2話 シャドウリンクス
手こずる様子のガレンさんたちを置いて、洞窟の奥へと進んでいく。
その洞窟は、入口の高さが3メートルくらいある大きなものだった。
そして奥はどこまであるのか見えないくらい、続いている。
固そうな岩でできていて頑丈そうなのはいいけれど、足場もごつごつとしていて濡れているので、滑らないように歩くのが大変だった。
普通なら人間が入れないくらい瘴気が濃い。
聖者は自分で自分に結界を張って、瘴気を退けている。
火魔法は使えても、浄化魔法は使えないグウェンさんには、何も相談する前からケンリックさんが結界を張っていた。
二人分の結界をあっさりと張れてしまうのは、ケンリックさんだからだろう。
そしてランスロートはと見ると、彼には瘴気も効かないみたいだった。勇者の末裔は魔法が効かいない体質だけど、瘴気まで効かないとは驚きだ。
「やっぱりガレンたちは着いてこないねー」
グウェンさんが後ろを振り返って、背伸びをしている。
まだ洞窟に入ってからそれほど進んでいないけれど、既に入口の光は届かない暗闇を魔法で照らしていた。
相当序盤で躓いたらしく、ガレンさんたちは影も形も見えなかった。
「当然です。この場合、ガレンの試験はどうなるのですか」
涼しい顔で結界を張っているルーシーがグウェンさんに質問する。
ガレンさんが来なくても魔獣退治には影響はないけれど、選定試験には困るだろう。
「うーん。魔獣退治じゃなくて、後日追試で治療院に見に行って選定してもいいけど……」
グウェンさんの言葉がそれで途切れたのは、洞窟の奥から何者かの気配がしたからだ。
ギャッ!!
前方はかなり警戒していたはずなのに、いきなり上のほうから獣の悲鳴のようなものが聞こえて、ドサリとなにかが地面に落ちる。
すぐ近くにいたルーシーさんが、驚いて飛びのく。
どうやら音もなく忍び寄ってきていたところを、ランスが剣で地面に叩きつけたみたいだ。
「シャドウリンクスか。襲ってくる時、音もしなかった。こいつは強敵だ」
その魔獣を見て、即座にグウェンさんがなにものかを言い当てる。
シャドウリンクスーーネコ科の魔獣で、その牙には毒を持っている。
身体能力が高くて、3~4メートルは簡単にジャンプする。
谷底や洞窟など、暗い森を好んで群れで行動する獰猛で狡猾なやっかいな相手だ。
しかも毛皮も黒っぽいようで、体がよく見えない。
青白く光る眼だけが、不気味に輝いている。
『創光神イルミナよ。我らに宿りし真理の焔を呼び覚まし、その聖なる光において迷いと穢れを灼きはらわん』
グルゥゥゥ……
私とルーシーさんが戸惑っているうちに、ケンリックさんが素早く浄化の呪文を唱える。
するとシャドウリンクスが、苦しむように呻いて消えていった。
「おお、ケンリックくんナイス!」
「ありがとうございます」
グウェンさんに褒められて、ケンリックさんが優雅にお辞儀をした。
落ち着いた素早い対応だった。
魔獣が出没することは多くはないけれど、たまにある。
手ごわい魔獣には大神殿の聖者が呼ばれて退治することになるので、ケンリックさんは魔獣退治に慣れているのかもしれない。
そのまま更に歩みを進めていく。たまにシャドウリンクスが現れるので、私とルーシーさんも1匹ずつ浄化した。
いつの間にか、グウェンさんとケンリックさん、そしてランスが先頭を歩き、私とルーシーさんが後ろをついていく形に落ち着いていた。
シャドウリンクスが現れると、ランスが剣で注意を引いたところを聖者が浄化魔法を掛けるのだ。
この方法はとてもうまくいっていた。
「順調ですね」
「順調だけど……シャドウリンクスって、本来群れで行動するはずの魔獣だよね」
「そうですね。今まで出会ったシャドウリンクスたちは、すべて個別に襲ってきました」
「見張りだったのかな。だとしたら群れを見つけ出して叩かないとなー」
先頭をあるくグウェンさんとケンリックさんが相談をしている。
さらに歩き続けると、先が分かれ道になっていた。
「……どうしよう」
グウェンさんが立ち止まる。
「全員で一つずつ調べていく?」
「……この先も分かれ道があるかもしれませんね。どれだけ道が続いているかも分かりません」
「そうだよね。……一人ぐらい、道案内にカルジス侯爵の兵を連れてきたらよかったかな」
グウェンさんとケンリックさんは、どうやら相性が良いみたいだ。
ケンリックさんの実力に、グウェンさんが気が付いているんだろう。
「ルーシーとニーナにはここで休憩していてもらって、体力のある我々だけでスピードを上げて様子を見に行きませんか。群れを見つけたら、慎重に引き返してルーシーとニーナと合流する」
「うーん。そのほうが早いだろうけど」
「ガレンも、兵たちを連れてこれないと分かったら、一人で進んでくるかもしれません。ルーシーたちにここで待っていてもらいましょう」
ケンリックさんのその提案は、この状況では一番良い案に思えた。




