*二章*
「ん…」
カーテン越しの朝日で目が覚めた。
枕元にある時計を見ると、5時を指している。
「…早く起きすぎちゃったな……」
目が覚めたなら仕方ない。
制服に着替えて、持ち物の確認。
6時になったらみんなの朝ごはんを作るとして、それまでに何しよう…。
何気なく携帯を開くと、凛先輩からメールが来てた。
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【今日の予定!】
<おっはよー!凛だよ!
今日は早く目が覚めたから、早めに連絡なのだぁ!
今日は仕事ナッシング!(*^^)v
嬉しいような、悲しいような、複雑な気分だよ~(;一_一)
予定が変わる場合は、また連絡するね!
他のメンバーにも、ちゃんと連絡しとくから舞ちゃんは気にしないで!
それじゃあ、またね!(^.^)/~~~>
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顔文字を見事に使う凛先輩に、クスッと笑ってしまう。
他のメンバーにも、ちゃんと連絡しとくって書いてあるから心配しなくて大丈夫かな。
それじゃあ、今日は真央ちゃんと一緒にカフェでも寄ろうかな…。
でも、本屋にも寄りたいし…。
学校で真央ちゃんと相談しよう。
それにしても、6時までどうしよう…。
「…久しぶりに、書いてみようかな……」
ベッドから立ち上がり、私机に向かった。
イスに座って、机の引き出しからノートと鉛筆を取り出す。
ずいぶん使っているから、ノートはくたびれてるし鉛筆も随分短くなった。
アイドルとして活動する前から、私は歌詞を作るのが大好きで、このノートと鉛筆でずっと歌詞を書き続けてきた。
まぁ素人だし、いいものかは分かんないけど、私の唯一の楽しい趣味。
友達や、家族にもまだ秘密だけど…。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
隣の部屋の扉が開いた音で我に返る。
時計は、5時40分を指していた。
お姉ちゃんかな?
それにしても、いつの間にこんな時間になってたんだろ…。
ノートと鉛筆を引き出しの中に入れる。
部屋を出ると、お姉ちゃんが階段を降りていくのが見えた。
「お姉ちゃん」
階段の上から声をかけると、お姉ちゃんはクルッと振り向く。
「あ、おはよう、舞」
「うん、おはよう。ごはん作る?」
「まぁね、手伝って」
「うん」
私も階段を降りる。
お姉ちゃんは洗面所に行ってしまった。
今行っても、お姉ちゃんを待ってなきゃいけないから、先にお皿とか出しておこう。
リビングに入り、戸棚から皿やコップを出す。
しばらくすると、お姉ちゃんがリビングに入ってきた。
「ありがと。後は私がするから、舞も顔を洗っておいで」
「はーい」
お姉ちゃんとバトンタッチして、洗面所に向かう。
いつもの習慣どおり、鏡を見る。
さて、今日も新しい一日が始まりますよぉ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おはよー!」
「わぁい!ベーコンエッグ!」
挨拶をした行儀のいい空と、ごはんに飛びつく行儀の悪い鈴。
本当に、二人とも性格も違うなぁ…。
お姉ちゃんに注意されて、二人ともしぶしぶ洗面所に向かう。
「お母さんは?」
「寝てた。徹夜だったみたいだからね。舞、後でコーヒーとパン持ってってあげて?」
「いいよ」
この会話を終えただけで、鈴と空は慌ただしくリビングに入ってきた。
急いで顔を洗ったのか、二人とも前髪がまだ濡れている。
早いのは流石だけど、もう少し落ち着いて洗って欲しい…。
「舞姉!今日もアイドルの仕事あるの?」
「ううん。今日は今のとこ予定なしって朝っぱらから凛先輩のメールが来たの」
「おお。じゃあ今日も真央ちゃんと遊ぶの?」
「うん」
朝ごはんを食べながら、私達はいろいろと会話する。
この会話の間に、今日の夜ご飯は何がいいとか、今日は遅くなるとかお互い報告しあう。
「あ!私、今日日直だったから早く行くね!」
鈴は、自分の皿に乗っているベーコンエッグを慌てて口に押し込むと、走って二階に行ってしまった。
しばらくすると、おしゃれな服装に着替えて、ランドセルを持って玄関に走っていく。
その時間、およそ30秒。
「いってきまーす!」
「「「いってらっしゃーい」」」
バタンッと玄関の扉が閉まる音がした。
時計は、7時10分を指している。
鈴と空がいつも出る時間が、7時40分。
私とお姉ちゃんが出る時間が、7時30分。
「お母さんに、朝ごはん持ってくね」
「よろしくー」
自分のごはんを食べ終わり、お盆にコーヒーとパンを乗せてお母さんの部屋に入る。
机につっぷして、気持ちよさそうに寝ている。
起こすの、何だか悪いな…。
手描きで書くお母さんの指には、たくさんのまめができている。
「お母さん、朝だよ」
「ん~…」
揺すると、お母さんは割と簡単に起きた。
しばらくボーッとしてたけど、私が持ってきたコーヒーとパンを見ると目が覚めたみたい。
あっという間に、コーヒーとパンはお母さんの胃袋におさまった。
「〆切に間に合いそう?」
「ギリギリッ!でも、人間の根性はバカにできないよぉ!」
そういうと、お母さんは再びペンを持って原稿に向かった。
邪魔にならないように、そーっと部屋から出る。
ふぅ…。そろそろ行く時間かな。