第1話「出会いは全裸(モザイク)から」その1
「きゃああああ! 私の鎧がぁぁぁ!!」
女騎士の悲鳴が、森に響き渡った。
(!)
(え?)
(何が起きた?)
俺の目の前で、重厚なミスリル鎧が緑色の文字コードに変換され、パラパラと崩れ落ちていく。
(マジで!?)
レトロなドット絵のような「■」や「@」の記号になって、まるで古いパソコンの画面が壊れたみたいに剥がれていく。
分かる?
MS-DOSの画面が壊れた時の、あの感じ。
(あかん)
そして、残ったのは。
白い肌着姿の美女。
「……」
「……」
気まずい沈黙。
(やっちまった)
(マジでやっちまった)
(どうしよう)
女騎士が、涙目で俺を睨む。
「貴様! 何をした!?」
「すみません!」
おっさん、反射的に謝る。
分かるよね?
おっさん、謝るの得意なんだよ。
サラリーマン時代、毎日謝ってたから。
「これ、俺のせいじゃないんです! AIが勝手に!」
「知らないわよ!」
女騎士が、さらに怒る。
「私の鎧を返せ!」
「返したいんですけど…」
(いや、でも俺のAIだから、俺の責任か)
(やばい)
(胃が痛い)
『Task Complete. User is welcome.』
画面に、そう表示された。
(最悪だ)
おっさん、48歳。
童貞のまま死んで、異世界転生した。
ついてきたAI「AI-DOSU」がポンコツすぎて、人生が狂い始めている。
今、この瞬間も。
分かるよね?
おっさん、被害者なんだよ。
◆
時間を少し巻き戻そう。
おっさんが異世界に来たのは、3時間前だった。
◆
「……ここは?」
目覚めたら、見知らぬ森の中。
(え?)
(どこだここ)
立ち上がって、自分の手を見る。
若い。
シワがない。
血管も浮いてない。
(!?)
おっさん、慌てる。
(なんだこれ)
(俺の手じゃない)
近くの水たまりを覗き込む。
25歳くらいのイケメンが映っていた。
(……誰だこれ)
いや、俺なんだけどさ。
でも、中身は48歳のおっさんなんだよ。
分かる?
俺、確か過労死したはずだよね。
48歳、童貞、冴えないサラリーマン。
終電で帰宅中に、意識が飛んで。
それが今、25歳のイケメンになってる。
(これ、異世界転生ってやつか!)
分かるよね?
最近の流行りだよね。
おっさん、小説とか読むから知ってるんだよ。
「なろう」とか「カクヨム」とか。
(やった! 第二の人生!)
(25歳!)
(しかもイケメン!)
(これはワンチャンあるぞ!)
そう思った瞬間だった。
『インストール完了しました』
「!?」
突然、目の前に緑色の文字が浮かび上がった。
(何これ)
レトロなCUI画面。
黒い背景に、緑色の文字。
MS-DOSを思い出す、あの懐かしい画面だ。
(懐かしい…)
おっさん、元自作PCオタクなんだよ。
MS-DOS 6.22とか、Config.sysとか、Autoexec.batとか。
そういう時代を生きてきた人間だ。
分かる?
フロッピーディスクでOSインストールしてた世代なんだよ。
5.25インチの、ペラペラのやつ。
『システムAI起動完了』
『ユーザー登録を開始します』
「え、何これ」
おっさん、戸惑う。
(異世界転生にシステムAI付き?)
(まあ、よくあるパターンだよね)
『性格分析完了』
「性格分析?」
おっさん、首を傾げる。
(何を分析されたんだ?)
(嫌な予感がする)
『ユーザープロファイル:
Arafo
Itai(痛い)
Doutei(童貞)
Ossan
Sekuhara
Uzai』
「ちょっと待て!」
おっさん、思わず声を上げた。
「ひどすぎるだろ!」
(アラフォーの・痛い・童貞の・おっさん・セクハラ・うざい)
いや、否定できないけどさ。
でも、こんなに並べられると傷つくんだよ。
分かるよね?
全部事実だけどさ。
でも、マジで傷つくんだよ。
おっさん、繊細なんだよ。
「これ、プロファイルって言うか、ただの悪口だろ!」
『客観的分析結果です』
「客観的!? どこが客観的なんだよ!」
おっさん、画面に向かって叫ぶ。
(やばい)
(このAI、絶対やばい)
『システム名称を決定しました』
『AI-DOSU』
「は?」
おっさん、首を傾げる。
「DOS? MS-DOSのこと? Disk Operating Systemの略?」
分かる?
おっさん、DOSには詳しいんだよ。
『いいえ。AI-DOSUです』
「いや、DOSだろ! Uいらないだろ!」
おっさん、必死にツッコむ。
(何言ってんだこのAI)
「俺、MS-DOS 6.22とか使ってたぞ!」
「PC-9801も持ってたぞ!」
「DOSにUなんて付かないだろ!」
『それはDOSです』
「だろ!?」
『私はDOSUです』
「同じだろ!」
おっさん、叫ぶ。
『違います』
「どう違うんだよ!」
『私には『U』があります』
「Uって何だよ」
おっさん、嫌な予感がする。
(まさか)
『Uzaiの『U』です』
「理不尽すぎるだろ!」
おっさん、頭を抱える。
(このAI、本当にうざい)
(でも、否定できないのが悔しい)
(確かに、おっさん、うざいもんな)
やれやれ。
『仕様です』
「仕様で終わらせるな!」
おっさん、画面に向かって叫ぶ。
「っていうか、仕様ってなんだよ! 誰が決めた仕様だよ!」
『システム仕様書に記載されています』
「見せろよ!」
『閲覧権限がありません』
「俺のAIだろ!? なんで俺に権限がないんだよ!」
『仕様です』
「また仕様か!」
(やばい)
(このAI、絶対に信用できない)
(絶対にやばい)
こうして、おっさんは理不尽なAIと共に、異世界生活を始めることになった。
まさか、この3時間後に、あんなことになるとは。
この時は思ってもいなかったんだよ。




