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天国からの手紙

作者: サクラ

 ある日、一人の少女が死んだ。

 受験を控えた中学生だった。

 彼女は相当なイジメを受けていた。

 ゆえに本校舎の屋上から飛び降り自殺をはかる結果となった。


 ここは、A校舎と呼ばれる建物の屋上。

 そしてこの少年も彼女と同じ場所に行こうとしている。

 目的もそうだ。彼女と同じ場所に行こうとしている。

 彼と彼女は付き合っていた。

 

 ただ人は彼らをただの友達だという。

 なぜなら彼女があまり乗り気ではなかったから。

 それは彼も感じていた。

 しかし彼女だけ苦しんでいるのは許せなかった。

 彼女の本当の気持ちを確認したいというのもあった。

 だから彼はここに立っている。

 そして何よりも、できるだけ彼女のそばにいていたかった。

 

 「よし、いこう。」

 彼は決心した。

 その時、

 「あぁー!」

 声が聞こえた。

 時同じく、足もとに1枚の紙飛行機が落ちてきた。

 何にかれたか、すぐさまその飛行機を手に取り、中を開いた。

 そこにはこう書いてあった。

 「これは事故なの。」 

 彼は空を見上げた。そして、あることを思った。

 しかしその考えはすぐに頭の中で打ち消された。

 「そんなわけない。」 

 そのまま外に投げ飛ばそうとすると、紙の裏にこんな文を見つけた。

 「私はあなたに死んでほしくない。だから、私の分まで生きて。精一杯、生きて。」

 彼はもう一度空を見上げた。

 余計な事を考えず、紙をていねいに折りたたんで、階段の方へ走って行った。

 もし嫌われていてもいい、とにかく精一杯生きよう。

 彼はそう思ったはずだ。


 ここは彼のいた屋上とは違う、B校舎の屋上。

 なぜかそこには2人の教師がいた。

 「先輩の考えた作戦、上手くいきましたね。」

 「あぁ。俺も成功するかどうか不安だったけど、あの笑顔じゃ今後も大丈夫そうだな。第一、これしか方法がなかったからな。」

 2人は何を言っているのだろうか。

 察するに彼らは先ほどの少年について話をしている。

 少年が現れる前に戻って彼らを観察してみよう。


 「こんな屋上なんかに呼び出して、一体何するっていうんですか。」

 「別に俺が個人的に呼んだわけじゃない。校長からの指令で、極秘且つ重大なことなんだからな。

 「で、その重大な事って何なんですか。」

 「実はこれからここに、1人の生徒がやってくる。目的は自殺だ。その生徒の彼女の死が原因らしい。

そしてその自殺をなかったことにするために、俺たちが一肌脱ぐってわけさ。」

 「なるほど。そこで僕たちが彼を説得して、もう一度考え直させるってことですね。」

 「バカヤロウ。そんなことで一件落着するお話じゃないんだ。もっと彼が心から反省するようなこと

をしないと。」

 「わかりました。では空手3段のわたくしが本気を出すしかないようですね。」

 「何をするつもりだ。」

 「力ずくです。」

 「ふざけているのか。」

 「ごめんなさい。ではこういうのはどうでしょう。私の親戚がやっている体操教室にお願いをしてトランポリンを持ってきてもらって、彼が飛び降り着地した瞬間にトランポリンが衝撃を吸収して2、3回上に跳ねて・・・」

 風の音だけが鮮明に聞こえる。

 「もういい。」

 そんなやりとりをしている中、A校舎に現れたのは少年だった。


 「おまえは職員室かどこかに戻ってろ。」

 「いや、でも。まだ作業が・・・」

 「おれ一人でやる。」

 「何でですか。これからはしっかりやりますから。」

 「向こうを見てみろ。もう学生が来てしまった。お願いだから帰ってくれ。」

 「・・・わかりました。」

 B校舎の屋上が1人になった。

 教師はかばんから1枚の折り紙を取り出した。

 彼が何をしたいかはお分かりの方もいるだろう。

 少年の彼女のふりをして文章を書き、紙飛行機として少年に届け、自殺を阻止するという作戦だ。

 準備が整ったようだ。あとはこれを少年の方向に飛ばすだけだ。

 年老いた体を無理に動かして、勢いよく紙飛行機を飛ばした。

 

 「あぁー!」

 紙飛行機は見事少年に命中した。

 しかし、人が一人こけている。

 まぁ、A校舎からB校舎までは結構な距離があるから、しょうがないのだろう。

 教師はすぐに起き上がり、少年が紙飛行機を開いたのを確認した。

 そして屋内に帰って行くのを見届けた。

 ほっと一安心していると、ドアが開いてさっきの後輩教師がやってきた。


 「先輩、もう時間ですよ。もうあきらめて帰りましょう。」

 「何もあきらめることなんてない。任務は成功した。今すぐ帰るから安心しろ。」

 「えっ、そうなんですか。すごいじゃないですか。でも、どうやったんですか。」

 「聞きたいか。」

 「えぇ、まあ。」

 「ふふ、そこまで言うなら教えてやろう。」

 「誰がそこまで言ったのかが疑問ですけど、お願いします。」

 「実はな、紙飛行機を使ったんだ。」

 「あぁ、これですか。」

 後輩が取り出したのは、あの、紙飛行機だった。

 「あぁ、それだ。」

 先輩は一瞬考えてからこう言った。

 「って。なな何でお前がそれを持っているんだ!」

 「校庭に落ちてましたよ。先輩がここからわざと落としたのかと思ってましたけど、ちがうんですか?」

 先輩である教師は、先ほどと同一人物とは思えない表情で、こういった。

 「じゃあ。だったら。あ、アイツが、も、持って行った、かか、紙飛行機は!?」


 教師は、チャイムが鳴り終わっても全く動かなかった。

 

 結果から言おう。

 少年の笑顔は本物だった。 

 そして、

 その彼女の気持ちも、本物だった。









イメージと違った方はすいません。

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― 新着の感想 ―
[一言] この作品、すごく好きです。 テンポのいい話の展開が、読んでいてとても爽やかでした。 どこか空回りしたような二人の関係も、その裏に確かな思いがあって、清楚な感じがします。 その分、少女の…
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