360頁:恋は世界を丸く収める鍵となる
この世界は今、勇者を求めている。
その任を受けた魔導師の少女・ロベリーは、分厚い書物を片手に呪文を紡いでいた。
「光は遠けき空の星にあり。永久を超えてなお流れ往く時の先。異界の門を敲く音は境界を伝い――」
1ページで世界ひとつ。めくる度に世界の壁を越えていく。
対象外の世界を次々に読み飛ばし、めくり続ける。
「比類なき勇気と強き意志で、扉に手をかけし者」
ページをめくる音に靴音が重なり始める。
もうすぐ繋がる世界が見つかる。扉の向こうに勇者が来る。
共に世界を救う仲間は、一体どんな人だろう。
「さあ――」
顔を上げたロベリーは、ふと、3年前に姿を消した幼馴染を思い出した。
ああ、彼みたいな強くて優しい人だといいなあ。
かつて涙で封じた淡い思い出を、目を伏せて振り払う。
「汝の手に鍵はある。扉は既に開かれり!」
靴音が止まった。世界が繋がる。
扉の向こう。眩い光と突風の奥に立っていたのは。
「ロベリー?」
「セレス、にいさ……えっ!?」
さあ、っと血の気が引いた。
あの一瞬の雑念が。勇者のイメージが。
3年前の彼を結びつけてしまった。
どうしよう。いや、異論はないけどどうしよう。
ロベリーは色んな意味で泣きそうだった。
セレス兄さんは、ロベリーより5つくらい年上だった。




