4話 大聖堂での儀式
ついに守護聖獣様との契約の儀式の日がやってきた。
守護聖獣様との契約は、大神殿の大聖堂で行われる。
大聖堂は普段は誰でも入れるように公開されているけれど、こういった儀式の時は神殿の敷地内に関係者以外が入ることすら禁止されるのだ。
人の少ない大聖堂は、天井は果てしなく高く、空気はひんやりとしていた。
どうやって取り付けたのか不明な高い位置にある天窓には、神話が描かれたステンドグラスがはめ込まれている。
創光神イルミナに、四人の英雄、それに付き従った聖獣たちに、最後に戦ったとされる竜。
差し込む光はステンドグラスを通過して、七色に輝いていた。
そして目の前にはコルベ王国の守護聖獣である、フェンリルの聖像。見事なエメラルのその聖像は、とても人の手で創り出したとは思えない精巧さだ。
今ここには最低限の関係者――私と四人の筆頭魔術師だけがいる。
聖像の目の前に私が立ち、その両側に筆頭魔術師が2人ずつ並んでから、しばらく経っていた。
あと一人、一番大切な関係者が来るのをまっているのだ。
大聖堂の扉が開いて、太陽のまぶしい光が差し込んだ。
最期の関係者、国王が現れたのだ。
ランスやグウェンさんの祖父に当たるその人のことを、私は今まで見たことがなかった。
似ているところがあるのだろうかと、逆光で見えにくいその顔を眺めていた。
でも国王ともう一人付き従う人物の顔が見えた瞬間、背筋に寒気が走った。
恐ろしく冷たい目。人間とは思えない。まるで人間のことをなんとも思っていない、捕食対象だと思っている魔獣のような目に感じたのだ。
70歳くらいのはずの国王はランスやグウェンさんとはちっとも似ていない。そのことにほっとしてしまった。
似た顔であんなに冷たい目を向けられたくなかった。
国王に付き従う50代くらいの男性は、多分聖者だ。
大神殿のものとはデザインが違う、緑色の聖衣を纏っている。王宮付きの聖者なのだろう。
今まで何十年とこの契約の儀式を行っていたという聖者は、もしかしたらこの人かもしれない。
だけどこの人が健在なら、なぜ今年は私が呼ばれたんだろう。
「始めなさい」
そう命令したのは、聖者らしき人物だった。
四人の筆頭魔術師たちがその人に頭を下げるのに合わせて、私も礼をすると、聖像のほうへ向き直った。
『光よ。天上の守護の導きをお与えください』
私が契約の儀式をすると決まってから守護聖獣の召喚呪文を習ったけど、例によって長くて無駄のある呪文だった。
そこでアンワース家の実家に伝わっていた召喚呪文が、全く同じ効果の呪文であることに気が付いたのだ。
このエメラルドの聖像は、恐らく大鹿様の時のように、フェンリル様と繋がっているはずだ。
聖像に力を流していくと、確かにその先にいる守護聖獣の気配を感じる。
だけどすぐには召喚に応じてくれない。
ジャックとオリーブ亭に薬草を盗み食いに来ていたのと、同じ気配だ。
あれからも何度か食べに来た形跡があった。
威嚇された時は怖かったけれど、薬草をあげると決めて以降、食べ跡を見つけると猫に餌付けしているような、なんともいえないくすぐったい親近感を抱いていた。
――早くおいでよ。でないともう薬草あげないわよ。
心の中でそんなことを考えていたら、慎重にこちらへと近づいてくる気配を感じた。
「どきなさい!」
「きゃっ」
もうすぐ守護聖獣様がでてきてくれそうだと思った瞬間、誰かに突き飛ばされてしまった。
大聖堂の床の、冷たい魔崗石に尻もちをつく。
一体誰がと見上げると、王様付きの聖者様だった。
『創光神イルミナよ。天を巡る御光の調べを呼び覚まし、我らが歩む道を照らし給え。聖なる守護を遣わしこの地に降ろしたまえ』
そして勝手に召喚の呪文を唱えてしまう。
――どうして!? この人はなにか事情があって、契約の儀式をできないのではなかったの!?
その瞬間、すぐそこまで来ていたフェンリルが、繋がりを切って去ってしまうのを感じる。
本能的に、このまま逃げたら守護聖獣様は二度とコルベ王国に現れなくなることが分かった。
神話の時代から常にこの国を守ってくれていた聖獣がいなくなってしまう。
まだわずかに残っている繋がりを握りしめて、願いを込める。
――お願い待って!!
次の瞬間、私はまた不思議な空間に飛ばされていた。
『ニーナ・アンワース! お前もあいつの味方なのか!?』
守護聖獣のフェンリルが、怒りに満ちた瞳で睨みつけていた。




