友情ってなんだっけな
友情ってなんだっけな。
今、俺の恋人と絶賛盛ってる親友を見てそう思う。
「あ…たっくん、これは違うの!」
「すまん!こんなつもりじゃなかったんだ!」
裸で土下座する親友、シーツで身体を隠して言い訳する婚約者。
「…とりあえず、話し合おうか」
「お、おう………」
「服着たらリビングに来いよ。逃げるなよ」
「は、はい…」
しばらくして、服を着た婚約者と親友はリビングに来た。
そして見事な土下座を披露する。
「で?」
「その、たっくんが最近忙しくて…寂しかったの!」
「うん、で、お前は?」
「…その、寂しいのって迫られて………美人だし、一度くらいならいいかなって」
俺は小さく舌打ちする。
二人は土下座したまま肩を揺らした。
「とりあえず婚約は破棄。慰謝料は…まあ二人ともそれぞれ百万円な。二人の親御さんは存命だしそれなりに裕福だから一括で払えるだろ」
「は、払えるけど…その、婚約破棄は………」
「結婚式に招待した人たちには俺から言っておく。婚約破棄は絶対。あとお前とも絶交な」
俺の拒絶においおいと泣く二人。
泣きたいのはこっちだよ。
「じゃあそういうことで、出てけ」
俺は元婚約者と元親友を追い出した。
そして粛々と結婚式に招待した人たちに【事実】を包み隠さず伝えて、俺が悪いわけではないが謝罪も済ませた。
二人からは一括で慰謝料が入った。
狭い田舎だから、二人のしたことは恐ろしく早く広がった。
二人とそのご両親は、田舎にいられなくなって引っ越した。
二百万を手にした俺は、どうせ泡銭だからとその金で競馬に興じた。
そうしたら何故かたまたま適当に選んだ馬券が大当たりで逆に泡銭が増えた。
俺にはもう、婚約者も親友もいないのに。
親だって先に逝ってしまったし、こんな大金誰のために使えば良いんだ。
そう思っていたのだけど。
「お金を貸してください」
そう土下座するのは、小学生時代俺を虐めてきた男。
「で?なんで?」
「会社をクビになりました。娘二人と嫁を養わないといけないです」
「うん、で、なんで俺?」
お金のことは誰にも言ってないんだけど。
「他にあてがなくて…」
「…はぁ」
まあ、いいけど。
「いくら必要?」
「再就職できるまでの間の生活費分…このくらい…」
「それだけ?本当は?」
「…できれば、自分で事業をおこしたいからこのくらいあると助かる………」
「はいよ」
金を貸してやる。
即金で。
元いじめっ子は驚愕する。
「え」
「その代わり、全額適法な利子付きで返済な。あとこれっきり二度と俺に頼るなよ」
「ありがとう!ありがとう!」
…俺って、損な性格だよなぁ。
あれから何年か経って。
俺を裏切った元婚約者と元親友は遠い土地で結婚したと噂が流れた。
ただ、お互い浮気して泥沼になって不幸な結婚になったらしい。
ざまぁ。
一方で俺が助けてやったいじめっ子の事業は上手くいって、利子付きで大金を返してくれた。
「で、お前はいじめっ子で嫌な思い出しかないのに何故か俺に絡んでくるようになったと」
「いや、昔は本当にすまなかった!でも今があるのは本当にお前のおかげなんだ!ありがとう!」
「ありがとうありがとう言って毎日のように酒奢るのやめてくれない?」
「このくらいしか罪滅ぼしも感謝も出来ないし…」
ぶっちゃけ。
両親の遺してくれた財産を不労所得に変えてあったから働かなくても俺は生きていけるし、さらにこいつからの利子付きの借金返済もあるから金には困ってない。
仕事に関してはそれそのものが趣味程度のもので、無理もしてないしそれで金がさらに貯まるからお得なくらい。
だからむしろ俺がこいつに同じような頻度で奢ってやっても困らないくらいだ。
「いじめっ子だったお前から守ってくれた親友に裏切られて、いじめっ子だったお前に妙に感謝されて付き纏われて…友情ってなんだっけな」
「まああいつらのことは忘れろって。俺は本当に昔のことはすまない。けどお前に助けられて今の俺がある。俺の家族を路頭に迷わさずに済んだ。本当に感謝してるんだ」
「………友人ってなんだっけな」
もう誰を恨んでるのか、恨んでないのか、わからん。
でもまあ。
「お前そろそろ良い加減に俺に奢るのやめろよ?」
「ええ…でもそしたらお前俺と完全に決別するだろ。やだ」
「わがままな奴だな…本当にいいよ、奢ってくれなくて」
眉を八の字にする元いじめっ子に笑いかける。
「俺たち、もう友達なんだろ。いいって」
「…まじ!?許してくれるの!?」
「小学校時代の虐めは一生許さん。それはそれとして娘さんたちと奥さんのために俺に頭を下げた根性は認めてやる」
「ありがとう!ありがとう!」
もう友情とか、恋とか、そういうのもよくわからなくなってしまったが。
こいつとなら、友情ごっこくらい続けてやってもいいと思えた。
それからさらに数年。
俺は元いじめっ子の紹介で真面目なお嬢さんと結婚する運びとなった。
本当に良い子で、一緒にいて幸せだ。
あちらのご実家に伺う際なんて、両親のいない俺のために元いじめっ子が色々気遣ってくれた。
元いじめっ子から色々俺の話を聞いていたという相手のご両親はえらく俺に好意的で助かった。
「そして、今日の結婚式。お前はきてくれた」
スピーチを新郎側もするのは珍しいだろうが、やらせてもらう。
もちろん新婦もご両親にスピーチした後で、な。
「友情ってなんだっけと何度も思ったけど、お前と仲良くなれてよかったと今は思う」
「………」
俺の言葉に漢泣きする元いじめっ子…いや、現親友に微笑む。
「お前には、今は感謝しかない。もう恨んでもいない。だから、これからも仲良くしてくれ」
奴は涙でグチャグチャの笑顔で頷いて、俺をハグしてきた。
まったく、困った奴だ。
そして俺は、本当に大切にすべき相手たちと新たな幸せに向けて一歩を踏み出した。