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「僕がこうして出て来る時、すれ違いざま感じました。シンクリさんは何だかんだいって僕を信じ、僕に託してくれた。だから、僕だけのものじゃない。これは二人の体、二人の力です」
と語るクリーティアの顔が、何だか紅潮している。口調も熱っぽい。
「僕と、シンクリさんとが一つになって得たこの力。そう、今の僕はクリーティアでもシンクリでもない。スーパークリーティア、略してスパクリっ!」
びっ、と無敵ロッドを構えつつクリーティア、自称スパクリが言う。
クリートが、ぽつりと呟いた。
「一つになった、つーか混じってるみたいだなどうやら。どうだヘルプ機能」
《精神スキャンをやり直しまぁす……あっ、微かに異物も残ってますね。けど肉体のコントロールはもう渡しません。一度こうなった以上、もうワタシが抑えていられまぁす》
「おぉ、本当か! じゃあクリーティアはもうずっと、このままで」
とクリートが事態を弁えず狂喜したと同時に、轟音と共に光の破片が辺りに舞い散った。
その向こうに、息を切らして憤怒の形相を浮かべているバイオスがいる。
「はあっ、はあっ、ま、待たせたな……今すぐ、全員切り刻んで叩き壊して磨り潰して……」
「そうはさせませんっ!」
バイオスの前に、黄金の武装天使となった美少女クリーティア(自称スパクリ)が進み出た。
「仰る通り、お待たせしましたね。けど、これで終わりです。あなたは今すぐ僕が倒します」
「ほざくな! まず、その口から引き裂いてくれる!」
クリーティアの言葉に激昂したバイオスが、魔力吸収で硬質化した爪を振り上げて襲いかかってきた。怒りが筋力を後押しし、バイオスにとって限界速度といえる踏み込みを実現させる。もはやクリートやエイユンの瞳には、バイオスの移動する姿は映らなかった。
が、その一撃をクリーティアは完全に見切り、かわしながら、無敵ロッドを水平に振ってバイオスの胸に叩き込んだ。
完全なカウンターとなったその一撃を、力任せにクリーティアは振り抜く。たまらずバイオスは、真後ろに吹っ飛んだ。
「がは……っ? バ、バカな!」
何とか空中で体勢を整えて着地、したと思ったらそこにもうクリーティアが来ており、無敵ロッドで地を掃くような足払い。バイオスは見事に転倒した。
背中から着地してしまったバイオスに、すかさず無敵ロッドが上から振り下ろされる。切断してやる! とバイオスは立ち上がりざま爪を突き出したが、火花が散ってそれまで。爪の先端とロッドがぶつかったままピタリと止まっている。
「何っ? な、なぜ切れない?」
《はぁい! 全機能開放により、ワタシの硬度も上昇したからでぇす! アナタの爪や歯も硬そうですけど、今のワタシとなら互角! そして……》
「えいっ!」
クリーティアが無敵ロッドを回転させ、バイオスの力を流しつつバイオスの腹に一撃! 強烈に打ち込んだ。
「ぐふおぅっ!」
《ま、普通の人間でも、自分の骨と同じ硬さの棍棒で殴られたら、そりゃ痛いでぇす》
バイオスは地面を転がってクリーティアから距離を取り、再び立ち上がった。その額には、じわりと脂汗が浮かんでいる。
クリーティアは無敵ロッドをピタリと構えて、言い放った。
「勝負ありです。今までのことを謝罪し、皆と仲良く暮らすというのであれば、僕はもうこれ以上、あなたを攻撃しません」
その、凛々しく優しく強く美しい姿と声に、クリーティアの後ろでは大騒ぎ。
「み、見たか聞いたかクリート。クリーティアの、眩いばかりの雄姿を」
「あぁ。さすが俺の創ったクローン。さすが俺の女神」
「ぐっ。め、女神か」
「尼さん、しっかりするにゃ。まだ元に戻らないと決まったわけじゃないにゃ」
「……ああ。そうだな」
「ねーちゃん、頷かないで欲しいんだけど。仮に何らかの障害があろうとも、俺はクリーティアの現状維持の為なら命を懸ける覚悟がある」
「あ、あの、皆さん。何だかまた、ちょっと危険っぽい感じになってますよっ」
とナデモが言ったので、一堂がバイオスの方を見る。
まだクリーティアに打たれた腹が痛むようだが、しかし不敵な笑みを浮かべつつある。
「……お前は、【大戦争当時にネオ・ヒューマンを倒したクローン】とやらを完全に再現したようだな。私は倒された側、ネオ・ヒューマンそのもの。となれば、どちらが強いかは明白」
「では、降伏して下さい」
「慌てるな。私の方はまだ、大戦争を再現しきっていない。そして更に、それ以上もあるとしたらどうだ?」
バイオスが、額のバンダナに手をかけた。
クリーティアは油断なく構えたまま訊ねる。
「どういう意味です」
「ゾレクタンが言っていただろう? ネオ・ヒューマンを再現し服従機能を植えつけたと。その機能のキーが、このバンダナでな。これを取れば、私は理性を失って暴走する。無論、ゾレクタンの存命時には外すことを禁じられていたが、今なら私自身の意思で外せるのだ」
一拍おいて、バイオスがバンダナを握り締めながら言う。
「今、話しているこの私は消えてなくなり、ただ人類を絶滅させる為だけに荒れ狂う存在となるだろう。こうしているだけでも……感じるぞ。このバンダナの下の、魔獣の存在をな」
「理性を失って荒れ狂えば強くなる、と?」
《ナンセンスでぇす! 厳しい訓練を積んだ軍人より街のケンカ屋の方が強いとか、非現実的でぇす!》
バイオスが、くくっと笑った。
「これもゾレクタンが言っていたことだが、私の体には大戦争以後に開発された、大戦争当時より強力な新素材も混じっている。それとネオ・ヒューマンの能力が合わさり、暴走するとどうなるか……」
その言葉に、反応したのはクリートだった。
「焼き貫くレーザーっ!」
クリートが右掌をバイオスに向けて、灼熱の紅い光が撃ち放った。するとバイオスも右掌を広げ、その光に向ける。バイオスの掌に口が開き、迫る熱閃を吸収しようとする。
が、文字通り光よりも速くクリーティアが踏み込み、無敵ロッドをその口に突き込んだ。そのまま思いっきりロッドを振り抜いて、バイオスの手に開いた口を裂き潰す。
バイオスはすかさず左手を上げた。その掌にも口が出現する。クリーティアはもう一度無敵ロッドを突き込もうとした。しかし、
「っ?」
クリートのレーザーはバイオスの額に吸い込まれて消えた。いつの間にやらバンダナが毟り取られており、額に口が開いているのだ。
いや、額だけではない。頬にも、手の甲にも。
「クククク……今こそ見せてやる! 地上最強、いや、大戦争時のネオ・ヒューマンを越えた、史上最強の存在を!」
とバイオスが叫んだのと同時に、バイオスに向かって強い突風……違う、バイオスが吸い込んでいるのだ。
その吸い込みのせいであろうか、バイオスの体がどんどん肥大化していく。武闘着が弾け飛び、中から現れた異様なまでの筋肉は傷だらけ……いや口だらけ。首、胸、腹、肩、腕、脇、体中を埋め尽くすように口が並び、開いて吸い込んでいる。
あの口が吸い込むものは魔力。掌だけの時とは比べものにならないこの吸引力は……と思い至ってクリーティアが振り向くと、
「……なるほど、確かに。こりゃ大戦争当時には無理だっただろうな」




