*四章*
「ちょっと聞いてよ舞に真央!」
お昼休みに、私達のクラスに窓ガラスを割って入ってきたのは、アイドルじゃないけど私達の大事な親友のアリスだ。
お父さんもお母さんも日本名なんだけど、お母さんの方のお婆ちゃんがアメリカ人なんだって。
だから、アリスも早い話がハーフ。
そして、登場するときは決まって何かを壊す。
今日は窓ガラスを壊したのか…。
「アリスゥゥゥ!おまっ、その窓ガラスどうすんの!?」
「そんなことよりっ」
「そんなこと!?」
真央ちゃんとアリスのいつものやり取りが過ぎたあと、アリスは私の両手を握った。
え?と思う間もなく、アリスは私に顔をずいっと近づける。
「ど、どうしたのアリス!まさかレズになったとかじゃないよね!?」
「真央!ちょっと黙ってて!」
「はいっ!」
アリスのいつも以上の剣幕に、真央ちゃんと私の他にもクラスの人たちが呆気に取られている。(窓ガラスが割れた自身でもう皆呆気に取られてたけど…)
「舞!今度文化祭あるの知ってるよね!?」
「も、もちろん」
私達の学校は、他の学校と違って文化祭が始まるのが早い。
正確には、運動会がないからその代りといって文化祭がある。
秋は、近くの小学校や保育園、幼稚園にいってハロウィンパーティ(参加自由)をするという、何ともおかしな中学なのです。
「お願い!舞と真央は、二年生の出し物で歌を歌ってほしいの!」
「ちょっと待てよアリス!何で舞だけに頼む!?そもそも、何で私達が!?」
他にもツッコミどころ満載という顔をしている真央ちゃんは、アリスの胸倉をつかんで問いかける。
それにしても、本当にアイドルっぽくないよね、真央ちゃん…。
「だって、二人ともアイドルでしょ!?できれば他のメンバーも呼んでほしいんだけど、ギャラが出るわけじゃないし!二年生に折角売れないとしてもアイドルがいるんだから、これは生かさなきゃ!」
「『売れない』は余計だ!つか、勝手に決めんなよ!」
「いいじゃん!『ココロ』の宣伝にもなるしさ!」
「うぐっ…」
真央ちゃんの言葉が詰まった。
クラスの人たちや、廊下の人たちは、ひやひやしながら真央ちゃんとアリスを見ている。
それにしても、二人ともよく喧嘩するよなー。
それでも親友だから、不思議。
「真央ちゃん。やれるだけの事はやってみようよ」
「ま、舞…」
「やったー!舞、マジ天使!」
アリスが私に抱き着く。
抱きつかれたさい、後ろに倒れて頭を打ったけど、まぁいいか…。
「でも、『ココロ』で歌っている曲は使えないよね…」
私の言葉に、真央ちゃんも頷いた。
全員で分けて歌ってるし、かぶる部分もたくさんあるから私と真央ちゃん二人では難しいかも…。
「じゃあさ、新しい歌作ればいいじゃん!」
アリスがあっさりと言う。
私はきょとんとするだけで済んだけど、真央ちゃんはその場で思いっきりズッコケてしまった。
まぁ無理もないけどねぇ…。
だって、歌を作るのって本当に難しいもん。
「無理だよアリス!私達『ココロ』の歌を作ってくれる人も、皆忙しいんだから!」
「それじゃあ、舞と真央が作ればいいじゃない!」
「もっと無理だろ!何その『流石私!』って顔は!」
二人のやり取りに、私は苦笑する。
本当に二人はしょうがないなぁ…。
文化祭当日まであと2週間。
確かに、歌を作って振付も覚えて全部完璧にするにはぎりぎりの時間。
それに、歌だけじゃなくてピアノとかの伴奏も作らなきゃいけないし…。
他にも、衣装とか、打ち合わせとか、まぁいろいろ…。
真央ちゃんも私が考えてる事をアリスに説明するけど、アリスは聞く耳をもたない。
まぁ、アリスは真っ直ぐな子だから…。
「衣装は中学生の文化祭らしく、制服でOK!伴奏は私と吹奏楽部の二年生が何とかする!だからお願い!」
アリスは真央ちゃんに土下座した。
そういえば、アリスは文化祭実行委員の二年生代表だっけ…。
三年生は一番年上だから、毎年レベルの高い出し物をする。
今年の一年生は、皆ノリがよくてアイディアも満載らしい。
確かに、特に噂もない二年生には居辛い立場かも…。
「…まぁ、そこまで言うなら……」
ついに、真央ちゃんも折れてしまった。
でも、悔しいアリスの気持ちが分かるのかなぁ。
私だって、すごい三年生と一年生にはさまれて苦しんでいる二年生代表のアリスを見たくない。