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追放聖女ニーナの下町暮らし【旧題:私は陥れられていたようです】  作者: kae
4章 春祭り

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1話 春祭り

「いらっしゃいませー」

「ニーナちゃん、パンとワイン、二つずつちょうだい!」

「はい! ただいま」


 今日はコルベ王国の春祭り。

 春祭りとは厳しい冬が終わったことを祝い、今年の作物の豊穣を祈るお祭りだ。

国中色んな場所で開催されている。

 神殿の長期にわたる選定試験も、春祭りにはお休みになるので、私は下町に一時的に戻ってきていた。

 この下町でも、色んなお店が屋台を出したり、広場で若者たちが踊ったりと、ささやかなお祭りを楽しんでいた。

 ジャックとオリーブ亭では、アレフさんが急遽作った、テーブルに布の屋根を張っただけの屋台で食べ物を売っている。

 魚のソテーを挟んで片手で食べられるパンとワインだけのシンプルなメニューだけど、先ほどから飛ぶように売れていた。


「ベルさん! ワインおかわり」

「はいよー」

 ベルさんはなんと、エリックを抱き布に包んで抱っこしながら店に出ている。

 賑やかなのが大好きなエリックは、ずーっとご機嫌でニコニコしっぱなしだ。

 ちょっとだけ休憩できるようにと出してあるテーブルでは、おばあが座って近所の人たちとおしゃべりに花を咲かせている。


「今まで春祭りは人手が足りなくって屋台なんて出したことなかったけど、こんなに売れるんなら毎年出しておけばよかった。来年はもっと商品を増やそうかしら」

「そうですねベルさん。ジャックとオリーブ亭特製のウインナーやチーズは売っていないのかって、何度も聞かれましたから」

 お祭りの喧騒に負けないようにと、大きな声を出す。


 私が故郷にいた時は、ドレスディア伯爵家で開かれるパーティーに参加したりしたけれど、自分がお店側になって参加するのも、とっても楽しかった。

 ついつい、来年は何を売ればいいかなんて、今から考えてしまう。

 ウインナーやチーズもいいけど、甘いものを欲しがる子どもも多いから、焼きリンゴか蜂蜜パンを売ってもいいかもしれない。


 春祭りは恋のお祭りでもあるので、特に女性はほとんどが色とりどりの花冠をかぶっていた。

 この花冠は、家族や恋人、友人に贈る習慣があるけれど、若い独身女性は大抵が意中の男性から贈ってもらうものらしい。


「あっ」

 ジャックとオリーブ亭の目の前で、5~6歳くらいの小さな女の子が転んでしまった。

 幸いしっかりと地面に手をついて転んだので大きな怪我はなさそうだけど、頭にかぶっていた可愛らしい花冠が、地面に落ちてしまう。

「おっとゴメンよ」

 そして運の悪いことに、通りかかった人に踏まれてしまったではないか。

「ああっ、そんな……」

「大丈夫? こっちにおいで」

 踏まれてしまった花冠を見て泣きそうになっている女の子を、人が通らないテーブルの辺りへと誘導する。

「服は……大丈夫そうだね、よかった」

 上手に転んだみたいで、ちょっと土ぼこりがついただけの服は、手ではたけばすぐに綺麗になった。

「でも花冠が……せっかくマテオにもらったのに」

「マテオ君に?」

 マテオ君といえば、ジャックとオリーブ亭のご近所さん。会えば必ず挨拶をしてくれる、礼儀正しい男の子だ。

 よく見れば女の子の花冠は、花屋さんでそのまま売っているようなものではなくって、頑張って手作りしたような少し不格好な部分があった。

 もしかしたら、マテオ君が頑張って手作りしたものかもしれない。

 ――これはなんとかしないと。

踏まれたのは一部だけなので、修正できるだろうか。


 ――『光よ。聖なる泉の安らぎを』


 心の中で、密かに回復魔法を唱えると、つぶれた花の大部分が元気に回復した。

「よく見てごらん。完全に折れちゃっている花を一つか二つ引き抜いたら、大丈夫そうだよ」

「本当だ!」

 涙目になっていた女の子が、途端に顔を輝かせて、花冠を直し始める。

 完全にダメなお花だけを抜き取り、残りの花の茎をキュッキュと引っ張って、隙間を詰める。

「できた! ありがとうお姉さん」

「どういたしまして」

 嬉しそうに走っていく女の子の後姿を見送る。

 実は花冠に回復魔法をかけるとき、追加でこっそりと祝福の魔法もかけておいた。

 あの子に今日これから、ちょっと良いことがありますように。


「花冠に魔法をかけるなんて、ニーナちゃんらしいねぇ」

「今日はおめでたい、春祭りですから」

 呪文は唱えていないのに、おばあには回復魔法をかけたことが分かってしまったらしい。

 でも祝福の魔法をかけたことまでは、バレていないと思う。


「パンの追加できたぞー、これで最後だ。いっぱい用意したのに、まさかこんなに売れるなんてなぁ」

 朝から料理をしつづけて、疲れた様子のアレフさんが、お盆いっぱいに乗せた追加のパンを持って宿から出てくる。

 まだお昼にもなっていないのに、ワインも売り切れる寸前だ。


「ニーナちゃんは、ランスロートとデートするんだろう? ここはもうすぐ売り切れるから、そうしたら行っていいよ」

「ありがとうございます、ベルさん」

 今日は日中、屋台を手伝うつもりだったから、ランスとは夜にダンス会場へ一緒に行く約束をしていた。

「ランスロートは、剣技大会に出るんだっけ。ものすごく強いんだろう?」

「そうなんです。是非出てくれって主催者の方に頼まれたみたいで」

 身分に関係なく参加可能な剣技大会は、毎年多くの人が参加するらしい。

 ただの町の力自慢もいれば、アレフさんみたいな経験者もいたり、たまに貴族まで混ざっていて、文字通りお祭り騒ぎなのだそうだ。

 ランスが参加すれば更に大盛り上がり間違いなしだと、主催者の人が以前からわざわざ宿まできて何度も参加してくれと頼みにきていた。

 目論見通り、ランスの参加が決まると挑戦してみたいという人たちで、事前に参加希望者が殺到していたらしい。


「応援しにいこうかな」

「いいんじゃないかい? ニーナちゃんが見ていたら、きっとランスロートも張り切るよ」


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