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追放聖女ニーナの下町暮らし【旧題:私は陥れられていたようです】  作者: kae
6章 選定と契約

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1話 一人での治療

 ガレンの補佐をはずれ、私一人での治療院でのお仕事が始まった。


 最初の一人目は、予想外の患者さんだった。

 貴族用の個室の治療室に入室すると同時に、わざわざ立ち上がって、腰を守りながらゆっくりと会釈をしてくれるその品のある所作。

 ガレンの補佐として最初に担当した、カーク伯爵だ。

 確かちょうど治療の効果が切れる頃だ。


「こんにちは聖女様。またお会いしましたな」

「こんにちは、カーク伯爵。その後いかがですか」

 挨拶を終えると、カーク伯爵はまたゆっくりとした動作でビロード張りの椅子座りなおす。

 お年を召していても、さすがの貫禄だ。

 前回見た時よりも、スムーズに動けているように見える。


「とても調子が良かったです。散歩もいっぱいしましたよ」

「よかった。動作も前回よりスムーズになっていますね」

 カーク伯爵はガレンを気に入って指名していたようだけど、今日は私でいいのだろうか。

 それともガレンが人気で順番が取れなかったのか。


 早速カーク伯爵の治療を開始する。

 前回押しつぶされていた骨が、少し回復している。骨の周りの筋肉も増えている。

 ……これは魔法によるものではなくて、カーク伯爵が自分で努力して得た筋肉なので、今後消えることはないだろう。

 だけどやはりすぐに完治というわけにはいかず、やはりまだ曲がり気味の腰は、骨が圧迫されて、痛みが起きる状態になってしまっている。

『光よ。天渡る風の癒しを』

 治療魔法で炎症を直す。

『光よ。聖なる泉の安らぎを』

 そして回復魔法で骨や組織の回復を促す。しばらくの間体力や免疫も向上するだろう。

「できた。それではまたしばらくの間……」

「散歩を沢山……でしょう?」

「……はい、そうです」

 言おうとしたセリフを、先に言われてしまった。

 カーク伯爵はおばあが猫ちゃんやエリックを見ている時みたいな、ものすごく優しい笑顔を向けてくれた。

 窓から暖かな日差しが差し込む部屋であることもあって、まるで自分のおじいちゃんと過ごしているような気分だ。

「やっぱり、貴方だったんですね。あれからできるだけ沢山散歩をしていくうちに、貴方がおっしゃったように少しずつ回復していくのが分かりました」

 きっと頑張って沢山歩いたのだろうことは、魔法を使わなくても見ただけで分かった。

「それで思い出したんです。前回の治療で腰の痛みが引いたのは、ガレン様が去った後だったことを。ギャレット様から、あの時に補佐をなさっていた聖女様が本日治療されるということで希望したのです」

 そうか。カーク伯爵は前回私が治療魔法を掛けたことに気が付いたから、今日私の治療を受けにきてくれたのか。


「改めてお名前をうかがってもよろしいですか」

「ニーナ・アンワースと申します」

「アンワース様! 勇者の盟友の……。おお、そうでございますか。ありがとうございました。また今後とも治療をしていただけますか?」

 下町で治療をしている時もそうだけど、こんな風に感謝をしてもらえると、とても温かい気持ちになる。

 是非これからもと言いたかったけれど、ふと私はもうすぐ行われる選定試験までしかこの大神殿にいないことを思い出した。

「申し訳ございません、カーク伯爵。私が大神殿にいるのは、あと少しの間だけなんです」

「そうですか……残念です」

 私の言葉に、カーク伯爵が途端に肩を落として残念そうにする。

「あ、でも王都の下町に住んでいるので、そちらのほうへいらしていただければ、いつでも治療いたしますよ」

 そのあまりの気の落としように、慌てて付け加えた。

「下町……ですか。あなたに治療をしていただけるのでしたら必ず訪ねます! それで下町のどちらへ伺えば?」

「下町にある宿屋、『ジャックとオリーブ亭』です!」



 最初の患者さんを見終わって、次の部屋へと移動する。

 ギャレット様には1日に3人まで治療をすると伝えているけれど、今度の患者さんはどんな人なんだろう。

 そんなことを考えながら、ふかふかの絨毯が張られた治療院の廊下を歩いていく。

 すると前のほうから、あまり会いたくない人物がやってくるのが見えた。

 ガレンだ。彼も今日、治療院の当番なのだろう。


「おいお前!?」

 さっと通り過ぎてしまおうかと思ったけれど、すれ違う瞬間にガレンに声を掛けられる。

 だけど「お前」では誰に呼びかけているのか分からないので、そのまま歩いていくことにした。

「おい! 無視するなニーナ!」

「なんですか?」

 名前を呼ばれて、仕方なく立ち止まる。

「俺の患者……お前今まで補佐だったんだから、後でお前も責任もって診ておけ!」

「なぜすか?」

 言っている意味が、よく分からない。

 しばらくガレンの補佐をやっていたからといって、なぜ補佐でなくなった今も責任を持たなくてはならないのか。

「なんでって……お前も今まで関わった患者だろう」

「ですがガレンの患者ですから。ガレンが責任を持ってください」

 ガレンだって、正真正銘聖者の能力がある。なんならケンリックさんやルーシーの次に実力がある聖者なのだ。

 私が補佐なんてしないで、ガレンが自分で治療をし、実力に見合った評価を受けるべきだ。

「失礼します」

 まだなにか言いたげなガレンを置いて、私は次の患者さんが待つ部屋へと急いだのだった。



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