悪役令嬢の救済記録 〜乙女ゲームの悪役令嬢を救うお仕事を任されました〜
小鳥遊水波、十六歳。
普通に学生生活を送り、今は高校生をやっている。
瑞樹という二つ下の弟がいるが、名前が女の子っぽいからかちょくちょくいじめられていた。
今までの人生、弟をいじめた人間を返り討ちにして校門前に正座させ、弟の精神的フォローをしてきたこと以外には特に特殊な人生を送ってきたつもりはないはずだ。
そう、高校の入学式が終わり、通常授業が始まる頃までは。
水波は親の方針で医学部を目指すことになっており、塾に通っているが、今日は塾はない日だった。
部活も帰宅部のため、午後の授業が終わるとさっさと家に帰る。
「ただいまーって、誰もいないか」
両親は共働きであり、弟はテニス部のため今日は帰りが遅かった。
家に誰もいないのを確認すると、二階の自室に入り荷物を投げ出し、ぽすんとベッドに倒れ込む。
「はー、学校はともかく、塾の授業がどんどん難しくなってるよぉ….…これはもっと勉強時間増やした方が良い感じ……?」
そう言いながらも勉強する気力がわかず、ベッドの反発を感じながらゴロゴロしていると、ピロンとスマホの通知が鳴った。
もしや友人の晴海からの遊びのお誘いか、と思い、のそのそとベッドから起き上がり、四角い学生鞄の中を漁りスマホを出す。
スマホを操作し、メッセージアプリを起動するが特に何の通知も来ていない。
「??何かの誤作動?」
他に通知を知らせそうなアプリを一通り見てみるが、特に何もなさそうだった。
何だか肩透かしを食らったようで、手持ち無沙汰な感じでスマホの画面を適当にスライドしていたところ、そこで見慣れないアプリが入っていることに気づいた。
「……『魔法学園:星屑の誓いと七人の魔導士』?」
銀髪で白を基調とした制服を着た少女がアイコンのど真ん中に鎮座していて、背景がやたらキラキラしている。
水波はアニメや漫画は嗜むが、ゲームは時間が溶けるという理由で今はあまり触っていない。
「……よく分からないけど、とりあえず削除するか」
そう言ってアイコンに手をかけた途端、『魔法学園:星屑の誓いと七人の魔導士、はっじまっるよー!』という甘ったるい女の子の声と共に、目の前が真っ白になった。
◇◇◇
次に水波が気づいた時、そこはどこかの庭園だった。
色とりどりの花が咲き、白い石畳のテラスに小さなテーブルが置かれている。
自分は植物を模した凝ったデザインの陶器で出来た椅子に座っていた。
テーブルを見ると、ケーキスタンドと紅茶のポットが置かれており、自分の前には食べかけのケーキと紅茶があった。
(え、え、何この状況!?)
バッバッ!と自分の体を見てみると、5,6歳くらいの幼い手つきと、赤色でふりふりのレースをあしらった服を纏っているのが目に入った。
周りを見てみると、向かい側には自分よりも小さな男の子がちょこんと座っている。
しかし、相手は何だか今にも泣き出しそうだ。
その様子を見て水波はさらにパニックになる。
一体何が何やらの状況だが、小さい男の子が泣きそうになっているのは水波として非常に気になる。
恐る恐る声をかけてみる。
「あ、あのー、何で泣きそうな顔をしているの?」
「う、ぐすっ……だって、お義姉様が僕は行儀が悪い、こんな子なんか来てほしくなかったって……」
泣きそうどころか、すでに泣いていた。
というか誰だ、こんな可愛い子にそんな酷いことを言ったやつは。
すると、頭の中から勝ち気な声が聞こえてきた。
『当然ですわ、こんな子、我がシーランド家に相応しくありませんもの!お父様も跡継ぎのためとはいえ、よくもこんな子を引き取りましたわね!』
ひょっとして、今頭の中で喋っている少女がそんなことを言ったのか。
状況がほとんど見えていないが、とりあえず目をつむって頭の中の声に話しかけてみる。
『あのー、ひょっとしてこの男の子に行儀が悪いとか来てほしくなかったとか言ったのって……あなた?』
すると水波の苛立ちを感じ取ったのか、相手は少したじろいだ様子だった。
『だ、だって、本当に礼儀がなっていないのですもの……というか、体が動かない……ひょっとして、貴方私の体を乗っ取っているんですの!?どれだけ無礼なことか分かっていらして!?』
非常事態においても、随分と高飛車な少女である。
水波は年下、年下……と自分に言い含め募る苛立ちを抑えながら、少女に返事をする。
『私だって乗っ取りたくて乗っ取ったわけじゃないんだけど……というか、貴方名前はなんて言うの?』
『ふ、ふん、無礼者に名乗る名前なんか』
『な・ん・て・言・う・の?』
少し語気を強めると、少女の威勢が弱まった。
『セ、セレーナ=シーランドですわ。今は義弟とお茶会中でしたの』
『なるほどね。私は小鳥遊水波。びっくりするかもしれないけど、多分異世界から来てる』
ッ、と相手は言葉に詰まったようだった。
明らかに外国風、しかもどうやら貴族制度があることや、アプリに触った途端にここに来たことを考えると、多分それが一番自然だろう。
最近流行りの小説で転生とか聞いたことがあるし。
死んでないから異世界転移というやつか。
と水波はひっそり考える。
そこでふと目の前をみると、義弟が不思議そうにこちらを見ていた。
(しまった、頭の中で喋りすぎた)
そう気づくと、水波は椅子を立って義弟に近寄る。
そして義弟と目線を合わせて言った。
「さっきは酷いことを言ってごめんなさい。あなたの事情とか考えずに発言してしまったわ。私も少し嫌なことがあって貴方に八つ当たりしてしまったの。本当にごめんなさい」
そう言って、懐からハンカチを取り出し、義弟に差し出した。
慌てたような声が頭の中で響く。
『ちょっと、何をやっているんですの!?』
『何って、人として当たり前のこと』
差し出されたハンカチを、義弟は恐る恐る受け取り、涙で濡れた手のひらを拭く。
「あ、ありがとうございます……」
「うん、お礼が言える子は良い子だわ」
そうして義弟の頭をなでなでする。
そうした後で水波はハッと気づく。
(思わず頭を撫でちゃったけど……これってプライドを傷つけられたりしない!?大丈夫!?)
義弟の反応に怯えていたが、意外にも大人しくなでなでされていた。
しかも何だか頬が赤くなっている。
すると頭の中からセレーナの声がした。
『ちょっと、わたくしの体で勝手なことをしないでくださいませ!そんなに優しくしたらつけ上がりますわよ!それに……』
言い淀んだセレーナの声を引き継ぐように、水波は言った。
『両親が義弟の方ばかり構って自分が見捨てられるんじゃないかって?そんなわけないよ』
その言葉の対する返答はやや元気がなかった。
『どうして、そんなことが言い切れますの……義弟が来てから、お父様もお母様もわたくしに構ってくれる時間が減りましたのに……』
『私も弟がいるからだよ。確かに子どもが増えた分、親が構ってあげられる時間はどうしても減っちゃうけど、それで愛情までが減る訳じゃないよ。それに、自分から愛情を注ぐとそれだけ自分に返ってくるんだ』
『自分から愛情を注ぐと、自分に返ってくる……』
その時、水波の周囲に光が溢れた。
『これは……』
セレーナが息を呑む音が聞こえた。
義弟は気づいていないようで、水波とセレーナにだけ見えるものなのだろう。
水波はどこかへ引っ張られるような感触を感じた。
『どうやら、私は元の世界に戻るみたいだね。セレーナ、体が動くようになったら自分からもちゃんと義弟に謝りなよ』
セレーナの返答を待たず、水波は元の世界へ帰って行った。
◇◇◇
「そして、今の状況になる訳だけど」
異世界から帰って来た時、時間は五分ほどしか進んでいなかった。
床に放り出したバッグもベッドに寝転んだ跡もそのままである。
しかし、一つ異様な点があった。
目の前に、ペンギンの頭をした人間のような生物が立っていたのである。
その生物はうやうやしくお辞儀をして、
「小鳥遊水波様、おめでとうございます!見事チュートリアルをクリアされましたね!」
「チュートリアルって何……?」
するとペンギンの頭をした生物は仰々しく嘆く素ぶりを見せ、
「実は貴方が会ったセレーナ嬢、とある理由で十八歳の魔法学園の卒業式の時に断罪されるのです」
「断罪って何!?」
「城の地下に幽閉、修道院送り、処刑などですね」
「怖っ!」
ですが、とペンギンは一度言葉を切り、
「それを回避するための一歩を貴方は手伝って下さったのです!」
と両腕を高く上げくるくる回る。
「ああ……あの性格じゃあそうなっても仕方ないかもなあ……」
セレーナの傍若無人な言動を思い出し、水波が遠い目をしていると、ペンギンのような生物は水波のスマホを指差し、
「貴方のスマホに入ったアプリ、『魔法学園:星屑の誓いと七人の魔導士』はストーリーを進めると、自動的にセレーナ嬢の意識に転移するように設定されています。貴方にはストーリーを進めて頂き、セレーナ嬢を救って頂きたく思うのです!ちなみに、このゲームは公式で発売されているので、あらすじはホームページから見ることが出来ます!説明は以上になりますが、何かご不明な点などありますでしょうか?」
水波は何かを考えるように首を傾げる。
「うーん……じゃあ、何であなたはセレーナを救って欲しいの?」
「それは、そういう役目だからでございます」
「?」
ペンギンの頭をした生物はやれやれと言った様子でくるくると回転しながら、
「小説や漫画、ゲームでは、悲劇を迎えたキャラが救われて欲しい、と願う方が多々いらっしゃるのです。私たちはそう言った方々の願いを叶える手伝いをしております」
「ふーん、それで、あなたは私にこのアプリを使ってセレーナを救って欲しいって訳ね」
「そういうことでございます」
「ま、良いけど。でも、私学校とか塾とかあるから少しずつしか時間取れないよ?」
「そこは大丈夫です。あなたがストーリーを進めない限り、セレーナ様達の時間は一定以上進みませんから」
「分かった。じゃあ時間がある時に進めるよ」
すると謎の生物はうやうやしくお辞儀をし、
「それでは、小鳥遊水波様、セレーナ様をよろしくお願いします」
と言ってシュウゥと白い煙に包まれ消えていった。
◇◇◇
そうして水波はセレーナを救う任務をまんまと押し付けられた訳だが、ストーリーの概要を知らないことにはアプリを進めても頭に入ってこないだろう。
とりあえず自分のパソコンで『魔法学園:星屑の誓いと七人の魔導士』と検索する。
ホームページはすぐに出てきた。
「で、あらすじはっと……」
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王都にある名門校――
王立アルカディア魔法学園。
そこは、未来の魔導士を育てる国内最高峰の学び舎。
ある日、平民出身の少女であるあなたは、
入学試験で誰も扱えないはずの「星屑の魔法」を発現させる。
それは、かつて世界を救ったとされる
伝説の魔法だった。
その力に興味を示したのは、学園に名を連ねる
「七人の魔導士」と呼ばれる天才たち。
王国の第一王子。
孤高の天才魔導士。
騎士団の後継者。
自由奔放な精霊使い。
無口な魔導研究者。
学園を統べる生徒会長。
そして、星の秘密を知る謎の少年。
彼らと過ごす学園生活の中で、
やがて明らかになる「星屑の魔法」の真実。
それは、世界の運命を変える力だった――。
星に導かれた出会いは、やがて恋へと変わる。
七人の魔導士と紡ぐ、
恋と魔法の学園ファンタジー。
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「……意味が分からん」
と水波は頭を横に振った。
自分が触ったことのないジャンルだからか、あらすじを読んでも半分も頭に入ってこなかった。
それにしてもストーリーが突飛過ぎないか!?
そもそも『星に導かれた出会いは、やがて恋へと変わる』って何だ。夢見がちポエム過ぎないか。
「晴海なら詳しいかな。何か色々ゲームやってるって言ってたし」
スマホを操作し、メッセージアプリを呼び出す。
晴海のアドレスを呼び出し、電話をかけるとすぐに繋がった。
軽快な声が耳に響く。
『お疲れー、水波。何?遊びのお誘い?』
「うーん、ちょっと違うかな。ねえ晴海、ゲームの話なんだけど、『魔法学園:星屑の誓いと七人の魔導士』ってゲーム知ってる?」
すると相手は驚いたように、
『え、知ってるも何も、今超絶ブームな乙女ゲームじゃん!何、水波もやる気になった?』
「あー、うん、時間見つけてやってみようかなぁって。でもあらすじ読んだけどさっぱりなんだよね。どういうゲームか簡単に教えて欲しいんだけど」
『え、水波、よく知らないままプレイしようとしてる?それまた何で』
「う」
その言葉に水波は少し慌てる。セレーナを救うためとか言ったら頭が変になったと思われてもおかしくない。
「ま、まあ、色々事情があって。知り合いと話あわせたいかなーって」
『ふうん。まあ良いや。そもそもそのゲームが乙女ゲームってジャンルなんだけど、プレイヤーが主人公の女の子になりきって男キャラと恋愛していくゲームなの』
「ふんふん」
『プレイ方法はアドベンチャーゲームだから基本的にボタンを押してテキストを読んでいく方式なんだけど、そこで時々選択肢が出てくるから、それを好きな男キャラに気に入られるように選んでいって、そのキャラと恋に落ちてエンディングって感じかな』
つまり主人公キャラが一人の男と恋に落ちていくのを眺めるゲームか。
他人の恋愛を眺めて何が楽しいんだ、と水波は心の中で思った。が、親友の手前、口には出さない。
「なるほど」
『……何か語彙少なくなってない?まあ良いけど。ただこのゲーム、ルート分岐が階段式になってるんだよね。何か聞きたいことある?」
「……ルート分岐が階段式ってどういうこと?」
『本筋のストーリーはほぼ一本道で、誰かと恋愛したいと思ったら脇道に逸れるイメージかな。だから恋愛のルートではゲームの真相は全部は明らかにならないの』
「つまり、誰とも恋愛しなかったら物語の真相に辿り着くってこと?」
すると答えは簡単に返ってきた。
『そう。トゥルールート、または友人ルートって呼ばれてるけどね。私プレイ済みだから重大なネタバレも知ってるんだけど、どうする?知りたい?』
セレーナのことを考えると知っておいた方が良い気もするが、ルート分岐が階段式なら自力でやりようもある気がする。
真相はひとまずお預けにしよう。
「ううん。とりあえず自分でやってみる」
『了解。ネタバレなしの楽しみ方ってものがあるもんね〜、うんうん』
何やら勝手に納得している友人だが、一つ大事なことを聞くのを忘れていた。
「あ、晴海。セレーナってキャラ知ってる?」
すると友人の大きいため息が帰ってきた。
『あー……水波、キャラ紹介でセレーナに惹かれちゃった感じ?あの子、両親に愛されていないって思い込んじゃってグレちゃうの。それで主人公キャラとか義弟とか、愛されてるように見えるキャラに意地悪していく、いわゆる悪役令嬢って子。最後は断罪されるんだけど、キャラデザが良すぎるし、断罪の内容が容赦ないからその境遇から救済して欲しいって声が後を絶たないんだ。何とも世知辛いねえ』
最後の言葉は色々と諦めたような口調だった。
とりあえず聞きたいことは聞けたので、一旦お開きにする。
「晴海、ありがとう。とりあえず最初から遊んでみるよ」
『はいはーい、また分からないことがあったら聞いてー』
そうして通話を切る。
一応ホームページのキャラ紹介も見てみたが、どうやら七人の魔導士が攻略対象になるらしい。
覚えきれないので、ゲームをしながら覚えていくことにした。
「それじゃ、遊んでみますか」
と、乙女ゲームのアプリを押した。
すると、ホームページで見たようなあらすじがテキストで流れ、オープニングが始まった。
軽快な音楽と共に、キャラクター達が映し出される。
主人公らしき女の子は、春のような桃色の髪にエメラルドのような碧眼をしていて、見るものを惹きつける魅力がある。
その他の攻略キャラクターは全員イケメンで(当たり前だが)、何か目がチカチカしてくる。
最後の方に、セレーナが暗い背景と共に出てきた。
どうやら冷遇されているのは本当のようだ。
これは何とかせねば、と思ったところでオープニングが終わり、水波の視界が真っ白になった。
◇◇◇
次に水波が目を開けると、ふかふかの羽毛布団の上にセレーナの姿としてちょこんと座っていた。
今部屋には誰もいない。
途端に頭の中から威勢の良い声が聞こえてくる。
『ちょっと!あなたまたわたくしの体を乗っ取るだなんて、どういうつもりですの!?』
『うーん、多分あなたが18歳くらいになるまで度々乗っ取らせてもらうかも』
じゅうはちッ!?と何やら怯えるような声色が聞こえたが気にしないことにする。
水波はまず、気になっていたことを最初に聞く。
『そういえば、義弟君にはちゃんと謝った?あれからも仲良くしてる?』
するとセレーナはふん、と鼻を鳴らして
『一応、この間の無礼については謝りましたわ。それと、行儀が少しくらい間違っていても多めに見ています。あと、彼の名前はアッシュですわ』
『ああ、そういえば義弟君の名前、聞いてなかったね。教えてくれてありがとう』
このくらいでお礼を言われると思わなかったのか、セレーナは少し鼻白んだようだった。
『ふ、ふん、別に良いですわよ。ただアッシュにはあれ以来付き纏われてしまっていますの。わたくしとしてはもう少し一人の時間を持ちたいのですけれど』
最初に会った時は気づかなかったが、何だか声色が少し和らいでいる気がする。愛情不足とやらは解消気味なのだろうか。
高飛車なのは元々の性格もあるのだろう、と水波は結論づけた。
『ふふ。付き纏われてるってことは懐かれてるってことだよ。ちゃんとお姉さん出来てるんだ』
『ば、馬鹿にしないで下さいませ!わたくしだってその気になれば出来る子なんです!』
『うんうん、良い傾向だよ。それで私がまたここに来た理由だけど、今日は大事な話をしに来たんだ』
するとセレーナは少し冷静になったようだった。
『大事な話……?』
『どうもあなた、人をいじめたりするのをやめないと、18歳で酷い目に会っちゃうみたいなんだよね』
『ひ、酷い目、とは……?』
『お城の地下に幽閉されたり、修道院送りになったり、処刑されたり』
水波がさらりというと、ひっという声が聞こえた。
セレーナは怯えながらも、予想通りの質問を飛ばす。
『そ、そうならないためにはどうすれば……?』
『とりあえず人をいじめないことじゃない?後は人に優しくすること、とか?』
そう答えると、しょんぼりした声が帰ってきた。
『人に優しく、と言われても、方法が分かりませんわよ……』
『難しくないよ。この間のアッシュの時みたいに、悪いことをしたら謝って、困っていたら助けてあげれば良いんだよ。私も手伝ってあげるからさ』
すると相手はぽかんとしたようだった。
『手伝って、下さるの?』
『うん、そのためにここに来たようなものだからね。たまにしか来れないけど、これから一緒にどうすれば生き残れるか考えていこう』
そう言うと、セレーナはおずおずとした調子で返事をした。
『よろしく、お願いしますわ』
これは、アプリによって異世界に来させられた少女が悪役令嬢を救済するまでの物語である。




