Page.4 魔法科高校の劣等生ってなんぞ?
タイトルから分かるように、今回からガチで作品紹介していきますw
地の文がほとんどないような小説、まぁようするに会話ばっかです。
今回はここ、「小説家になろう」発のライトノベル、「魔法科高校の劣等生」を紹介していきたいと思います。
八月某日火曜日。天気。晴れ
ほとんど強制的に読まされたライトノベル「魔法科高校の劣等生」の感想を聞くためか、冬華は朝の九時だというのにも関わらず俺の部屋に上がりこんでいた。
それを許す俺の母親父親もどうかと思う。長年の付き合いから絶対的信頼があるってのは分かるけど、息子の尊厳も尊重して欲しいところだ。
「……樹……髪型……っぷ」
「うるせぇな。こんな早くに来るお前が悪いんだからな……」
おかげで俺は髪を整える暇もなく、こうして醜態を晒してしまっている。
何故か、俺の寝癖は自分でも驚くぐらいひどい。あまり見られたいものでもないし、跳ねた髪を押さえながらそっぽ向く。
まぁ、気持ちの分しか変わらないが。
というわけで、俺は五分ぐらい簡単にシャワーを浴びて、髪型を整えて眠気も取っ払った後、ようやく本題に入った。
「それで、早速感想を聞きに来たのか?」
「えぇ。もちろん」
「……あのな? 昨日の今日でさ、あれだけの量を俺が読みきれると思ってるのか?」
「読んでないの!?」
「当たり前だっ! 読みきれるかっ!」
とりあえず、と昨日渡された冊数は四冊。全部合わせたら一三〇〇ページぐらいになる。いやいやいや、読みきれるはずないでしょ。元々俺そんなに読むこと好きじゃないし。あいどんとらいくりーでぃんぐべりーまっち。
冬華は元々期待してなかったとでも言いたげに、だがこれ見よがしにため息を吐いた。
「まぁいいわ。どこまで読んだの?」
「……三巻全部と、四巻の冒頭ぐらい、か」
「あら。意外と読んでるじゃない。てっきり一、二巻で止まってると思ってたのに」
「まぁ……割りと面白かったし。でも、最初読んだときは放り投げたくなったな。設定がヘビーすぎる……。一度理解したらかなり面白かったけどな。お前が言ってた『少し文系よりも理系向き』って言ってた意味も理解したよ」
『魔法科高校の劣等生』。
『小説家になろう』という巨大小説投稿サイトから形になり、大成功を収めた数少ない小説の一つである……らしい。
元々、一、二巻分を一冊分にどうにかこうにかして圧縮して『電撃大賞』に応募したらしいけど、やはりあの文量を一冊にまとめるのはかなり無理があったらしく、落選。
したものの、それがたまたま止まる編集者の目に留まり、「あれ? これってもしかしてあの某サイトに投稿されている小説じゃ……」と気づかれ、連絡が来たとか。
人生、何があるか分からないものである。もっとも、俺は全く小説を書きたいなんて思えないのでこんなことがあることは一生ないだろうが。
「そう。じゃあ、説明してくれるかしら? その設定について」
「っは!? なんでだよ。冬華はもう内容知ってるだろ?」
「ちゃ、ちゃんと読んだかのチェックよ。読み飛ばしてたりしたら承知しないわよ」
「……はぁ」
心底微妙な笑顔で顔を逸らす冬華。
……お前、もしかして理解もせずに読み進めてたのか?
触れないほうが賢い選択だろうと踏み、俺は「やれやれ」と心の中だけで呟くに留め、昨日理解した設定を上手い具合に説明しようと分かりやすい言葉を引っ張ってくる。
「……この世界観の魔法は、他の異世界ファンタジーの魔法とは少し趣が異なる。それは冬華にも分かるだろ?」
「やってることは同じだけどね」
「まぁ、そうなんだけどな。この小説の面白かったところは、他の作品じゃあまり触れられていない魔法のメカニズムについて詳しく定義しているところだと俺は思うんだ」
普通、作品に出てくる「魔法」は魔力を流す→発動の流れで、あまり詳しい説明は入らない。もちろん、ちゃんとした設定をしている作品もあるだろうけど、少なくとも俺は知らない。
だけど、この『劣等生』は違う。
「この作品内のあらゆる事象は、イデアというプラットフォームにエイドスという定義が記されているんだ。そのエイドスに干渉し、定義内容を書き換えてやることを魔法と定義している」
「………」
何言ってんのコイツ、みたいな顔をする冬華。
まぁ概ね予想通りの反応である。今のは作品の言葉をそのまま流用しただけだし。要するに冬華がきちんと理解していたか試したのだ。
「だからな? ありとあらゆる物が情報体としてあるってことなんだよ」
「どういうこと?」
「お前、パソコンはある程度知ってるんだろ?」
「? えぇ、まぁ……」
それが何? と冬華は目だけで尋ねてくる。
「パソコン内のあらゆるフォーマット……mp3でもmp4でもtxtでも何でも、全部0と1だけで出来た情報体だろ?」
「えぇ……」
「つまり、そういうことなんだ。この作品内の万物は、そんな感じで定められた情報体なんだよ。
この情報が記されているプラットフォーム……要するに書き込まれている紙がイデア。その内容がエイドスなんだ」
ほとんどパソコンの中身と同じだ。
あるパソコン内のファイルAがあるとしよう。それはフォーマット……ファイルの種類やその大きさが定められている。つまり、定義付けられている。
その定義付けられた内容が書き込まれているものがイデアで、内容自体がエイドスということだ。
「簡単に言っちまえば、この世界の魔法師たちにとって、どんなものにも『これがどんなものですよー』って説明する紙が見えてるってことなんだよ」
「………」
「で、その定義をしている物質っていうのが想子と呼ばれる粒子だ。えーとだな、インクとでも思えばいいよ。で、そのインクを自在に操って万物の書き込まれた内容を書き換えることが出来るのが魔法師ってわけ」
「要するに、あるものが「X」として定められているとして、その定められた内容を「X´」に上書きするってこと?」
「そう! そういうことだよ!」
「……面倒くさいわね」
げんなりとする冬華。
……ってか、これ理解しようとさえすれば誰にでも理解できることだと思うんだけど。
それは理解できる者だけの言い分ってことかな?
「正直、やっぱりあんまり好きになれそうにないわね……」
「どうして? おもしろいじゃないか。俺は好きだぜ?」
「設定がややこし過ぎるし、こんな設定できた俺すげぇみないな自己陶酔してる感じがするわ……」
「なんだよそれ。素直にこんな設定作れるなんて凄いでいいじゃないか。俺は『魔力さえあれば強い魔法が撃てるー』みたいなあまり細やかな設定のない魔法モノよりも全然面白いと思うぜ?」
「理系と文系の違いかしらね。私はむしろ理解しやすい設定のほうがよかったわ。別にエネルギー保存則が分からないわけじゃないけどさ? 物語よりも設定を読まされてる感じがしてなんていうか……ね」
「でも、設定とか抜きにしても面白いと思うけどな……とりあえず、魔法を使ってるってのは分かるんだし、そんなに深く考えなくても面白くないか?」
「話が軽い気がしてね……」
「軽い?」
どういうことだろうか? 割りとラノベの中じゃ普通の話だと思ったんだけど。
……こういうことを思ってしまうあたり、俺が冬華と付き合ってからどれだけのラノベを読んだか、ということを自覚させられるな。
「まぁ、ラノベだし、そんな崇高なものを求めてるわけじゃないけど、それにしたって敵が弱すぎるわ。主人公最強っていう設定が嫌いなわけじゃないけど、もう少し敵さんにも頑張ってほしいわよね。後は設定と物語の比率かしら。設定が重い分、どうしても物語が軽く見えがち。キャラクターの心情も読み取りづらいし……」
「珍しく否定的だな」
「期待値が高かった分、その反動かしらね」
あー。あるある。映画とか、そういうパターン多いよな。
共感した俺はうんうんと頷いた。
「前情報なしだったからなのかな……俺はすげぇ面白かったけど」
「別に面白くないわけじゃないわよ? でも、人間関係の理解に苦しむ場面が多かったし、キャラが何考えているのか分からない場面が多かったのよね……」
「そうか? ……まぁ俺が深く読んでいないだけかもしれないけど、そんなことは全然思わなかったけどな……。微妙な表現だけど、これは多分こうだろうなぁ、とか想像しながら読んでたからか?」
要するに、冬華は心情や関係のはっきりとした表現がなかったのが気に食わない。しかし俺ははっきりした表現じゃなくて、微妙な、曖昧な表現でも心情、関係を漠然とながらも捉えられ、それで満足できた。
明確か、曖昧か。その違いなのだろう。
「ストーリーの展開にちょっとついていけない感もあったわよね。二巻最後の敵地に乗り込んでいくシーン。あれも取ってつけたような感じがして好きじゃなかったもの」
「うーん。あまり違和感は感じなかったけどなぁ。むしろその後の魔法がかっこよすぎてテンションがあがってたぜ、俺」
「魔法の使い方もどこかひねくれてるじゃない? 波の合成を利用したり……真っ直ぐじゃないというか」
「いや、むしろそれがいいんだろ。そもそも、足りないものを作戦で補うってのはよくある設定じゃないか」
平行線を辿る。もはやきのこ派かたけのこ派か、というレベルのような気がしてならなくなってきた。
ハリー・ポッターみないな魔法が冬華は好み、ということなんだろう。
『魔法科高校の劣等生』の概要はこうだ。
一般の魔法を人並みにすら使いこなせないとある少年、志波達也と、対照的に桁外れの魔法を使える天才肌の妹、志波深雪とその仲間たちによる魔法&学園モノ。
もちろん、主人公はただ魔法が不得手なだけではない。主人公らしく、一部の才に特化している。どんな才に特化しているかは、ここでは割愛しておく。
内容はやはり王道で、劣等生のレッテルが貼られている主人公が優等生以上の成績を見せていくことで学校に騒動を起こす……というものだと思う。あらすじ、こんなんでいいのか?
閑話休題。
「でもさ、設定が重いとか言うけど、一度理解すれば後は大して引っかからないじゃないか。それってさ、自分が理解できないから面白くないって言ってるようなものじゃないのか?」
「理解はしてるわ。ただ設定にこだわりすぎてストーリーがイマイチ、って言ってるよの」
「むしろ今のありきたりな設定なモノよりも光ってたと思うんだけどな。斬新っていうかなんていうか……。主人公の感情が希薄っていうのもさ、ちゃんとした納得のいく理由もあったし、そこらへんも俺はかなり好感を持てたんだけど」
「別にそこは私はなんとも思ってないのよ。よくある設定じゃない。だから、私が言ってるのはストーリー」
「じゃあ何が問題なんだよ?」
「展開に無理があるところが若干見受けられるし、劣等生っていうタイトルも詐欺でしょ。主人公かっこいいってところを羅列してるようにしか感じられないのよ」
「それがラノベだろ。だったら普通の本読めばいいじゃないのか?」
ライトノベルに何を期待しているんだ。
俺が今まで読んできたラノベはもっと展開が甘かったぞ?
「それを言われたらどうしようもないけど……」
「大体、冬華が進めてきたライトノベルのほとんどに無理があったぞ? ヒロインの行動が理解できないなんてしょっちゅうだったし、展開についていけなくて読む気が失せることも多かった。その点、この物語の中のキャラクターは行動の理解に苦しむことが少ない。展開も、俺には他のラノベに比べたら無理は全くといっていいほどなかったと思う」
「でも、ほら? 周りにいるキャラが主人公の引き立て役みたいになってるじゃない?」
「だったら緋弾のアリアなんてその最たるものだろ……あんな無茶苦茶な設定の作品よりもよっぽどマシだ」
「あんた、アリアディスってんの? 喧嘩売ってるの?」
「だったらなんでこの作品をディスってんだよ……」
とことん意見が合わない。何これ。
可愛い女の子に囲まれて嫌だー覚醒したくないーとか言う主人公よりも、全然こっちの主人公のほうがかっこいいだろ。
「あんた、アリアの魅力を語ってあげましょうか……?」
「むしろアリアが好きでどうしてこの作品が嫌いなのか分からないよ俺には……」
僅かながらも、この二作品には通ずるものがあるはずだ。
主人公最強なのはほとんどの作品において当然のことなので置いておくとしても。
さっき冬華が言った周りのキャラが主人公の引き立て役なんてその最たるものだと思う。
「……ラノベラノベしてないからかしらね?」
「意味分からないけど」
「だから、ラノベっていうには設定がガチ過ぎるし、文章も硬い。良くも悪くもラノベらしくないのよ」
「……まぁ、そうかもしれないな」
「ヒロインとの関係性もイマイチ掴みづらいから、それも拍車をかけているのかもしれないわね。こう、『theラノベ』っていう感じには程遠いじゃない?」
確かに、ラノベらしいかと言われたら中途半端な感じもするかもしれない。
「『SAO』とかもそうなんだけど、ネット発な分、妙に文章が硬いのよね。そこがラノベらしさを打ち消しちゃってる気がするのよ」
「ラノベらしさが文章の軽さだとしたら、そうかもしれないけど。でも設定とかは内容は十分ラノベだろ? 主人公最強って作品は多いし、敵がばったばった切り捨てられていくのも別に普通じゃないか」
「そうなんだけど……」
どこか釈然としない様子でむすっとする冬華。俺はやれやれと首を振った。
「結局、人によるっていうことなんだろ……」
「最終的にそんな安い結論に辿りつくのね……こんだけ語り合ったっていうのに」
「どっちも折れないんだから、妥協案を出すしかないだろ」
俺みたいに面白いと思う人もいれば、冬華みたいに微妙って思う人もいる。
結局どんな作品においても言えることだ。肌に合うか合わないかは個人によって違う。万人に受ける作品なんて、それこそ存在するはずがない。
「最後まで読みきってなかったけど……ま、トークは一応満足できたし、及第点にしておきましょうかね」
「すんげぇ上から目線だな」
「冗談よ。むしろ三巻まで読みきっていたことに驚いたぐらいだもの」
「だったらなんでこんな急にくるんだよ……」
「彼女が来たら悪いのかしら?」
「………」
「そういうことよ」
そう言って、冬華は思わぬ発言に面食らって黙り込んだ俺に、ふんわりと微笑みかけた。
不覚にも赤面してしまった俺を、しかし冬華は普段のように馬鹿にするのではなく、同じように顔を赤くして忙しなく髪をいじりだした。自分の発言に本人も照れたらしい。
そんな感じで、今日のラノベ談義は終了したのだった。




