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プリンセス☆ボーイ  作者: 川口大介
第一章 清楚なお姫様は可憐な美少年(泣)
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「こんなのが街へ行ったら……ええいっ! 喰らえ、爆発するファイヤー!」

 ナデモの放った炎の球が、ギョニクゾンビを襲う。が、ギョニクゾンビはそれを迎え撃ち、

「ギョギョ・ビィム!」

 青い光と赤い炎が激突、ぼむ! と音がして、ナデモの放った魔術の炎は焼き魚と化した。

「んなアホなっ⁉」

 どうやらこのビィム、本当に情け容赦なく、なんでもかんでも焼き魚にしてしまうらしい。

この調子では、どんな強力な魔術も伝説の剣も通じなさそうだ。

「ギョッギョッギョッギョッ。さあ、覚悟してもらおうか。俺をあざ笑う愚か者ども」

 怒りの中に笑みを混ぜた壮絶な表情で、ギョニクゾンビがにじり寄ってきた。

 一体どこの異世界からやってきたのか、この非常識なバケモノは? と言いたいところだが、ナデモは知っている。いつものお得意さんのとこの、買取品からだ。

「……あ、そうか! クリートさんなら何か知ってるはず! どうにかできるかもしれない!」

 ナデモはギョニクゾンビに背を向けて、一目散に駆けだした。チンピラーズ二号は慌てて、

「お、おい! 俺を置いていくなっ!」

「おっと待てい! ギョギョ・ビィム!」

 ナデモの後を追おうとした二号は、恐怖の焼き魚化光線、ギョギョ・ビィムを背中に喰らった。青い光に包まれた二号を、ギョニクゾンビが蹴り倒して踏み潰してナデモを追っていく。

 ……二号は、体が焼き魚に変わってていく感覚を味わいながら、必死にもがいていた。薄れていく視界の片隅に、遠くから駆け寄ってくる人影が見えた。自分を呼ぶ声も聞こえ……

「しっかりして下さい! 何があったんです?」

 誰かに、抱き上げられたような感触がする。

 それがどこの誰だか判らないまま、二号は声を絞り出した。

「ギョニクゾンビ……ってバケモノの仕業だ……一号も俺も、焼き魚に……」

「ギョニクゾンビ? どこにいるんです、そのバケモノは?」

「多分、クリートとかいう奴のところ……あいつが追いかけ……」

 ぼむ! と音がして煙が立って、二号はお皿に乗った焼き魚と化した。

その焼き魚を手に、気品溢れる華奢な美少年が、驚愕に目を見開いている。

「クリートって……ご主人様?」

 ホムンクルスの性転換について情報を得ようとやってきた、クリーティアだ。

 だが情報を得るどころか、チンピラーズ二号はたった今、腕の中で焼き魚と化してしまった。

「な、何だか解らないけど、ご主人様が危ないっっ!」

 クリーティアは焼き魚をその場に置くと、クリートの研究所へと駆け出した。


その頃、ギョニクゾンビはナデモを追いかけてティオンの街に入っていた。しかし変種とはいえやはりゾンビ、そう速くは走れない。なので、既にナデモを見失ってしまっている。

 だがその代わり、街には彼の恨みの対象が山ほどいた。

「俺の心を弄ぶ女の子、弄ばれた俺をあざ笑う男の子、どっちもみんな、許っさああぁぁん!」

突如現れたナゾのバケモノに、人々は悲鳴を上げて逃げ惑うばかり。

「な、何だこいつは? マヌケな外見に似合わず、実は世界征服を企む大魔王だったり?」

「何でもいいけどこっちに来ないで! 気持ち悪い~!」

 何人かの冒険者たちは剣や魔術で立ち向っていったが、いかんせん相手が悪い。誰が何をやっても、ビィムの一撃であっさりと焼き魚にされてしまうのだ。

 そうして暴れる合間に、ギョニクゾンビの全身を包む無数の魚たちの口が大きく開かれ、大きく大きく息を吸う。と、どこからか薄い煙のようなものが集まってきて、ギョニクゾンビはそれを吸い込んでいく。

 その煙が栄養にでもなっているのか、ギョニクゾンビの体、つまり魚肉の塊が、少しずつ少しずつ肥大化していく。するとギョニクゾンビの全身にある魚の口は、

「病弱儚げ許さん……眼鏡委員長許さん……世話焼き幼馴染み、許さん!」

「三つ編み許さん……横ポニーテール許さん……リボンもヘアバンドも、許さん!」

「ニーソックス許さん……ビキニアーマー許さん……全身タイツなど絶対に許さん!」 

 などなど尽きぬ怨念を、怨嗟の声を上げる。そんなことをしながらも中央の魚屋の口からは、恐怖の焼き魚化光線、ギョギョ・ビィムを放ちまくっている。

 もうティオンの街は、阿鼻叫喚の地獄絵図、というか焼き魚の大展覧会場と化してしまった。

 このままでは遠からず、街の人々は老若男女まとめて全部、焼き魚にされてしまうだろう。


「なるほど。どうやら焼き魚にした相手は元より、遥か彼方まで射程に収めて……おそらくは世界中から吸い集めているみたいだな。自分の同志である失恋男の怨念、つまり一種の生霊を。それでパワーアップしてる、か」

 ギョニクゾンビが繰り広げている焼き魚地獄を、街外れの研究所前から望遠鏡で眺めている男がいた。

 この研究所の主、白衣の魔術師クリートである。

「フラれ野郎どもの怨念集合体か。なかなか笑える冗談だ。まあ失恋に関しちゃ、俺も人のことは笑えんがな」

「笑うも笑わないもないにゃっ!」

 ジャンプしたポチが、ぼこん! と肉球でクリートの頭をドツいた。

 そのそばでは、慌ててここにやってきたナデモがおろおろしている。

「どうするんですクリートさんっ。あなたなら、あのギョニクゾンビの弱点とか解るのでは?」

「って言われてもな。俺が直接創った訳じゃないし。そもそも、あいつの誕生のいきさつには、お前の商品管理の甘さがあると思うが。俺は取り扱い注意の危険物だと言ったはずだぞ」

ずばり言われて、ナデモは詰まってしまう。

 クリートは、ナデモからギョニクゾンビの方へと目を移す。

「だが、俺はあいつの材料を知っている。それでなくても、あんなゴミの寄せ集めみたいなゾンビの処理ぐらい……ふむ」

 にや、とクリートが笑って人差し指を立てた。

「こうしよう。俺は何も知らず、ただ正義感と天才的な実力でもってあいつを退治する。これだけの騒ぎを収めたとなれば、騎士団から金一封ぐらいは出るぞ」

「悪どいにゃ。そもそもこの事件は、違法な危険物の実験をしまくってた、アンタのせいなのにゃ。ばいお・はざーどにゃ」

「猫畜生は黙ってろ。そして商品管理の甘い店員さんにも黙っててもらう。いいな?」

「……はい」 

「よし、決まりだな。待ってろ、すぐにあいつを分解処理する薬品を作るから」

 クリートは研究所に戻っていった。

 ポチが、やれやれと呆れ果てる。その傍らではナデモが、少し萎んだ顔で立っている。

「気にすることないにゃ。アンタのせいじゃないにゃ。アイツの非常識な研究のせいにゃ」

 言ってから、ポチは気付いた。アンタのせいじゃないという慰めは、これで本日二人目である。そのどちらもクリート絡み、クリートのクローン・ホムンクルス製造絡みだ。

「ったく、これだからケダモノは。自分の欲望の為に、周囲に騒動と迷惑を振りまいてるにゃ」

 とポチが溜息をついたところで、

「ご主人様ああああああああぁぁぁぁっ!」

 遥か彼方からクリーティアが駆けて来た。研究所前でポチとナデモを見かけるや、土煙を上げながら急停止して、ナデモに向かってぺこりと一礼する。

「こんにちは、店員さん。先程はお構いもできませんで」

「は、はあ。どうも」

 それからクリーティアはポチの方に向き直って、

「ポチさん、ご主人様は今どこにおられますか⁉ ご無事ですかっ⁉」 

「ご無事で研究所にいるにゃ。でもアンタ、何をそんなに焦ってるにゃ」

 クリーティアは、口を動かすのももどかしいような慌てっぷりで答える。

「ギョニクゾンビとかいうバケモノが、ここに迫ってるんですっ! ご主人様を追いかけ……」

 と言いながら周囲を見渡したクリーティアの目に、そのギョニクソンビが映った。

街の人々を、次から次へと焼き魚に変えている、巨大なバケモノ。非常識な怪獣。

「あ、あれですね! よぉし、ご主人様に危害を及ぼす前に、僕が退治します!」

 クリーティアはポチたちに背を向け、街中で暴れるギョニクゾンビへと向かっていく。

「ま、待つにゃ、こらっ! アンタが行ったって、どうにかできる相手じゃないにゃ!」

 とか言ってる間に、クリーティアは行ってしまった。その小さな体に、愛と使命感を熱く燃え上がらせて。全身から湯気さえ立てているように見えた。

「あぁもうっ。アイツにヒドいこと言われて家出したと思ったら、今度はアイツを護る為にって暴走してるにゃ。ケダモノもケダモノだけど、あの子もあの子にゃっ」

「私が行きましょう。元々、あのギョニクゾンビは私を追ってきたのですし。ポチさんはクリートさんの薬品が完成し次第、届けに来て下さい。それまでは何とか持ち堪えてみます」

「う~……解ったにゃ。あの子のこと頼むにゃ。けど、無理しちゃダメにゃ」

ナデモは頷くと、クリーティアを追って駆け出した。


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