1話 カルジス領への遠征
春祭りが終わってすぐに、また遠征にでることになった。
今度の遠征の内容は、カルジス領にある大きな洞窟に魔獣が棲みついているのでなんとかしてほしいというものだった。
神話の時代に退治されたと言われている魔獣だけど、根絶されたわけでなくて現代でも普通に存在する。
英雄によって退治されたとされる魔獣は、人間などが適うはずもない、超越した神に等しい存在だったといわれている。
でも今は弱体化して、空気の穢れた空間に発生するくらいになっている。
魔獣は普通の剣では倒せない。
剣で退けることはできるが、傷を負わせることができるのは魔術師か聖者だけなのだ。
「本日は我が領のためにお運びいただきありがとうございます。グウェン王子、聖者様方」
「どういたしまして~」
カルジス領の領主である、カルジス侯爵が自ら、魔獣が出没するという洞窟の前まで案内をしてくれた。
侯爵は、護衛に何人かの兵士たちもつれて来ていて、本人も鎧を着ていた。
綺麗に磨いてあるものの、ところどころに傷があり、使い込まれている鎧なことが分かる。
今回の遠征についてきている魔術師は、なんとグウェンさんだった。
グウェンさんが胸に手を添えて頭を下げるカルジス侯爵に対して軽く頷いてみせた。
忘れがちだけど、こういう時にグウェンさんって本当に王子様なんだなと思う。
グウェンさんは一人で来たわけではなくて、アイリーンの時みたいに『お付きの者』を連れてきていた。
そしてグウェンさんと一緒に来ている『お付きの者』が、私は先ほどから気になって仕方がなかった。
「ランスロート・ドレスディア様も、ようこそお越しくださいました。勇者の末裔であるドレスディア様にいらしていただけるなんて心強い」
「従兄のグウェン王子の頼みですから」
「素晴らしい!」
そう。なぜかランスが、この遠征に着いてきているのだ。
グウェンさんが遠征に行くと聞いて、最初に同行を申し出たのはランスのほうらしい。
――ランスは魔法が使えないけど、魔獣退治に着いてきて大丈夫かしら。
それを考えると、カルジス侯爵やその兵士さんたちのことも心配だ。
いくら人数がいても、直接魔獣を攻撃できるのはこの場で候補者の聖者四人と、グウェンさんだけだ。
「それでは洞窟の中へ参りましょう。お恥ずかしい話、瘴気が酷くて私たちだけでは奥まで入ることすらできないのです。皆様がいらしてくれて、本当にありがたい」
「すみませんがカルジス侯爵。案内はここまでで結構です」
思い切って申し出る。
これほどの人数が、魔獣が発生しているという洞窟内に入るのは危険だ。
少人数だけなら自分たちの周りの空気だけ浄化すれば済むけれど、これだけの大人数が洞窟に入るなら、洞窟全体を浄化する必要がでてきてしまう。
今回の目的は洞窟の浄化ではなくて、魔獣の退治だ。それほど浄化に手は裂けない。
それに剣でも戦えるとは言っても、こちらからのダメージを与えられないのは想像以上に危険なはず。
特にカルジス侯爵は、ここで待っていてもらいたい。
「……確かにとどめを刺すことはできませんが、戦うことはできる。ご心配いりませんよ、聖女様」
でもカルジス侯爵は、納得しがたいという表情だ。
「瘴気もあるなら、なおさら危険です。申し訳ございませんが……」
「いいですよ、カルジス侯爵。私が瘴気を浄化しますので、ご安心ください」
「おお! あなたは確かノックス伯爵家の……」
「ガレンと申します。お見知りおきを」
話の途中に、ガレンさんが割り込んでくる。
しかもその提案の内容が、信じられないものだった。
状況が把握できていないのだろうか? この洞窟は、とてもガレンさんの実力で浄化しきれる大きさじゃない。
「いやあ、その心意気、なかなかできることではございません。素晴らしいですガレン様」
カルジス侯爵に褒められて、ガレンさんは得意げに頷いた。
「そういうことで、よろしいですねグウェン王子」
「いや全然よろしくないけど」
カルジス侯爵がこの場の責任者であるグウェンさんに確認すると、きっぱりと断ってくれたのでほっとした。
「正直君たちがついて来ても足手まといだよ。命の保証もできない。待っていてくれ」
「もとより覚悟の上です!」
食い下がるカルジス侯爵。
カルジス領はアレフさんの出身の領で、以前聞いたことがある。
領主様は侯爵でありながらとても強く勇敢で、有事には自ら先頭にたって兵を率いるのだと。
……先頭に立つのだけが勇気ではないのに。
「お願いいたします、グウェン王子。我々も必ずや皆様をお守りし、お役にたってみせます」
「はあー。そう言われてもなー」
グウェンさんは呆れたような顔で、ため息をつくと。
「じゃあ後ろのほうついてくるだけね。ガレンとやら、責任もってこいつらの分、浄化しろよ」
と折れたのだった。
『いいんですか、グウェンさん』
小声でグウェンさんに尋ねる。カルジス侯爵たちが付いてくる危険性を、グウェンさんなら十分に認識しているはずだ。
『ニーナちゃんは放っておいていいよ。浄化に手を貸す必要もない。……そうしたらどうせ付いてこれなくなるから』
『ああ、そうですね』
そうか。私たちが手を貸さなかったら、そもそも付いてこれないのか。
カルジス侯爵は全く引く気がないので、言い争うよりも実際にやってみて、自分で気が付いたほうがいいということなのだろう。




