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R15の境界線  作者: 匿名記号


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2/6

R15とは何か

 それは、翌日の放課後のことだった。


 部室の隅。片瀬悠斗はノートパソコンを広げ、なにやら真剣な顔で検索していた。

 その隣では白川七瀬が紙コップのアイスコーヒーを手に同じ画面を覗き込んでいる。


「……ほんとに調べるんですか? “R15のライン”なんて」

「当然だろ。昨日、俺たち決めただろ。“R15ライン研究会”を立ち上げるって」

「冗談だったんですけど……」

「冗談のつもりで始まるのがだいたい面白い研究なんだよ」


 悠斗はそう言いながら検索バーにキーボードを叩く。

 “R15 表現 基準 演劇”──Enter。


 画面にずらりと並ぶ検索結果。

 映画倫理機構の説明、舞台演出のブログ、そして──


「……『小説家になろう』? なんでそれが出てくるんですか」

「創作系のガイドラインが一番具体的なんだよ。創作ジャンルの基準として意外と参考になる」


 悠斗がクリックしたページには、丁寧に書かれた注意書きが並んでいた。


> 『性描写(性行為そのもの、またはそれを直接的に連想させる描写)は禁止です。』

> 『未遂・強制など、読者に性的被害を想起させる表現もNGです。』

> 『キス、抱擁、下着、入浴などは、文脈次第で可。』


「……へえ。思ったより細かいですね。特に性描写は……具体的、直接的じゃなければ可……なんですね」

「だろ? しかも“文脈次第”ってのが曲者なんだよな。つまり、アウトかセーフかは“読者の想像力次第”ってことだ」

「じゃあ、“想像させたら勝ち”ってことですか?」

「お、いいこと言うな。七瀬、天才じゃないか」

「な、なにが天才なんですか!」

「つまり、直接的に書かなくても、想像で“見せる”ことができる。そこが“R15の美学”だ。──演技も同じだと思わない?」

「……想像で見せる演技、ですか」


 七瀬は頬杖をつき、少し考え込むように目を伏せた。

 “想像させる”という言葉が、胸の奥に妙な熱を残す。


「たとえば──セリフで“抱きたい”って言うのはアウト。でも“君の髪、まだ少し香ってる”ならセーフ。……この違い、わかるか?」

「……どっちにしても、ちょっとドキッとしますけど」

「それが狙いなんだよ。直接言わずに伝える。言葉の中の温度で、読者の想像を操る。これがR15の醍醐味だ」

「……なんか、だんだん“研究”っていうより、“口説き方講座”みたいになってません?」

「研究ってのは本気でやるから面白いんだよ」


 悠斗は冗談めかして笑い、手元のノートを取り出した。

 タイトルには堂々と書かれている。


『R15ライン研究ノート』


「これに、“ギリギリセーフなセリフ”と“ギリギリアウトな表現”をまとめていく」

「まさか、本当にノート作ってたんですか!?」

「当然だ。昨日の“抱擁”もきっかけとして記録してある」

「や、やめてください! あれは演技です!」

「“演技として成立していたかどうか”は、今後の研究テーマだな」

「うわぁ……変態の方向に進んでる気がする……!」


 そんな言い合いをしながらも、二人の手は自然とノートに向かっていた。

 “セーフ”の欄には──


> ・「指が触れた気がした」

> ・「息が混ざる距離」

> ・「目が合った瞬間、呼吸を忘れる」


 そして“アウト”の欄には──


> ・「唇が触れた」

> ・「押し倒した」

> ・「肌に触れた」


「……この“息が混ざる距離”って誰が考えたんですか」

「俺」

「自信満々に言わないでください!」

「でもいい表現だろ? セーフだし、妙にドキッとする」


 七瀬は反論できず思わず顔を伏せた。

 確かにその言葉だけで昨日の感覚が蘇ってくる。

 胸の鼓動と近すぎた距離と、何も言えなかった沈黙が。


──あれも、演技の一部だったはず。


 でも、もしあのときの“息の混ざり”が本物だったら。

 そんな考えが浮かんでしまい、七瀬は慌てて首を振る。


「ど、どうせなら、台詞とかも考えてみましょうか。演技用に」

「いいな。それこそ創作的アプローチだ」


 二人で台詞を書き出し始める。


「お前の顔、近い」

「……近づけてるんですよ」

「じゃあ、これは?」

「──それ以上はR18です」


 書き終えて、沈黙。

 七瀬が小さく笑った。


「……これ、セーフですかね」

「完璧にR15だ。ギリギリを攻めた名作だよ」

「もう、やっぱり変態研究会ですよ、これ……!」


 部室の外から声が聞こえた。


「なにやってんの二人ともー? 稽古もう始まってるよー!」


 副部長の声に二人は顔を見合わせる。

 気づけば稽古開始時間をとっくに過ぎていた。


「やば、ガチで研究してたな……」

「R15ライン研究会、活動休止ですね」

「また再開しよう。……今度は、演技で“想像させる”ほうを」


 そう言って笑う悠斗に、七瀬は小さくため息をつく。

 けれど、その頬はうっすらと赤くなっていた。


──“想像させる表現”。

 それが、こんなにも心をざわつかせるものだなんて。


 彼女はまだ知らない。

 この研究が、二人の関係そのものを“R15ライン”のぎりぎりへと導いていくことを。


次章に続く。


──エロスは演技の中に

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