3話 信じられない光景
グウェンさんたちだけが先に進み、私とルーシーさんで分かれ道のところで待っていることになった。
濡れていない岩を選んで座り、ルーシーさんと待っていること20分くらい経った頃だろうか。
入り口側の道から、何やら複数人の足音のようなものが聞こえてきた。
「これ何の音?」
暗闇に二人きりという状況が不安だからか、ルーシーさんが立ち上がって私のほうへと身を寄せてきた。
「……カルジス侯爵と兵士さんたちでしょうか」
「そんなバカな。この瘴気の中を、ガレンの浄化能力だけでここまで連れてこられるはずがない!」
私もそう思うけれど、実際にすぐそこまで足音が聞こえてきている。
立ち上がって、その姿が見えるのを待った。
「ようお二人さん。俺たちを見捨てていったくせに、お前たちも置いていかれたのか?」
「ガレン……」
それしかないと思ったものの、実際にガレンさんとカルジス侯爵、そして10人以上の兵士たちを目の当たりにして、ルーシーが絶句した。
「どうして」
「ふん、俺の実力ならこのくらいできるさ」
「さすがガレン様だ。お一人で我々を守ってくださる人格者でもあられる。次の祭祀長には是非推薦させていただきたい。……それに引き換え、能力だけあっても他者を見捨てるような聖者はいただけませんな」
カルジス侯爵がなにかを言っているけれど、私はあることに驚いて、それを聞いていなかった。
――私の聖なる力を感じる。まさか私のポーションを使っている?
ガレンさんたちが歩いてきた道から、自分の魔力と同じ波動を感じる。
そしてまさに目の前で、ガレンさんが見覚えのある瓶を傾け、ポーションを1滴落として見せた。
そのポーションは1滴で、直径2メートルくらいの範囲を浄化した。
――私が最後のポーションをカエルの王子に納品したのが1か月ほど前。このポーションは、少なくとも作ってから1か月は経ったものだわ。
王都で作っている最近のポーションは、実験の意味もあって火の魔石や水の魔石を使用した特別製だ。
濃縮した能力は効果も高いし、普通のポーションよりも使用期限も長いだろう。
でもそれも、どれくらい効果が持つかは未知数だ。
もしもこれまで浄化してきた道が、効果がきれて瘴気に覆われたら、ここまできたこの10人以上の兵士たちはどうなるのだろうか。
私とルーシーさんとガレンさんで、入口まで連れていけるか?
――無理だ。多分。
謙遜するつもりはない。自分の能力が、他の聖者に比べて高いのは、王都に来てから十分に分かった。
その上で冷静に分析する。
この人数を入口までは連れていけない。
「ガレンさん、引き返してください。今すぐ皆さんを入口まで連れていきましょう」
ポーションの効果が続いているうちに。一刻でも早く。
「なにを言っている? 俺が責任を持つと言っているだろう」
「無理です! そのポーションは、そんなに効果が続かない!!」
「なんだと?」
それまで私のことなんて見ていなかったガレンさんが、私の言葉にハッとしたように振り向いた。
「お前なぜそんなことを知っている? ……なるほど、そうか。お前も使っているのか! どおりでな!!」
「なんのことか分かりませんが、今すぐ……」
「おいルーシー。グウェン王子たちはどこへいった?」
もう私の言葉は、完全にガレンさんに届いていなかった。
「ケンリックとランスロート様を連れて、まずは左側の道へ様子を見に行きました」
「ああ、こっちの道は、この先何キロも続いている。帰ってくるのは時間がかかりそうですな」
カルジス侯爵は、さすがにこの洞窟について詳しいようだった。
「カルジス侯爵。右側の道は?」
「こちらはほんの数百メートルしかありません」
「なるほど。ではこちらのほうの道は、我々で様子を見に行きましょうか」
「ダメです! 止めてくださいガレンさん‼」
ほとんど叫ぶようにして、必死になって引き留めようとするけれど、ガレンさんとカルジス侯爵はもう歩き始めていた。
どうしてこんなことになってしまうのか、理解できなかった。
「どうしよう……」
兵士たちも、ガレンさんとカルジス侯爵の後を追って続々と歩いていく。
浄化した範囲だけで進むためにか、2人ずつ並んで歩いていくみたいだ。
この人たちに付いていく?
でも私が付いていったところで、ガレンさんたちが自分の足で引き返さない限り、なにもできない。
自分たちだけでもここで待っていて、安全を確保するべきかもしれない。
「……!?」
だけど、通り過ぎていく兵士たちの顔が恐怖に引きつっているのが、見えてしまった。
――彼らは危険だと、分かっているんだ。だったらついていかなければいいのに。
ついに全員が、右側の道へと進んでいってしまう。
「どうする? ニーナ」
隣で同じように呆然と見送っていたルーシーさんが、恐る恐る聞いてきた。
「……行くわ」
どうしても、見捨てることができなかった。
ガレンさんたちを追いかけてしばらくして、ルーシーさんも小走りで追いかけてきた。
「ルーシーさんはあそこで待っていてください。危険ですから」
そう言ったけど、ルーシーさんは私の腕をガシッと掴んだ。
「一人で待っているほうが怖いわ」
腕に触れた手は、震えていた。
ルーシーさんと腕を組むようにしてくっつきながら、ガレンさんたちの後ろをついていく。
なにも起きないことをただ願いながら。
だけどこんな状況で、無事に済むことがないことは分かっていた。
ギャーーー!!
洞窟内に、カルジス侯爵の悲鳴が鳴り響いた。




