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プリンセス☆ボーイ  作者: 川口大介
第五章 プリンセスなボーイは伝説の戦士!
34/38

《いえ。魔術なら魔力をかき消せばそれまでなので、そう対処してまぁす。でも単純な物理的破壊力を消すなんて無理でぇす。こちらの想定を上回るほどの破壊力を何度もぶつけられ、シイイィィルドの耐久力を上回られれば、それまででぇす》

 それまで、と軽く言われてしまった。

 とかやってる間にも、バイオスにドカバキザクガブやられてるシールドのヒビは、どんどん広がっていく。ゾレクタンも、バイオス自身も言っていたが、バイオスの体は大戦争時代にはなかった素材が使われているらしい。その硬度がもたらす破壊力は、大戦争時代しか知らない無敵ロッドの想定を越えていても、おかしくない。

「じゃ、じゃから此方で我慢せいと言うておろうが! さっさと全機能発動せい!」

《ダメでぇす。あなたがあのネオ・ヒューマンを倒した後、ここにいるみなさんを惨殺する光景が容易に想像できまぁす》

「ぅ、ぐぐ。反論できんっ」

「しろ! 少しは!」

 クリートとエイユンとナデモが、一斉に突っ込む。

《とにかく、ワタシの機能は人間では使いこなせませぇん。当然、この凶悪なネオ・ヒューマンに使わせるわけにもいきませぇん》

「何としても、クリーティアに出てきて貰うしかないってことか。だがどうやって……」

「ケダモノ。一つだけ、手があるにゃ」

 ナデモに抱かれている重傷のポチが、手の代わりにしっぽを上げて言った。

「聞けにゃ。古来より、お姫様を目覚めさせるのは、王子様のキスと決まってるにゃ」

「っておい、まさか」

「そのまさかにゃ」

 ぴ、とポチのしっぽがクリートを指した。

「キスしろにゃ。クリーティアに」

 一同の空気が、ぴきっ、と凍った。

その中、ポチだけが喋り続ける。

「声が心に響かずとも、人肌の暖かさ、その人の匂い、そして唇の熱く柔らかな感触ならきっと伝わるにゃ。というわけでキスにゃ」

「じょ」

「じょ?」

「冗談を言うなっっ!」

 クリートの両脇から、エイユンとシンクリが同時に叫んだ。

「キ、キ、キキキキスと言えば、接吻のことであろうがっ! こやつの唇はすなわちクリーティアの唇、それを……」

「何故にこの、高貴なる此方が! こんな、こんな魔術師如きと!」

 叫ぶ吼える女性二人を置いといて、クリートはポチにコメントする。

「こんな状況でよくそういう発想が出るな、お前」

「ふ。メス猫の業の深さを侮るでないにゃ」

「意味深だなオイ」

「あの~、どちらさんも、そういう場合ではないようなのですけど」

 ナデモが恐る恐る、四人(三人と一匹)に声をかけつつ指差した。

 その先には、いよいよヒビが大きくなって、今にも破れそうな絶対防御シールドが。そしてその向こうには、怒り心頭に発して暴れ狂っているバイオスが。

「うぅぬううぅぅっ! よくも、こんな……待っていろ、欠陥品! クローンだか何だか知らんが、所詮お前はその魔術師に創られた、愛玩道具に過ぎんということを教えてくれる!」

 このままでは間もなく、堤防が決壊するかの如く、シールドを破られる。そして怒涛のようにバイオスが襲い掛かってくるだろう。

一同の顔に緊張が走る。特に、バイオスの殺意が集中的に向けられているシンクリは、圧されるように数歩後ずさった。

『くぅ……無念じゃが、確かに今の此方では……勝てぬ』

 シンクリの兵器としての本能、いや機能が、眼前に迫った危機の深刻さ、自分と敵との戦闘能力の差を、敏感に正確に分析している。

「ご覧の通りにゃ。一刻を争う事態なんにゃ。ほらクリート、さっさと目覚めのキスにゃ。あ、こらこら尼さん」

 クリートの前に立ちはだかろうとしたとしたエイユンを、ポチがしっぽで指して言う。

「こういうのは、王子様の役目だって相場が決まってるにゃ。悪いけど、尼僧の出る幕じゃないにゃ」

「し、しかし」

「それに、本当は尼さんも解ってるにゃ? 少なくとも今はまだ、アンタじゃダメなんにゃ。クリーティアを目覚めさせ、心の谷底から引っ張り出す役目は」

 と、言われて。

 エイユンは悲しげな顔をして、それからちょっと、無理矢理笑った。

「ふっ。その通りだな。……今はまだ、だ。そう、今は。だがいつかきっと……」

「んにゃ。いつかきっと、にゃ。さて、次はシンクリにゃ」

「……良い。他に策も思いつかぬしの」

「にゃ?」

 シンクリは、クリートの白衣の襟首を握り締め引き寄せた。

「先ほどはつい、取り乱してしもうたが。おそらくそれも、あの軟弱者の影響じゃろう。たかが粘膜の接触に、どれほどの意味があろうか。今のこれは、単なる戦略的行為」

「粘膜の接触? ムードのない言い方にゃ」

「何とでも言え。そうでも思わねばやっとれん。此方とて、もの思うところが絶無という訳ではないのじゃ。……粘膜の接触、について」

 え、と意外そうな顔をシンクリに向けるポチ、エイユン、ナデモ、そしてクリート。

 だがシンクリはもう意を決しているらしく、ためらう様子は見せない。クリートの顔が、シンクリに引っ張られて下方に向かう。

 そこには、仏頂面で唇を突き出しているシンクリがいる。今度はクリートが、慌てた。

「ちょ、ちょっと待て、おい」

「何じゃ。言うておくが、其方如きに拒否の権利があると思うでないぞ。此方のような、天女の如き美少女との接吻を」

「いや、だが、考えてみればこれはクリーティアの意思を無視して」 

 どすっ、とシンクリの拳が、クリートの水月(みぞおち)にめり込んだ。クリートの呼吸が止まり頬が青ざめ、その顔はまた一段と下に落ちる。

「言うておる場合か、たわけが。あの軟弱者のみならず、其方自身も含め、ここにおる全員の命がかかっておるのじゃぞ」

「……うっ」

「解ったか。では大人しくいたせ」

 シンクリの唇が、クリートの唇に近づく。シンクリの吐息と、クリートの吐息が絡み合う。

 シンクリは目を閉じた。クリートも、仕方なく目を閉じる。

『ゆ、許せクリーティア。俺もこんなの本意じゃないが……』

「やだああああぁぁぁぁっ!」

 甲高い悲鳴が響いた、と同時に突然クリートは突き飛ばされ、尻餅をつく。

 見上げてみると眼前には、

「こんなの、こんなの嫌ですっ! だって、ご主人様と初めての……なのに、こんなムードも何もないところで、しかもご主人様の方も何だか嫌々で、」

「ちょ、ちょっと待て。お前、もしかして」

 クリートは立ち上がって、目の前で泣き叫んでいる子をなだめにかかった。

 両肩に手を置いてみる。小さい。クリートの知っているクリーティアも華奢だったが、それよりもっと丸みがあり、か細い。

 だがこの子は、確かにクリーティアだ。髪はシンクリのまま、黒いままだが、まるで血のようだった紅い瞳が、碧に変わっている。

 しばし、じっと見つめあってから、クリートは視線を下に下ろした。

 破れ、結びつけられた上着の裾がある。そこが、ごく僅かだが内側から持ち上げられて影を作っている。

 重力に逆らって上着を持ち上げるもの。シンクリにはあったがクリーティアにはなかったもの。それは小さいながら確かな、胸のふくらみ。

「おおっ!」 

 クリートが、目を見開いてクリーティアの胸元を凝視したその時。

 クリーティアの手にある錆びだらけの棒が、突然眩しい光を発した。

 何事かとクリートが、クリーティアが、一同が棒を見る。いつの間にか、一筋だけだった光のひび割れが増えていた。十、二十、いやもっと多い、と見ている間に更に増え続け、やがてそれは棒全域を……

「肉体スキャン、おっけー! 精神スキャン、おっけー! お待たせしましたっ、無敵ロッドの真髄をば、お・見・せ・致します!」

 その声と同時に、目に見えない力が出現し膨張した。クリートたちが、クリーティアを中心にして全員思わず一歩、後ずさる。

「な、何なんだ? これが無敵ロッドの、本当の機能……?」 

 無敵ロッドが光の中で伸び、クリーティアの身長よりも少し長いぐらいになった。錆は完全に吹き飛びきって、緻密な装飾が施された黄金色の表面を露わにしている。もうこれは武器というより、美術館のメイン展示品。荘厳なまでの美しさである。

 更にその光は、クリーティアの体に巻きつき、実体化し硬質化していった。肩、肘、膝、脛、足、胸、と身体各所に装着されたそれらは、紛れもなく防具、プロテクターだ。

 黄金の無敵ロッドを持ち、黄金のプロテクターを纏い立つ、黒い髪と碧の眼をした少女。その様は、英雄伝説どころか神話の中から飛び出してきた、戦う天使の如し。

「ぅっ……僕、何だか……」

 クリーティアが突然、無敵ロッドを杖にしてよろめいた。一歩引いていたクリートが近づき、支える。

「ど、どうしたクリーティア? おいヘルプ機能、クリーティアに何をしたっ?」

「いえ、あの、違いますご主人様」

 クリーティアが、首を振った。

「僕の中から、凄い力が溢れ出てきてるんです。でも今度は前と違って、ちゃんと僕のものとして使いこなせる気が、いえ、確信があります」

《はい、当然でぇす!》

 今や眩い黄金の棍となった無敵ロッドから、ヘルプ機能の声がする。

《ワタシは、ただの鍵に過ぎません。アナタに秘められている力を引き出す鍵。このゴルドテクターも、あなたの体内のゼロンを物質化したものでぇす。全てはアナタ自身、世界中でアナタだけが持ってる力でぇす!》

「……いえ、違いますよヘルプ機能さん」

 クリーティアは、今度は無敵ロッドに向かって首を振った。


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