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SF短編集

僕の未来予知は、どうでもいい事しか当たらない

うおおおおっ!? な、なんだこれ! ランキング、俺の作品だらけじゃねえか!


『徳』が日間1位!? 『門番』もローファンタジーで3位!? おいおいおい、どうなってんだ! しかも『街灯』も『自販機』もまだランクに……。

 僕、武田には未来予知能力がある。それも、百発百中の、完璧な未来予知だ。


 ただし、予知できるのは「心底どうでもいいこと」に限る、というくだらない制約付きだった。


 例えば、スーパーのレジ。僕は、どの列が一番早く進むかを完璧に予知できる。コンビニでおにぎりを買う時、棚の奥にあるやつが、ほんの少しだけ製造時間が新しくて米がふっくらしている、なんてことも分かる。赤信号の交差点に差し掛かれば、あと何秒で青に変わるかが、コンマ1秒の狂いもなく頭に浮かぶ。


 その力のおかげで、僕の日常から「小さなイライラ」は完全に排除された。僕は、世界で最も効率的に、スムーズに、どうでもいい日常を送ることができる人間だった。


 もちろん、人生を左右するような大事なことは、何一つ予知できない。宝くじの番号、株価の変動、好きなあの子の気持ち。そういう肝心なことは、僕の能力の対象外だった。


 ある意味、最強で、ある意味、最弱。それが僕の能力だった。友人からは「地味すぎる神の力だな」と笑われている。


 そんなある日の午後。僕は、駅前の広場でぼんやりと人間観察をしていた。


 僕の脳内には、相変わらず、どうでもいい未来の情報が絶え間なく流れ込んでくる。

(あそこのベンチに座ろうとしているおじさん、三秒後に鳩のフンが落ちてくるな)

(向こうから歩いてくる女性、ハイヒールの留め具が緩んでる。あと五歩で外れるぞ)

(カフェの前の看板、風で倒れそうだ。まあ、人に当たることはないか)


 いつも通りの、平和で、どうでもいい未来。


 その時だった。


 ――ゴゴゴゴゴ……!


 地面が、大きく揺れた。立っていられないほどの、強烈な揺れ。周囲から悲鳴が上がる。駅前の古い雑居ビルが、嫌な音を立てて軋んでいる。


 まずい。崩れる。


 僕の脳内に、未来の情報が奔流となって押し寄せてきた。だが、それは「ビルが崩壊する」という、誰もが求める重大な未来ではなかった。


 僕に見えたのは、やはり、無数の、どうでもいい未来だった。


(あのサラリーマン、スマホを落とす!拾おうとかがんだ瞬間、頭上の看板が落ちてくる!)

(あのお婆さん、驚いて腰を抜かす!そこに買い物カートが突っ込んでくる!)

(あのカップル、手を取り合って逃げようとするが、男の方が躓いて、二人とも将棋倒しに!)

(犬のリードが、あの少年の足に絡まる!)


 ビルが崩れる、その瞬間までの、ほんの数十秒の間に起こる、無数の、小さな、小さな不運。連鎖する、どうでもいい悲劇。


 僕は、意味を理解した。僕の能力は、大災害そのものを予知することはできない。だが、その災害によって引き起こされる、一人ひとりの「個人的で些細な未来」は、予知できるのだ。


 どうする? どうすればいい?


 考えるより先に、身体が動いていた。


「そこのあなた!スマホ!ポケットに入れて!」

 僕は、呆然と立ち尽くすサラリーマンに叫んだ。彼は訝しげな顔をしたが、僕の剣幕に押されて、慌ててスマホをしまった。


「お婆さん、危ない!こっちに!」

 腰を抜かした老婆の手を引き、カートの軌道からずらす。


「あんたたち、そっちじゃない!こっちに走れ!」

 パニックになっているカップルの腕を掴み、進行方向を変える。


「坊主、犬をしっかり抱えろ!」


 僕は、狂人のように広場を走り回り、人々が迎えるはずだった、どうでもいい不運の未来を、片っ端からへし折っていった。


 そして。


 ――ガラガラガッシャーン!


 轟音と共に、雑居ビルが崩壊した。粉塵が舞い、悲鳴が響き渡る。


 だが、奇跡的に、広場にいた人々は、誰一人として、致命的な怪我を負っていなかった。僕が無理やり移動させた場所が、偶然にも、大きな瓦礫が落ちてこない、安全なスポットになっていたのだ。


 僕の予知した、無数の「どうでもいい未来」を回避した結果、その先にある「最悪の未来」もまた、書き換えられていた。


 僕は、その場にへたり込んだ。誰かが僕に駆け寄ってくる。

「君は、一体……?」


 僕には、答える言葉が見つからなかった。ただ、脳内に流れ込んでくる、新しい未来が見えただけだ。


(ああ、救急車は、あと三分二十秒で、ここの角を曲がってくるな)


 それは、やはり、どうでもいい未来だった。だが、今の僕には、それが何よりも確かな希望のように思えた。

書いた!どうだ、最高傑作を超えられたか!? …なんてな。まあ、俺は気に入ってる。世界を救うのは、なにもデカい力だけじゃない。小さな、どうでもいいことの積み重ねが、未来を作るんだ。…ああ、やべえ、指が疲れた。

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みちのとちゅう これからも存分につみつみしてくだされ
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