3話 ギャレット様
「ふ……ふん! 思ったよりも見る目がない奴が多いが、結局はガレンが選ばれるというわけだ。……ギャレット! お前も当然ガレンだな? それでは今回の守護聖獣の契約の儀式は……」
「いいえ、オーウェン王子。私は他の者を推薦するつもりです」
意外なギャレット様のその言葉に、聖堂中が沈黙に包まれた。
全員の視線が、ギャレット様に集まる。ギャレット様は当然、オーウェン王子の意見に従うものだと思っていた。
「お前はなにを言っている? ギャレット」
オーウェン王子が、なにかを言い含めるみたいに、ギャレット様の顔を睨みつけながら、低く、ゆっくりと言った。
「神殿長の意見に逆らう意味が分かっているのか?」
「逆らいたくない気持ちは山々なのですが……」
ギャレット様は、真ん丸な顔を真っ赤にさせて、大量に出てきた汗を忙しなく拭いている。
「私も祭祀長になってから、何度も貴族や……中には王族から、色んな圧力を掛けられてきまして。数多くの実力者たちが評価されず、この大神殿を去っていくのを見てきました。いやー……見てきたじゃない。私がそうしてきたんですな。去る者は少しでも良い環境になるよう、できる限りのことはしてきましたが」
その言葉に、部屋にいる全ての人間が息を呑む。
いつもニコニコ笑顔の裏で、ギャレット様は全部分かっていたのか。
あまりに呑気な笑顔だから、本当にその能力の差を、輝きを、分かっていないでやっているのかとすら思っていた。
「何度も目を瞑って……まあ狭い神殿の中での評価など、実力ある聖者にはいずれどうでもよくなるだろうという信頼もありましたが。……いや、違うな。自分が失脚するのが怖かった。うん、正直それですな。いやあ申し訳ない」
ずっと笑顔のままなのが、逆に怖い。
「なんのことを言っているのか知らんが、今まで貴族や王族の言いなりだったのなら、今後もそうすることだな。それこそ失脚したくなければ」
「本当にそうしたいのですが、今回は国の危機なのですよ、オーウェン王子」
「頭でもおかしくなったか、ギャレット」
聖獣様との契約が、国の危機? 本当になんのことを言っているのだろう。
ギャレット様は、私の知らないなにかを知っているのだろうか。
大鹿様の言っていたことや、アイリーンの言葉。
この国は今、普通の人が知らない間に、何かが起こっている――?
「国の滅亡か、自分の失脚か。いやあ、迷いましたよ。でも気が付いたのです。迷う必要などないことに。だってどうせ国が滅亡したら、失脚どころじゃないじゃないですか」
いやあ、はっはっはと笑うギャレット様。
その笑顔には、底知れない迫力があった。とても丸くて可愛いだなんて言っていられない。
「まあですから今回ばかりは、私は圧力に負けずニーナさんを選ぼうと思います。はい」
「なにを言っている? ニーナなんて、グウェンとの癒着でねじ込まれた無能じゃないか。全然彩聖石も光らなかった」
「いやあ、実はですね。あの光、聖なる力の光じゃなくってただの明かりの魔法なんですよ。はい。普通は魔力のない神殿長様のような方には、なにも見えないんです。見えない人にアピールするためにわざわざ光らせているんですね。あれ、最初に始めたの私なんです。いいアイデアでしょう?」
もうギャレット様以外、誰も発言しなかった。
きっとケンリックさんもルーシーも、ギャレット様のことをなにも分かっていない、実力も低いお飾りの祭祀長だと思っていたことだろう。
私も自分がそう思っていたことに気が付いた。
それが実は全て分かった上で。誤解すらも利用して、やっていたことなのか。
「私の実力で分かるのは、せいぜいガレンが私よりも下の実力だということだけ。ケンリック、ルーシー、ニーナ殿の実力は私の遥か上ということしか分かりません。ですが私には一つだけ、他の者よりも得意なことがある。夢だ」
ギャレット様の汗はもう止まっていた。
話し方も、妙にへりくだった独特のものじゃなくて、すらすらと力強いものになっている。話し方すら、彼の計算だったような気がしてきた。
「私は私の夢のお告げを信じる。今年の守護聖獣様との契約の儀式を執り行う聖者に、ニーナ・アンワースを推します」
その言葉に異をとなる者はいなかった。
そうして契約を行う聖者に私が選ばれた。




