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プリンセス☆ボーイ  作者: 川口大介
第五章 プリンセスなボーイは伝説の戦士!
36/38

 クリートが、真っ白な顔で立っていた。両腕を大きく広げて薄い光の壁を作り出している。魔力の盾だが、それも蝋燭の炎のように揺らいで、バイオスの方に吸われ削り取られていく。削られた分をクリートはどんどん補充して、それをどんどん吸い取られて。

そのクリートの背に手を当てて、エイユンが気光でクリートの回復を試みている。が、体力と魔力は無関係ではないがイコールではない。

 二人がどんどん消耗していくそのまた後ろで、ポチを抱いたナデモは失神寸前の体で両膝をついている。

「ご、ご主人様!」

「魔力を吸って強化された体を土台にして、新しい吸入口を創り、また魔力を吸って……か。あいつ多分、今はもう、国中の……いや、大陸中の全生物から魔力を吸い集めてる……」

 と言っているクリートの、顔全体に浮かぶ汗の粒が冷たい。魔力を失いすぎて、身体機能が狂い始めているのだ。

「無敵ロッドさん、絶対防御シールドを!」

《は、はぁい! 絶対ぼ……》

「ゼッタイ防御シイイィィルド!」

 クリーティアの背後から壊れたような声がして、光のドームがクリートたちを包んだ。突然出現したその光にクリーティアと無敵ロッドは突き飛ばされる。

「グッグッ。心配せずとも、もう、満腹だ。魔力は、吸わぬ。その上、こうして、そいつらを隔離、しといてやる。安心して、殺されろ」

 背後から呼びかけられたクリーティアが振り向くと、そこにバイオスがいた。その肉体は肥大化どころか巨大化しており、二階建ての家ぐらいはある大きさだ。

 全身を覆う分厚い筋肉は硬質化し、魔力吸入口は閉じてその跡が鱗のようになっている。本来の、顔にある口は耳まで避けて、その中には強化された歯が長い牙となって並んでいる。端正だった容貌は見る影もなく変わり果て、汚れ濁り切った瞳の色からは本人が言っていた通り、理性の潰れた残骸が見える。

 魔獣と化したバイオスが、大地を踏みしめてクリーテイアに迫る。

「ググ……い、意外、だった。まだ、残ってる、オレの、意識……グッグッグッグッ、殺してやる。殺してやるぞ、欠陥品。その後で、ゆっくりと、あいつら。そして、全人類」

 再度クリーティアが振り向くと、バイオスの張った絶対防御シールドの中に、クリートたちが閉じ込められている。全員意識はあるようだが、弱りきっているのは一目瞭然だ。

 だが弱っていなくとも、あのシールドは魔術を無力化してしまうのだ。単純な力で潰すしかないが、激怒したバイオスが長時間かけてやっと何とかなるというもの。クリートやエイユンではどうしようもないだろう。

「……無敵ロッドさん」

《は、はぁい。ままままさか、ネオ・ヒューマンが絶対防御シールドを張れるなんてっ》

「ググ。当然だ。この史上最強たる、バイオス様の製造者、ゾレクタンの、知識と技術を奪った、ネオ・ヒューマンだぞ。この程度の、シールドを、見て真似ることなど、造作もない」

 これでもう、クリートたちは何も手出しできないだろう。正真正銘の一対一だ。

 クリーティアは今、無敵ロッドのおかげで「大戦争当時にネオ・ヒューマンを倒したクローン」の力を手に入れている。大戦争当時のネオ・ヒューマンになら勝てるだろう。

 だが。

「グッグッグッグッ。忘れては、いまいな? このオレの、体には、魔力を吸収することで、強化される、最新の、素材が、使われて、いると! だから、こ、こうだっっ!」

 巨大なバイオスの巨大な拳が、隕石のように振り下ろされてきた。その生じる風圧が上から押し付けるようにクリーティアを捕らえ、足を止める。

 動きの鈍ったクリーティアはかわせないと判断、無敵ロッドを両手で支えて盾がわりにする。

 だが抗しきれず、無敵ロッドを叩いたバイオスの拳はそのまま、無敵ロッドごとクリーティアを打ち潰した。

「……ぁぐっ……!」

 虫のように叩きつけられ、地面に打ち込まれるクリーティア。間髪入れずバイオスの、猛牛の突進のような蹴り足が周りの土ごとクリーティアを蹴り上げた。

 上から下から、雪崩か台風かという圧倒的な力でクリーティアは翻弄される。充分に滞空してから、受け身も取れずに落下した。

「グッグッ。ど、どうだ。骨や歯だけではない、筋肉繊維も、同様、だからな。力も、硬度も、完璧だ。ちょっと、いろいろ、膨張しすぎて、脳や心臓が圧迫、されてるが、そんなの、問題には、ならん」

 勝ち誇ったバイオスが、クリーティアを見下ろす。クリーティアは無敵ロッドを杖にして、何とか立ち上がろうとするのだが、

《は、はぁい……ワタシ……ちょっとあぶな……い……かも……》

「? 無敵ロッドさん、どうし……あっ!」 

 僅かにではあるが、無敵ロッドが曲がっていた。バイオスの今の一撃を受けた部分が、凹んで歪んでいる。

 大戦争当時、ネオ・ヒューマンの攻撃を受け止め、そして打ち倒したはずのこの武器が。

《い……いまの内に……ワタシ……の最ごの……機能を……》

「え?」

《大戦争のとう時……ネオ・ヒューマンを倒したのは……ネオ・ヒューマンのクローン……》

「で、でも、今のバイオスは当時のネオ・ヒューマンより強くて」

《同じでぇす……当時のにも、バイオスにも、ないもの……彼らはうしなったもの……でもアナタにはあるもの……ま術よりも魔じゅつみたいな、チカラ……アナタはもう、知ってる……》

「? チカラ、って」

「グアアアアアアアアァァァァッ!」

 怒涛のような咆哮と共に、バイオスが踏み込んできた。そしてまた隕石のような、いや流星群のような拳の雨をクリーティアに降らせる。

 クリーティアは咄嗟に無敵ロッドで防ごうとして、だが今の無敵ロッドの状態を思い出してやめた。代わりに自身の両腕両脚で全身をガードしようと試みるが、

「シネシネシネシネシネシネエエェェッ!」

 クリーティアの気持ちも虚しく、クリーティアの全身もろとも無敵ロッドも破壊の豪雨を浴びた。比喩ではなく本当に大地を揺るがし地響きを起こす拳が、何発、十何発、何十発と打ち込まれていく。

 シンクリと融合し、無敵ロッドに真の力を解放させられたクリーティアといえども、防ぎきれるものではない。

「グッグッグッグッ! 勝負、ありだな! こ、この、この、できそこない、欠陥品めが!」

 喜色満面のバイオスが、拳を大きく後ろに引いた。そして渾身の一撃を繰り出す!

「こ、これで、トドメ、だ……クタバレエエエエエエエエェェェェッ!」

 轟音! バイオスは胸に受けた衝撃の大きさによろめき、倒れそうになりながら後ずさった。その胸には黒い大きな焦げ跡があり、幾筋もの煙が立ち昇っている。

「? これ、は……何っ? ばば馬鹿なッ!」

 驚愕に目を見開いたバイオスの、真正面にクリートが立っていた。

 息を乱してはいるが力強く突き出された両掌に、薄く紅い光の残像が見える。焼き貫くレーザーを放った直後らしい。つまり今の一撃は、

「な、な、何だ、何なんだ、オイ! どういう、ことだッ! お前は絶対防御シールドで……」

「……今から五百、いや六百年ほど前だ。イテ・スーヘーシイという魔術師が、絶対防御シールドの構造的欠陥について発見。十年以上に及ぶ研究の末、破る術を開発した」

「な、何だと? し、知らんぞ、そんな話! ゾレクタン、から奪った、記憶の中には、」

「当然だ。六百年も前に破られ方を発見された術だぞ。予防法が普及して根絶された疫病と同じだ。薬も病気も忘れ去られてる。そんな術を知っているのは、ゾレクタン如きではなく、」

 クリートは、血の気の無い顔に冷たい汗を浮かべながらも、ドン! と胸を叩いて、

「世界中を駆け回って各種激レア資料を集めまくった、大天才最頂点魔術師たる、この俺ぐらいのものだ!」

「グ、ググッ」

「教えてやろう。何でもかんでも大戦争当時が最高最強とは限らないんだぜ。覚えとけ!」

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