第2話「最強の包丁と、ママチャリと、絶望の女騎士」その3
◆
その時だった。
「グルルルルルル……」
低い唸り声が聞こえた。
(!)
(嫌な予感)
おっさん、立ち止まる。
セシリアも警戒する。
「この声…まさか…」
森の奥から、巨大な影が現れた。
ドラゴン。
全長10m以上。
鱗が太陽光を反射して、鈍く光っている。
「ドラゴンだと!?」
セシリアが叫ぶ。
(マジで!?)
(ドラゴン!?)
(これ、無理じゃない!?)
おっさん、AI-DOSUの画面を見る。
『Dragon (Level 50)』
『Danger Level: S』
『Recommended Action: Run』
「逃げろって言ってます!」
おっさん、叫ぶ。
「AI-DOSU! お前も逃げろって言ってるだろ!」
『Run is recommended』
「だろ!? だから逃げよう!」
「くっ…でも、この先に村がある! ここで止めないと!」
セシリア、三徳包丁を構える。
「待って! 包丁でドラゴンは無理でしょ!」
「攻撃力999999よ!? やるしかない!」
(いや、でも)
(ドラゴンだよ?)
(包丁だよ?)
おっさん、不安でいっぱい。
でも、セシリアは突撃した。
「せいやぁぁぁぁ!」
(あかん)
ドラゴンが、炎を吐く。
ゴオオオオオ!
セシリアが、白い肌着のまま炎の中に突っ込む。
「!?」
おっさん、目を疑う。
炎が、セシリアに当たらない。
いや、当たっているが、ダメージがない。
(防御力99999!)
『Developer_Skin』が、完全に炎を防いでいた。
「はぁぁぁぁ!」
セシリア、ドラゴンの首に包丁を叩き込む。
ズバァァァァァァン!
包丁が、ドラゴンの首を切断した。
首と胴体が、分離する。
ドサッ。
首が地面に転がる。
ドサドサッ。
胴体が倒れる。
「……」
「……」
セシリアも、おっさんも、呆然とする。
沈黙。
分かる?
今、包丁でドラゴンの首を切断したんだよ。
信じられる?
おっさん、信じられない。
でも、目の前に首と胴体があるんだよ。
「…勝った?」
セシリアが、小さく呟く。
「勝ちましたね」
おっさん、答える。
セシリア、自分の手元の包丁を見る。
ドラゴンの血が付いている。
でも、刃こぼれ一つない。
「これ…本当に強いのね…」
「ですね」
「…恥ずかしいけど」
「…はい」
セシリア、深いため息をついた。
「別に…」
セシリアが、小さく呟く。
「別に、貴方のために戦ったわけじゃないわよ」
「え?」
「村を守るため。それだけよ」
セシリアが、ツンとした顔で言う。
(ツンデレだ)
おっさん、思う。
「もう…慣れてきたわ」
(強い)
おっさん、三度目の感心。
この人、本当にメンタル最強だ。
おっさんなら、とっくに心折れてるもん。
◆
ドラゴンを倒し、さらに街道を進む。
そろそろギルドのある街が見えてくるはずだ。
「ところで」
セシリアが、ふと立ち止まる。
「私の馬は?」
「え?」
「昨日、森に繋いでおいたはずだが」
おっさん、ハッとする。
(あ、忘れてた)
(完全に忘れてた)
やばい。
「AI-DOSU、セシリアさんの馬を呼んでくれ」
『Command received.』
「よし」
安心したのも束の間。
『Summoning mount.』
「うん」
『Analyzing mount data...』
(また嫌な予感)
このパターン、もう分かるよね。
『Original: War Horse (Heavy Type)』
『Weight: 800kg, Speed: 40km/h』
「うん、そうだね。重い馬だったね」
『Optimizing for efficiency...』
「やめろ」
おっさん、画面に向かって言う。
「やめてくれ。頼む」
『Optimal mount: Mamachari (City Bicycle)』
「ママチャリ!?」
おっさん、叫ぶ。
「なんでママチャリなんだよ!」
『軽量で効率的です』
「馬とママチャリ、全然違うだろ!」
『移動手段として最適です』
「最適じゃねえよ!」
『仕様です』
「また仕様か! お前、仕様しか言わないのか!」
おっさん、激怒する。
(このAI、本当にうざい)
(うざすぎる)
(名前通りすぎる)




