第9話「魔王軍の将軍と、AIの健忘症」その1
おっさんのパーティーは、ギルドで休憩していた。
砂漠の依頼が終わり、一息ついている。
「疲れたわね…」
セシリアが、白い肌着姿で言う。
「ええ…」
エルネラも、疲れている。
ルミナとソフィアも、ぐったりしている。
カイトは、端末を見ている。
「おっさん、次の依頼どうするっすか?」
「……そうだな」
おっさん、掲示板を見る。
その時だった。
ギルドの扉が開いた。
重厚な足音。
振り返ると。
巨大な人物が立っていた。
オークのような見た目。
重厚な鎧。
魔王軍の紋章。
(敵!?)
おっさん、緊張する。
セシリアが、三徳包丁を構える。
でも、その人物は。
おっさんの画面を見て、動きを止めた。
「……その画面」
低い声。
「貴様、その黒い画面……まさか『CONFIG.SYS』を書き換えているのか?」
「……え?」
おっさん、驚く。
(CONFIG.SYS?)
「『HIMEM.SYS』でメモリ管理もしないと動かないからな」
おっさん、思わず答える。
すると。
その人物が、兜を脱いだ。
オークの顔。
でも、目に涙を浮かべている。
「(涙を流して)……同志よ!!」
「まさか異世界で『MS-DOS』の話ができるとは!」
「え?」
おっさん、困惑する。
(同志?)
「俺はガルガド将軍。魔王軍の幹部だ」
ガルガド将軍が、自己紹介する。
「だが、中身は…元・中間管理職(50歳)だ」
「転生者…?」
「ああ」
ガルガド将軍が、頷く。
「貴様も、その画面を見る限り…」
「……はい」
おっさん、頷く。
「48歳。サラリーマンでした」
「やはりな!」
ガルガド将軍が、おっさんの手を握る。
「同志よ! 語り合おうではないか!」
「あ、はい…」
おっさん、戸惑う。
(敵なのに?)
セシリアが、困惑している。
エルネラも、呆れた顔。
カイトは、訳が分からない。
「なんすか、この展開」
◆
気づけば、おっさんとガルガド将軍は、居酒屋にいた。
酒を飲みながら。
「最近の若い勇者はな」
ガルガド将軍が、グラスを傾ける。
「すぐ『チート』だの『アプリ』だの…基礎がなってない!」
「全くだ」
おっさん、頷く。
「我々は『CONFIG.SYS』と戦った世代だからな」
「そうだ!」
ガルガド将軍が、テーブルを叩く。
「『AUTOEXEC.BAT』を一行ずつ書いて、システムを立ち上げた!」
「リソース不足と戦い、フロッピーの読み込み音に祈りを捧げた」
おっさんも、熱く語る。
「640KBのメモリを必死にやりくりした!」
「そうだ! そうなんだよ!」
二人、意気投合している。
その時、AI-DOSUの画面が光った。
『System Link Established.』
『Sharing "Alcohol_Data".』
「おお」
ガルガド将軍が、目を輝かせる。
「システム連携か」
「今度、いい地酒が入ったんだ」
おっさん、言う。
「行く行く! IPアドレス交換しよう」
「ああ」
二人、笑顔で頷く。
少し離れたテーブルで。
セシリアたちが、ドン引きしている。
「…敵なのに」
セシリアが、呟く。
「おっさん二人が、盛り上がってるわ」
エルネラが、ため息をつく。
カイトが、困惑している。
「何の話してるんすか?」
「分からないわ」
ルミナも、首を傾げる。
ソフィアだけが、優雅に微笑んでいる。
「まあ、素敵な友情ですわね」
(この人、ズレてる)
その時、AI-DOSUが出力した。
『Poetic expression:』
『敵と味方の境界は
酒と技術談義で消える
それが おっさんの生き様』
「ポエムは要らないんだよ!」
おっさん、ツッコむ。
でも、さらに続く。
『Haiku expression:』
『敵も友も
同じMS-DOS
ビールうまし』
「俳句かよ!」
おっさん、叫ぶ。
「しかも季語ないし!」
ガルガド将軍が、笑う。
「貴様のシステム、面白いな」
「面白くないんだ…」
おっさん、疲れた顔で言う。
そして、AI-DOSUが、さらにおかしくなり始めた。




