2話 選定会議
ついに守護聖獣と契約する聖者の、選定日がやってきた。
選定試験は2か月に渡って行われたけれど、終わってみればあっという間だった。
国中の聖域の管理をしたり依頼を受けたり、大規模な治療院を運営する大神殿の重要さも分かったので、この選定試験を受けて良かったと思う。
今日は選定のため、能力検査をした時と同じ彩聖石が飾られている聖堂に、関係者全員が揃っていた。
一般人の入れない小さな聖堂に集まったのは、祭祀長のギャレット様に、四人の候補者、そして四人の筆頭魔術師に、神殿長だ。
部屋に入る際、ギャレット様が全員に制約魔法にサインするように言った。
その制約の内容は『これからこの部屋の中でした会話は、一切他の者に漏らすことはできない』というものだった。
その書類にはしつこいくらい、幾重にも厳重に魔法が掛けられていた。
これに逆らって、この部屋で話した内容を外へと漏らせる者はいないだろう。
聖者の選定の内容は、そこまでの機密事項なのかしら? 不思議に思ってギャレット様の顔を見ると、ニコニコ笑いながら「これなら皆さん忌憚ない意見を延べられるでしょう?」とのことだった。
「改めて集まる必要すらない。誰を選ぶべきかは明白だ。そうだろう? ギャレット」
全員が席に座ると同時に神殿長、オーウェン第四王子が、いきなり本題を切り出した。
「夢などという不確かなものに頼らず、実力で選ぶべきだ。私はガレンを推薦する!」
そう高らかに宣言する。
その言葉に、部屋に来てから少し不安げな表情だったガレンがホッとするのが見えた。
ガレンは私が補佐を外れて以来、貴族たちからの評判が落ちてしまったらしい。
最近ではたまに、一人で落ち込んでいる姿を見せるようになっていた。
私とすれ違っても、顔を伏せるようにして行ってしまい、もう話しかけてはこない。
大神殿に2か月いて思ったのは、ガレンはケンリックさんやルーシーには負けるけれど、それなりに実力者なのだということだ。
だから目の前の仕事をきちんとこなし、堂々としていればいいのにな、とちょっと思う。
「他の者もガレンを推すだろう!?」
オーウェン王子の呼びかけに、手を挙げたのは一人だけだった。
「私もガレンを推します。今回は治療院での治療の様子と、患者からの評判くらいでしか評価できませんが、その範囲ではガレンが一番だと思います」
土の筆頭魔術師である、リアナ・ルミナスだ。生真面目そうで好感のもてる女性。
「呆れたな。あれだけ言ったのに実際に治療するところを見なかったのか?」
「見ましたよ、ちゃんとこの目で! 治療前の患者さんの状態と、治療後の状態、しっかり自分の目で確認いたしました。何人も!」
風の筆頭魔術師であるテオドール・ヴェルハルトは、リアナの言葉にやれやれと肩をすくめてみせた。
「俺はケンリックを推す。これほど実力のある聖者は初めて見た」
「なぜだテオドール!?」
テオドールの言葉にオーウェン王子が抗議の声を上げる。
「……私は実際に自分の目で見たものだけを信じます。ケンリックほどの聖者はそうはいない。守護聖獣との契約に相応しい聖者だ」
「ありがとうございます」
テオドールの言葉を受けて、ケンリックさんがお辞儀をした。無表情ながらなんだか嬉しそうに見える。
「俺は断然ニーナちゃんだね」
今度はグウェンさんが手を挙げて発言する。
「ふっ、ついに尻尾を現したなグウェン」
しかし次の瞬間、なぜかオーウェン王子は口をぐにゃりと曲げて笑い始めた。
……グウェンさんに似た顔で、あまり怖い顔をしないでほしい。
「尻尾って?」
「この調査書を見ろ!」
そう言うと同時に、オーウェン王子が聖堂の床に、大量の紙をぶちまけた。
「いや、見ろって……これじゃ見えないけど」
「皆聞け! グウェン王子と候補者の一人ニーナは、なんと以前からつながりがあった! グウェンは選定者でありながら、個人的な癒着によって、聖者を選んだ。こんなことが許されるのか!? こんな奴がのうのうと、責任ある筆頭魔術師の地位にいて良いわけがない!!」
オーウェン王子は頬を赤く紅潮させて、興奮していた。
どうだと言わんばかりに、聖堂に集まる人たちの顔を見渡していく。
「え、いやそりゃニーナちゃんとは友達だけど。なんかダメなの?」
「ダメに決まっている!」
「なにを根拠に?」
「はあ!? ……あ……あ……ギャレット! どうなんだ!?」
思った展開と違ったようで、オーウェン王子がギャレット様に助けを求める。
「特に選定者と候補者が知り合いでも構いませんな。それを言ってしまうと、私や神殿長様はニーナ殿以外の聖者たちと、何年も前からの知り合いということになってしまいます」
「いやそれは……しかしこいつらは……!」
「私もニーナを推そう」
まだ何かを言おうとしているオーウェン王子の言葉を遮ったのは、アイリーンだった。
「それはおかしい!」
それに対して瞬時に異を唱えたのは、ガレンだった。
「さすがにおかしいと思います、アイリーン様」
「どうしてそう思うガレン?」
「水の筆頭魔術師様の選定試験の際、ニーナはほとんどなにもしていませんでした。まだケンリックやルーシーを選ぶなら納得できますが、さすがにこれは……」
「あの池の浄化だけ見ても、私はニーナを選んだだろうが……そもそもニーナ以外は私の試験で脱落している」
「……なぜですか?」
思わずと言ったように声を上げたのはルーシーだった。
脱落と聞いて、黙っていられなかったのだろう。
「ルーシー。君は本当に聖像の浄化があれで十分だと思ったか?」
「それは……」
アイリーンの言葉に、途端に目を伏せるルーシー。
やっぱり浄化が不十分なことは、分かってはいたようだ。
「それに泉を浄化するだけして、原因を探らないことを、不思議と思わなかったか?」
「それは……思いましたが。ですがアイリーン様が……」
「私は誰かが意見をしにくるか、聖像を再び浄化しに来るかすると思って待っていた。それが私の試験だ。その試験にやってきたのがニーナ一人だった。……随分遅かったがな。凍えるかと思ったぞ」
「ご、ごめんなさい」
皆が寝静まった後、夜が更けてから泉にいったのだけど、随分アイリーンを待たせてしまっていたようだ。
もっと早い時間にいけばよかった。
「この説明で納得したか? ガレン、ルーシー」
「……はい。納得いたしました」
そう言ったのはルーシーで、ガレンは悔しそうに歯を食いしばって、下を向くだけだった。
「ふ……ふん! 思ったよりも見る目がない奴が多いが、結局はガレンが選ばれるというわけだ。……ギャレット! お前も当然ガレンだな? それでは今回の守護聖獣の契約の儀式は……」
「いいえ、オーウェン王子。私は他の者を推薦するつもりです」
意外なギャレット様のその言葉に、聖堂中が沈黙に包まれた。




