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プリンセス☆ボーイ  作者: 川口大介
第一章 清楚なお姫様は可憐な美少年(泣)
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 がらがらがらがらと音を立てて、隣町へと続く山道を、二台のリヤカーが並んで進んでいく。

 塩漬けにした海産物を山積みにしているリヤカーと、怪しい本やら怪しい薬品やらの怪しい魔術用品をごちゃごちゃ乗せているリヤカー。前者を引いているのは捻じりハチマキを締めた魚屋の兄ちゃん、後者は何でも屋の黒ずくめ店員、ナデモである。

 二人は、隣町へ商売に行く途中でよくこの道を一緒に通っている。のだが、今日は少し様子が違っていた。

「てやんでいっ、ばーろいちくしょうっ」

「はあ。そんなことがあったんですか」

 いつもならムダに威勢のいい魚屋の兄ちゃんが、今日はぐしぐし泣いている。

 実はこの兄ちゃん、長年思いを寄せていた女の子に先日告白して、手ひどくフラれてしまったのだ。只今、失恋で傷心でブロークンハートの真っ最中なのである。

「弄ばれてたんだよ、俺は。ははっ、笑ってくれ。俺ぁ、金輪際もう二度と……もう二度と、恋なんかしない! 女の子なんか、女の子なんか、大っっ嫌いだああぁぁ!」

「まあまあ。今は辛いでしょうけど、女の子っていうのは、男の子と同じくらいの数はいるんですから。ここは前向きに、また新たな恋を見つけるということで。ね? 魚屋さん」

「い~や! 俺はもう二度と、女の子なんか信じないって決めたんだっっ!」

 と吼えまくる魚屋の頭上から、声が降って来た。

「魚屋に雑貨屋。大した金はなさそうだが」

「危険ハラハラな財宝よりも、安全ゲヘゲヘな小銭を狙う。それが俺たち二人」

「そういうことだな、二号!」

「ではいくぞ一号、とうっ!」 

 スタッ、と二人の男が木から降り立った。魚屋とナデモを挟んで立つ。

 追い剥ぎの教科書イラストに使えそうな装いの二人。ザ・チンピラーズである。

「という訳で、現在の所持金を残らず俺たちに提出してもらおうか!」

「大人しく提出した方が、総合的な被害は小さくなると助言しておいてやるぞ!」

 二人が腰の剣を抜いた。魚屋は震えて青ざめている。

 が、隣にいるナデモは平然としている。

「やれやれ。最近は、ここいらも物騒になったものですね」

 ナデモの態度に、チンピラーズはちょっとムッとした。が同時に、危険を察知した。

 もしかしてコイツ、ただの怪しい奴と見せかけておいて実は強いってパターンか? と。

「魚屋さん。ちょっと待ってて下さい。すぐに片付けますから」

 ナデモは、よっこらしょっとリヤカーの(ながえ)を跨いで外に出た。チンピラーズの二人を見て、ふふんと鼻を鳴らす。そして、静かに右手を持ち上げた。そこに強い魔力が集中していく。

「!」 

 チンピラーズは瞬時に事態を察し、対抗策に出た。どこからともなく一号が白い箱を取り出して、二号は揉み手をしてニコニコ笑い出す。

「いや~、ダンナにはかないませんぜ、ほんとほんと! なぁ一号!」

「ええ全く! これ、心ばかりのお詫びの品です! じゃ、そゆことで! さいなら~!」

 一号が、箱をむりやりナデモの左手に押し付ける。思わずナデモが受け取った、と思ったら、二人は目にも止まらぬ速さで疾走して逃走して消え失せてしまう。

 ナデモは右手の、高めた魔力のやり場に困っていた。

「な、な、何ですかこの展開。あの二人、もしかして、私のことバカにしてる?」

「いや、恐れを為したように見えたけど」

「それにしたって、こんな……ああもう、私の見せ場だったのに」

 ナデモはブツブツ言いながら、何をくれやがったのかと箱を開けてみた。  

 開けてみると、中には黒い球が入っていた。ごく短い縄が生えていて、その縄には火が着いていて、バチバチと音を立てながら短くなっていて、

「え? ちょっと待って、これ、いつの間に火をつけ」

 ナデモが疑問を言い終えるより早く、球が爆発! 閃光が炸裂し爆炎が爆風に乗って荒れ狂い、ナデモと魚屋と二台のリヤカーとその積荷を、強烈な熱波が吹き飛ばした。

「ぁぐっ……!」

 高く打ち上げられたナデモは、高い高い木の幹に叩きつけられて失神、そのまま後ろ襟が枝に引っかかってぶら下がる。

 魚屋は少し距離があったのが却って災いし、リヤカー二台分の荷物の雪崩を受け、その場に生き埋めとなる。

 そこに、犯人たるチンピラーズが高笑いしながら悠々と戻ってきた。

「は~っはっはっ! こういう山奥で絡んできたチンピラをカッコ良く撃退する、一見弱そうな天才魔術師、ってか? そんなの、百戦錬磨の俺たちには通じねえ!」

「常にあらゆるパターンを想定してそれに備える! それが俺たちザ・チンピラーズ!」

 ナデモは高い枝に吊り下げられたまま、ぴくりとも動かない。

 魚屋も荷物の山の下から動かず出て来ず、こちらも気を失っているらしい。海産物と、得体の知れない魔術用品で築かれた山。それは先程の爆炎であちこち焼け焦げており、ぷすぷすと煙を上げている。

 チンピラーズは考えた。まずはこの山を掘り起こそう。そして売れそうな品は頂戴して、魚屋の持ち金も巻き上げる。失神しているナデモが目を覚ますまでが勝負だ。

 では早速、と二人が荷物の山に挑みかかろうとしたその時。

 突然、荷物の山が崩れた。そして中から謎の生物……というか謎の物体が出現し、立ち上がった。そして咆哮!

「ギョオオオオォォッ!」

 それは辛うじて人の形をしている、人にしてはかなりの巨漢と言える大きさの、魚のカタマリだった。魚の後半身をおよそ二百匹分、グチャグチャにして人型に固めて、前半身は四方八方を向いて突き出されている。というか生えている。 

 何とも奇怪な魚の塊、人間っぽい形のバケモノだ。胸の中央には、ぽつんと魚屋の顔があるが、その視線は虚ろでどこも見ていない。

 だがその瞳には、何かに憑かれているかのように、異様なギラギラを宿している。

「俺は……もう二度と、女の子なんか信じない……女の子なんか大嫌いだ……女の子なんか、女の子なんか……女の子なんかっっ!」

 胸の魚屋の目が、そして全身の魚たち(推定二百匹)の全ての目が、背面の目はわざわざカタツムリのようにグニョリと伸びて、一斉にチンピラーズを見た。

「ちょ、ちょ、ちょっと待て。その、あれだ。あ~、オレタチ、オトコノコ、ワカル?」

「そ、そうそう。ナンカ、シランガ、オマエノ、ウラミノ、タイショウガイ、オーケイ?」

「……お前ら。俺がフラれたことを、バカにしてるだろ。あざ笑ってるだろ」

 魚屋の顔が怒りに染まってきた。

「女の子も許せんが、お前ら……お前らも、許せん。フラれた俺をバカにした、失恋した俺を笑いものにした、お前らも……お前らもおおおおぉぉっ!」

 魚の塊が、怒りを込めて吼えた。 

 と、その時。上空から人影が舞い降り立った。チンピラーズを背に庇う体勢で、魚の塊を見据える。黒メガネに黒装束。枝に引っかかって失神していたナデモである。

「! あ、あんた、もしかして俺たちを助けに来てくれたのか?」

「そんなつもりは毛ほどもないんですけどね。でも、こいつを放っておいたら大変なことになりそうなんで。仕方なく」

「大変なこと、って。それじゃこいつが一体何なのか、知ってるのか?」

「知りゃしませんよ、こんなの。でもここに至った経緯を考えれば、推測はできます」

 と言いながら、ナデモは右手に魔力を集中させた。その魔力が炎に変わっていく。

 そうしながらナデモは、冷静に目の前のバケモノを観察し分析した。

「どうやらこいつは、変種のゾンビのようです。魚屋さんの恨み憎しみを核に、魚たちの死肉を材料として構成された、いわばギョニクゾンビ。常識ではこんなの考えられませんけど……」

 ナデモは、ちらりとギョニクゾンビの背後を見た。二台のリヤカーが爆破され、崩れて積み上げられた荷物の山。その中から、幾筋もの色とりどりの煙が上がっている。

 おそらくクリートから買い取ったアヤしい薬品や廃棄物が混ざり、加熱され、魚肉と結合し、そこに魚屋の怨念が加わって、なんかよーわからん化学変化で魔術変化で、前代未聞のギョニクゾンビが誕生した。というところだろう。

「クリートさん、アナタは一体どんな奇怪な実験をしてたんですかっっ」

 ナデモはぶつぶつ言いながら、右手に発生した炎をギョニクゾンビに向けて構えた。敵を爆破する炎の魔術、【爆発するファイヤー】だ。

 すると、ギョニクゾンビがそれに応じて、

「ふん、やる気か! ならば見よ、俺の呪いの力! 名付けてギョギョ・ビィム!」

 大きく開かれた魚屋の口から、青い光線が放たれた。ナデモは真正面から光線ごと爆破しようとしたが、

『これは……何か、違う!』

 咄嗟に攻撃をやめて、横に転がった。青い光線は一瞬前までナデモがいた空間を通り過ぎ、

「ぅぎああぁぁっ!」

 その後ろにいた、チンピラーズ一号を直撃した。炎のような、だが炎ではない青い光にまとわりつかれて、一号が悶え苦しむ。苦しんで苦しんでのた打ち回り、突然ぼむ! と音がして煙に包まれた。と、一号の姿は消えてなくなって、

「えっ?」

 ナデモは我が目を疑った。一号の代わりにそこにあるのは、お皿に乗った焼き魚だったのだ。

 ほどよく脂が乗って、皮のテカリも美しく、立ち上る湯気は何とも食欲をそそる香りで。

「あぁ一号! なんて美味しそうな姿に……じゃなくて、何なんだこれは⁉」

「し、知りませんよ。クリートさんに聞いて下さい」

 ナデモが戦慄する。どうやらこのビィムは、当たったものを焼き魚に変えてしまうらしい。


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