよ。明日が終われば暇になるから、実家を訪る時間もある。」

「そう…。」

彼女はひとしきり悩んだ後、ふと頭を上げてこちらを見た。その顔には名案が浮かんだと書いてある。

「明日、きっとお父様達もガーデンパーティーに参加するだろうから、その時に挨拶に行くのはどうかしら。」

「それでいいのか?」

「えぇ、その時に言い訳するわ。あまり実家には近寄りたくないのよ。」

「わかったよ。」

困ったように微笑む彼女の額に一つキスを落として、この話はお終いにした。


オズボーン公爵への挨拶を終えると、クランドール伯爵を探しながらゆっくりと庭を見て回った。しかしなかなか見当たら無い。この広大な庭の中で出会おうというのが無理な話なのかもしれない。その事を伝えると、ティアは片目を瞑って笑った。

「出会わなければ、会うなという思し召しなのよ。」

「なるほど。」

私は妻につられて笑った。別に、義父になど会わなくてもいいのだ。会っても睨まれるだけな気がする。一応送った結婚報告の書状も綺麗に無視されているし。パーティーの中心になっている噴水の周りに戻ると、下賜姫達がガーデンテーブルを囲んでいるのが見えた。

「行ってきていい?」

「あぁ、席を離れる時は必ず声をかけて。」

足取りも軽く友人達の元へ向かう妻の背中を見送った。彼女が席に着いたのを見届けてから私も紳士達の輪に加わる。


私が加わってすぐに隣国で交配された新種の馬の話題になった。話し出したのは公爵家の縁者だと言う男性だ。社交界で見たことがないと思っていたら、長らく隣国へ留学していて最近帰ってきのだという。なるほど、今まで聞いたことの無い話を良く知っている訳だと納得した。彼の話はとても興味深かった。時折ティアの無事を確認しながらも巧みな話術に聞き入ってしまう。普通の馬より力が強く持久力があり、しかし気性は穏やかだという新種の馬は荷物の運搬にぴったりな様に思われて、途中から本気で購入を検討したほどだった。

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