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プリンセス☆ボーイ  作者: 川口大介
第五章 プリンセスなボーイは伝説の戦士!
37/38

 ズバリ言い切られたバイオスが、奇声をあげてクリートに襲いかかる。すると踏み込んだ足が着地する寸前、後ろから滑り込んできた者に踵を蹴り飛ばされ、体重が行き場を失い転倒! あまりにもスムーズに倒れたので受け身もとれず、見事に後頭部を打ち付けた。

 意識を乱されながら体を起こし振り向くと、黒い僧衣の尼僧、エイユンが身構えていた。

「力は上がったようだが、心が乱れているな。私の拳や脚でお前を叩いても傷はつけられないだろうが、技をもって抗することはできる!」

「ヌ、ヌ、ヌヌウウウウゥゥッ!」

 目を血走らせたバイオスがエイユンに向かって立ち上がると、その目の端に火の玉が命中し爆発。大したダメージではないが、それを放ったのは白猫を抱いて走り回る雑貨屋店員で……

「ゥガアアアアァァッ!」 

 荒れ狂うバイオスを、エイユンとナデモが霍乱する。 

 その間に、クリートがクリーティアに駆け寄った。

『冷静に考えて、今ここであのバイオスを倒すのは不可能だ。一旦退却して無敵ロッドを研究して改良して、それでクリーティア(というかスパクリ)をパワーアップさせるしか……』

 だがクリーティアが既に再起不能となっていたら、もう打つ手はない。祈る思いでクリートは、バイオスが拳で掘ったデコボコのクレーターを滑り降りた。

 その中央、最深部で半ば土に埋もれていたクリーティアを、クリートが引きずり出す。

「……ぅ……」

「しっかりしろ、クリーティア! 俺だ、クリートだ! お前のご主人様だ!」

 クリーティアを抱き上げ、必死に呼びかけるクリート。無敵ロッドを庇うように抱き締めているクリーティアは、もう全身のゴルドテクターを半分以上砕かれていた。青い痣と赤い傷との間に、泥まみれの素肌が見えるような状態だ。

 その素肌は、クリートにとっては見間違えようもなく紛れもなく、少女のもの。クリートが、そしてクリーティア自身も生まれた直後から、身も心も焦がれるほどに求め続けたものだ。

「やっと、ようやく、お前の美少女化が実現したんじゃないかっ! この体なら、あんなこともこんなことも、いくらでもできるんだぞ!」

「この状況でそれを言うかにゃああぁぁっ!」 

 走り回るナデモの腕の中からポチが突っ込む。

 だがクリートは止まらない。

「毎晩毎朝毎昼毎夕、笑顔のお前に「ご奉仕します♡」ってして貰うこと、それだけを夢見て俺は生きてきたんだ! それが叶う目前まで来てるんだ! 目を開けてくれ、立ち上がってくれクリーティア!」 

「ケダモノっっ! いくら何でも、もうちょっとこう、話題を選べにゃっ!」

 その時。

「……ご奉仕……」

 クリーティアの唇が微かに動いた。

 クリーティアの指が無敵ロッドを握った。

 クリーティアの思考が、動き出した。

『そうだ……やっと僕は、女の子になれたんだ……ご主人様に……ちゃんと抱き締めてもらえる……ご奉仕できる女の子に……死にたくない……ご主人様と一緒に、生きたい……生きたい、生きる、生きるんだっっ!』

 クリーティアの目が開いた、と同時に無敵ロッドが今までで一番の光を放ち輝き出した。

 突然出現したその眩しさに、バイオスが思わず攻撃を止め、一歩二歩と後ずさる。クリートに抱きかかえられていたクリーティアが、無敵ロッドを構えながらゆっくりと立ち上がった。

 ゴルドテクターを砕かれ、傷だらけ痣だらけなのは相変わらずだか、その目には無敵ロッドにも劣らぬ輝きを宿している。

「ク、クリーティア……大丈夫なのか?」

「はい。今、ご主人様が力を下さいました」

 それを聞いて、ピクリとバイオスが反応する。

「こ、こら。待て。おい」

「何ですか?」

「ま、まさか、お前。む、無敵ロッドまで、巻き込んで、愛の力で、き、奇跡のパワーアップ、とか、言わないだろうな?」

 バイオスの額に青筋が浮かび、ぴくぴくしている。

 どうやらよほど許せないようだ。愛で奇跡でパワーアップ、というのが。

「お、俺は、魔力で強くなる素材で、できてる体で、この国、いや大陸中の、魔力を、吸い集めたから、強い。その俺と戦うのに、愛とか奇跡とか、そんな、あやふやなもの、認めんぞ」

「あやふやなもの? じゃあ聞きますけど」

 光り輝く無敵ロッドを、ぴっ! とバイオスに向けて、クリーティアは言った。

「魔力とか魔術とか、一体何なんです。いきなり炎や稲妻が出たり、金属の硬さが増したり、どうしてそうなるんです。理解できません。そんなあやふやなもの、僕は認めませんよ」

「なっ……お、お前、そんなこと、今更、」

「それに比べて、僕の方は極めて現実的です。あなたが吸い集めたっていう魔力なんかより、ずっと。ここにある、確かなものです」

 クリーティアは、両手で無敵ロッドの中央を持って水平に、目の高さに構えた。

「ですよね、無敵ロッドさん? ご主人様がくれた、魔術なんかよりもっともっと、魔術みたいで強いチカラ」

《はぁい……その通りでぇす……今なら、できます。充分に……伝わってきます……》

「じゃあ、いきますよ」

《了解でぇす……》

 クリーティアは目を閉じ、息を大きく吸い込んだ。

 そして、無敵ロッドを握ったその指にしっかりと力を込めて、それと同じぐらいに力強く瞼を上げて目を開き、眼前に立つバイオスを見上げ睨みつけ、叫んだ!

「ご主人様分、補給完了っっ!」

《エ……エネルギー充填、120%! 最終機能発動……します、でぇぇす!》

 無敵ロッドを包む輝きが、両端へと集まっていく。溢れ出したそれは凝縮され、横方向へと伸びる蝋燭の炎のような形をとった。

 固まったようで固まっていない、熱く眩しい光の炎、いや光の刃。

《オーラブレード、でぇす! 異物混じりの貴方に、できるかどうか……実は不安でしたっ》

「逆です。シンクリさんが協力してくれたからこそ、ですよ」

「で、け、結局、愛の奇跡、ってわけかコラアアアアァァッ!」

 激怒したバイオスが、憤激の拳を振り下ろす。

 だがクリーティアは恐れず乱れず、無敵ロッド――オーラブレードを振り上げた。すると、

「グワアアァァウッ⁉」

 バイオスの右手首から先が斬り飛ばされた。

 クリーティアの頭部より遥かに巨大な拳が、宙を舞いながら弛緩して、五指を開いたところで地に落ちる。

 それを見ようともせず、静かにオーラブレードを構えなおすクリーティア。それを見たバイオスは初めて、クリーティアに恐れを抱いた。

「お、お前っ。い、イ、イッタイ、ナニッッ」

「僕は、ご主人様によって創られた者。ネオ・ヒューマンだか何だか知らないけど、そんなの関係ない。僕はただのクリー……」

「ゥ、ゥガ、アゥガァオオオオォォッ!」

「……ティア、じゃない。僕は、」

 体内の魔力を暴走させ、バイオスは口から炎を吐き出した。クリートの焼き貫くレーザー、二重バージョンに匹敵する魔力を帯びたその炎を、クリーティアはまっすぐに見返して、

「シンクリさんと二人で一人。僕はスーパークリーティア、略してスパクリだああぁぁっ!」

 飛び立つ鳥のように、ジャンプ! 肩に担ぎ持った無敵ロッドで、バイオスの吐き出した炎を断ち割り一直線に眉間へと――

「アゴオオオオォォウウアアアアァァッッ!」

 突き刺す! 光のオーラブレードが、バイオスの鋼のような皮を破り、岩のような頭蓋を砕き、そして溶岩のような脳髄へと達した。この地上の何よりも熱く硬く鋭く強い刃が、全世界史上最悪最凶の超生物の生体装甲を貫いた瞬間である。

 真上を向いて、虚ろな顔で、下顎をゆらゆらさせながら、よろめくバイオス。無敵ロッドを握り、眉間に押し込んだ格好でその顔面に立つクリーティアと、目が合った。

「なゼ……ダ? ナぜ、俺、負ケ……た?」

「あなたにはなかったチカラ、僕にはあったチカラ。【ご主人様分】ですよ」

「な、ナ、なんナンだ、ソレ、は、どういう、エネルギー、ドウイウ、ぱわー、どういう……チカラ?」

 クリーティアは、首を振って答える。

「確かなことは解りません。僕のご主人様にも、あなたのご主人様にも、おそらく解析できないもの。太古の秘法、最新の技術、どちらをもってしても製造できないと思います」

「な、ならバ、なゼそんナもの、お前が……」

 バイオスの瞳から、猛々しく燃え盛っていた暴意の炎が消えていく。弱々しくなっていく。

 その瞳に、少し哀しげな視線を返しながら、クリーティアは無敵ロッドを引き抜いた。  

「僕はご主人様に愛される為に創られ、僕もご主人様を愛した。だからこのチカラを、ご主人様分を受け取ることができた。それだけです」

「……納得、できン。もし……生まれ変ワッタら。転生トカいうの、したラ。俺が……解析して、製造シテ、装備して……必ず、ズ、ずズ」

 バイオスの全身が震えだした。クリーティアが慌てて跳び下り、

「ご主人様っ! みなさん、伏せて!」

 クリートを押し倒して地に伏した。エイユンと、ポチを抱いたナデモもそれに続く。直後、

「ガアアァァウゥオオオオォォッ!」

 バイオスが咆哮、眉間の傷口から体液と光りを溢れさせ……爆発!

 全身に満ち満ちていた魔力が燃料となり、巨大な火柱が天空を貫いた。巻き起こった爆風は一面の雲を吹き飛ばす。

 数瞬後、顔を上げたクリートは見た。

 かの【大戦争】当時、世界中の全人類を相手取って戦ったネオ・ヒューマン。それを上回る強さを得たバイオスが、跡形なく四散した様を。絶対的な脅威が去った、澄みきった大空を。

 そして、

『やった……やったんだな……お前が』 

 大戦争を越える戦禍から人々を護った英雄、その美しい少女は今、力を使い果たしたのかぐったりした様子で、けれど安らかな顔を見せて、クリートの腕の中にいる。

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