*五章*
「すごい事になっちゃったね…」
「うん…」
放課後、いつも行っているカフェで、私と真央ちゃんはジュースを飲む。
その後、二年生全員で集まって、我が二年生のステージ発表は、私と真央ちゃんが歌って踊る事に決まった。
しかも、私と真央ちゃんのクラスは漫画や小説でお馴染の、メイド喫茶をすることになっちゃったし…。
「しかも、アリスの言葉覚えてるか!?『二人ともアイドルだから、いい客寄せになるよ』だとよ!たくっ!」
不機嫌そうに、真央ちゃんは眉を寄せる。
まぁ、私だって笑ってる場合じゃないことくらいわかってるけど…。
怒ってても仕方ないしなぁ…。
「そうだ!」
何を思ったか、真央ちゃんが急に立ち上がった。
周りのお客さんが、不思議そうに私達を見る。
まぁ、売れないとしてもアイドルなので視線には慣れてますが。
「こうなったら、凛先輩に協力を頼もう!」
「え、えええええ!?」
私の叫びが、カフェ中に響き渡った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「やっほー!来たよー!」
「いちいち呼び出してすみません、凛先輩…」
私が苦笑すると、凛先輩は「舞ちゃんやっぱり可愛い!」と言って私に抱き着く。
あの後、真央ちゃんが携帯で凛先輩にメールをしてから、たったの10分で凛先輩が駆けつけてくれた。
この人、もしかしたらただ者じゃないのかも…。(アイドルの時点でただ者ではないけど)
「まぁ、簡単に説明しますと、文化祭で私と舞だけが歌って踊る事になっちゃたんですよ」
「へぇ。それは大変だねぇ。伴奏は?」
「それは吹奏楽部の方が何とかしてくれるらしいんですけど…。っていうか凛先輩。舞を抱いたまま話してますけど、話しにくくないですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
キリッとした顔で答える先輩に、真央ちゃんの眉がピクッと動く。
たはは…。いつか血の雨を見るわ、これ。
私、何故か先輩たちに可愛がられやすいんだよなぁ…。
アリスには、「妹みたいだし!」って何度も言われるし…。
「まぁ、問題は歌詞みたいだね」
「はい、そういう事になります。っていうか凛先輩。やっぱり舞を離してあげてください」
「チェッ」
凛先輩は、しぶしぶ私を離した。
嫌ではないけど、確かに話しにくかったしな…。
「歌詞の方は私と他の皆も協力するよ!」
「本当ですか!?」
「もっちろん!その代り、いい出来だったら我が『ココロ』でももっとかっこよくして歌っちゃお!」
凛先輩がVサインを出す。
何やかんや言っても、凛先輩はちゃんとアイドルメンバーの事を考えてるから、尊敬しちゃう。
やっぱり、リーダーってすごいんだなぁ…。
「ね、ね!この新作の「サクラアイスゼリー」っておいしいの!?」
次の瞬間、いつもの凛先輩に戻り、真央ちゃんはズルッとズッコケた。
まぁ、これが凛先輩らしいけどね…。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「よし、こんなもんかなっ」
それから2時間、凛先輩にも助言してもらって何とか歌詞は完成した。
はあ~。すっごく疲れたよ…。
真央ちゃんも心なしか、疲れ切った顔をしている。
「微妙だと思う部分は、二人でまた考え直せばいいと思うよ。それじゃあ、私は行くね!」
それだけ言うと、凛先輩は自分の勘定を置いて出て行ってしまった。
あ!お礼言うの忘れてた!
「仕方ない、今日の夜にでもお礼のメールいれとくか」
真央ちゃんは私の考えてる事が分かったのか、ニカッと笑って言う。
その時、すごいスピードで自転車をこいでいく凛先輩が遠くで見えた。
真央ちゃんも見えたのか、呆気にとられている。
……やっぱり、凛先輩はすごいなぁ…。