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追放聖女ニーナの下町暮らし【旧題:私は陥れられていたようです】  作者: kae
3章 聖なる泉

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2話 風の魔術師 土の魔術師

「なるほど。それではその、ガレンという聖者の治療がとても良かったんですね」

「はい、リアナ筆頭魔術師様」

 背の高い、茶色がかった黒髪の女性が、ふむふむと何かをメモしている。

 清楚な白いブラウスのボタンを、しっかり上まで留めている真面目そうなこの女性は土の筆頭魔術師のリアナ・ルミナスだ。

「聞き込みによれば、ガレンという聖者の治療の評判が、群を抜いていいみたいですね」

「私は何度も大神殿に治療していただきに来ております。ケンリック様やルーシー様に治療していただいたこともございますが、正直申し上げて、ガレン様の治療は今まで感じたことのないほど素晴らしいものでした。まるで自分が若者の頃に戻ったかと思うほどです」

「そうなんですね。参考になります、ありがとうございました」

 リアナのノートには、候補者の聖者の情報が、既にびっしりと書き込まれていた。

 


「そんな聞き込みになんの意味がある。実際に治療している様子を見れば、実力など一発で分かるだろう」

 リアナが部屋を出ると同時に、それまで隣で大人しくやり取りを聞いていた人物が呆れたように言った。

「現にこれほど役に立つ情報を得られたじゃないですかテオドール……」

 テオドールと呼ばれたのは、プライドの高そうな金髪の男性。

 ピシリと整えられた金髪に、ほれぼれとするほど美しい姿勢。腰に剣を佩いている様子は貴公子然としていて、誰が見ても一目で貴族出身と分かるだろう。

 そんな彼もなんと風の筆頭魔術師だった。貴族であるヴェルハルト侯爵家の出身だ。

「俺は人の話よりも、自分の目を信じるものでな」

「一人や二人なら、勘違いもあるでしょうが、これほどの人数が相談もなしに、同じ証言をしている。これは立派な判断材料ですよ。それに私たちは試験のスケジュール的に、候補者たちの遠征にはついていけないですからね。治療院で治療するところくらいでしか判断できない。それでは候補者たちの選定で、差をつけるのが難しい。判断材料は多ければ多いほどいいでしょう」

「君とは意見が全く合わないようだ」

「そのようですね!」

「いや……あの……」


 二人の言い争いに、治療院の中を案内していた白い聖衣の見習い聖女が、困ったような声を上げる。

「大変失礼いたしました。ミレイユさん……でしたね。お時間いただきありがとうございました」

 すかさずリアナが、若い聖女を気遣う。

「あ、いえ。とんでもございません」

 その優しい微笑みに、若くて素朴な可愛らしい見習い聖女の頬が、ピンク色に染まった。

「ビックリさせちゃいましたね、すみません。彼とは議論をしているだけなので、気にしないでくださいミレイユさん。患者さんのお話を聞きたいだなんて我儘に対応していただいて、ありがとうございます」

「は、はい! どういたしましてリアナ様」

 背の高いリアナが目線を合わせるように顔を近づけてニコリと笑うと、見習い聖女はますます頬を赤くする。


 なにせこの国に四人しかいない筆頭魔術師の一人。国民の憧れの女性と言ってもいい人物が、これほど間近で可愛らしく笑うのだから、無理もなかった。

「それですみませんが……今日の治療時間はもう終わっておりまして」

「ああ、分かっている。また空き時間ができたら、訪ねさせてもらう」

 先ほどリアナと言い争っていたテオドールも、聖女に対しては紳士的に振舞っている。

「またいつでもお声がけください」

「ありがとう、ミレイユさん」

 そして優しく美人な、お姉さんのような土の魔術師。

 ただの見習い聖女に対して、こんなに親切にしてくれるだなんて、筆頭魔術師とは人格者なのだなとミレイユは思った。

 それではまた、お願いいたしますと爽やかに、二人の魔術師は大神殿から去っていった。



「今日はミレイユが筆頭魔術師様方の案内係だったの?」

「ええ、そうよ」

「いいな~。今の筆頭魔術師様達って、皆様とっても素敵よね」

 見送ったミレイユを見かけた同期の見習い聖女が、駆け寄ってくる。

「そうよね。風の筆頭魔術師様は本物の貴公子様だし。あんなに格好いい貴族、治療院でも見かけたことないわ」

「そうそう。それに土の筆頭魔術師様は、優しいけど凛々しくって、理想のお姉さまっていう感じ。でもね……」

「ねえ……」

 楽しそうに話す二人の少女は、そこで言葉を止めて顔を見合わす。

「なぜあのお二人が揃うと、いつも喧嘩ばかりされているのかしら」

「ねえ。あんなにお優しい方たちなのに、いつも反対のご意見ばかり。相性が悪いのかしらね」


 そんなことを噂されているとは知らない二人は、懲りずにまた喧嘩をしながら、一緒に王宮のほうへと歩いていくのだった。


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