3話 決勝
ランスと『ブラック』の試合が始まった。
ガキン!!
開始早々、またいつ動いたのか分からないうちに、ランスがブラックの剣を打っていた。
しかし先ほどの相手とは違うのが、ブラックが剣を落とさなかったことだ。
打ち返したわけではない。力を受け流して、軌道を逸らせた感じだ。
ランスは一撃で終わると思っていたみたいで、少しだけ驚いているのが私には分かった。
無表情に見えるけど、あれは絶対にちょっと拗ねている顔だ。
と思ったら、次の瞬間にはまた鋭い剣が飛ぶけれど、ブラックはそれも受け流す。
ブラックがアクロバットをする暇がないくらい、次々とランスの剣が繰り出される。
一撃ごとに、すごい音が鳴っている。
結局はブラックが剣を落としてしまう。
随分長い間粘った気がする。動きが速すぎて何回打ち合ったのかなんて、もはや分からなかった。
うわーー!! すげえ!
よく頑張った軽業師のにーちゃん!!
観客たちも大盛り上がりだ。
ブラックは観客たちの歓声に答えてお辞儀をすると、最後に連続宙返りを披露して見せた。
これで剣術試合の決勝は、ランス対オルドの対決になった。
「それではこれから決勝戦を始めます! 決勝に進出した選手はこの二人! まずは三年連続の大会優勝者、冒険者オルド!!」
オルドー! 勝ってくれ!!まさか本当に勇者が出てくると思わなくって、全財産お前に賭けちまった!!
声の大きな、随分熱心なファンがいると思ったら、その声援の思わぬ内容に会場中が笑いに包まれる。
オルドさんも、思わずといった感じに苦笑している。
強面だけど、笑うと意外と優しそうだ。
「そして対戦相手はもちろんこの人! 勇者の末裔、ランスロート・ドレスディアだー!!」
頑張れよ勇者様―!!
オルドに負けないくらい、応援の声が湧き上がる。
私も応援しようかなと思ったものの、こういった場に慣れていないので、大声を出す勇気がでない。
結局応援の気持ちを込めて手を振ったら、ランスが気づいて、少し表情を緩ませて手を振り返してくれた。
キ、キャーーー!! 素敵!
こちらを見て笑ったわ!
と思ったら、周辺から女性たちの悲鳴が巻き起こる。
「それでは泣いても笑ってもこれが最後の試合です! はじめ!」
開始の合図とともに、激しい打ち合いが始まる。
これまでの試合、ランスが攻撃して相手は耐えるか受け流していたけれど、オルドは逆にランスに対してもガンガン打って出ている。
大きい身体は一見重そうなのに、動きはとっても素早い。
対してランスはもちろん守備に回るなんてことはない。より一層打ってでるので、激しさは増すばかりだ。
ガキン!
剣が宙を舞う。オルドの剣だ。
それで私は、息を止めていたことに気が付いた。息を止めていられる間、時間にしては1分くらいだろうけれど、それが永遠に感じるくらいの緊張感だった。
うおーーーー! すごい試合だったぜ!
ありがとうな、二人とも!
おめでとうございますランスロート様!
会場が爆発したのかと思うほどの歓声。
これだけの音だったら、もしかしたら下町の皆にも届いているんじゃないだろうか。
「今年の優勝者はランスロート・ドレスディアだーー!」
「優勝賞品は毎年おなじみ、贈った女性と必ず結ばれるという想花石をあしらった特別製の花冠です! 効果はいかがでしたか、昨年度まで3回連続優勝者のオルドさん!」
司会の人が水を向けると、オルドが肩をすくめて見せて、また会場が笑いに包まれた。
「それでは優勝賞品をどうぞ」
――わあ、綺麗な花冠。
ランスが受け取った花冠は、基本的には薄い緑色やピンクの花で編まれていて、意外なくらいシンプルだ。
だけどその中心にある濃いピンク色の宝石が、まるで大輪の花のように美しかった。
◇◇◇
剣技大会を見物していた観客たちの中に、ある一組のカップルがいた。
男性は蜂蜜色の長い髪を横に結んで垂らしている、なかなかの美丈夫だ。30歳くらいだろうか。
普通のシャツにパンツ姿だが、鮮やかなコバルトグリーンの腰布――サッシュが目を引いている。
女性のほうはレモンイエローの春らしいワンピースに、繊細な絹のショールを羽織り、日に焼けないように日傘をさしている。
その立ち居振る舞いからみて、貴族令嬢だろう。
有料席には貴族も大勢いるので、特段珍しいことでもなかった。
「あら、残念。弟が負けてしまったわ。剣の先生には褒められていたけれど、やっぱり外の世界は厳しいのね。相手は用心棒ですって」
「決勝に出場できるなんて、素晴らしいじゃないですか。こんな挑戦、誰にでもできることじゃない」
「ありがとうございます、ケンリック様」
どうやら明らかに貴族のお忍びといった出で立ちの、華美な剣の持ち主が彼女の弟だったらしい。
「それじゃあ、弟も負けてしまったことですし、行きましょうか」
「試合を最後まで見ていかないのですか?」
「私、騒がしいところは好きではないわ。お気に入りのカフェがあるの。行きましょう」
「かしこまりました」
会場中が盛り上がる中、二人はさっさと外へと出てしまう。
待たせていた馬車に乗って二人が向かった先は、貴族に人気のカフェだった。
入ってみればやはりほとんどの客が貴族で、お祭りの影響か、店内は浮わついた雰囲気だった。
「やだ、ケンリック様。このお店でその恰好は、あまり相応しくないのではないかしら」
「……今日は春祭りへ行くとうかがっておりましたので」
「まさか平民たちのお祭りへ行くとでも思ったの? ジャケットくらい持ってきていただかないと。本当なら私、お友達のガーデンパーティーにお呼ばれいたのに。お父様が無理やり、春祭りはケンリック様とデートしなさいだなんて……」
ケンリックが店内に素早く目を走らせると、祭りの日だからかラフで動きやすい格好の貴族も何人かいた。
しかしケンリックはそのことを口にしなかった。
「大変失礼いたしました。今度からは常にジャケットを着用してきます」
「あーあ。優秀な聖者らしいけれど、しょせんは平民出身でしょう? 私たち趣味が合わないんじゃないかしら。本当に結婚しなくてはならないのかしら。ねえ?」
「どうでしょう」
女性に何を言われても、ケンリックは穏やかに微笑み続けていた。




